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第8話  オレクの過去


 皆が食べ終わると、ネイサは食べた後片付けをしながらロロと楽しそうに話していた。そこから少し離れたところで、カイはオレクにソルネに聞いたティーシャの最期を教えた。


 このことはオレクにしか言うつもりはなかった。ネイサに話したら、きっとネイサは泣くだろうと思った。カイはネイサの涙は見たくなかった。


「そうだったのか……」


 オレクはカイを見つめ、とても悲しそうだった。


「ああ……」


 カイはまた涙目になっていた。するとオレクはカイの肩に手を置き、ぎゅっと掴んだ。カイはそれだけでオレクが言わんとしていることがわかり、力強くうなずいた。


「でも、ソルネばあちゃんに誰にも言うなって言われたんだろ?いいのか?」


 ソルネのことをよく知っているオレクは不安そうにカイを見た。


「オレクとネイサは『誰にも』の中に入ってないよ。ばあちゃんも、それはわかってる」


「ちょっと~!!また2人でなにコソコソ話してるの!?私にも教えてよ~!」


 振り向くと、ネイサは膨れ面になっていた。


「まぁ、男同士の話だよ!ねぇ、ロロ!銃見せて!」


 カイは誤魔化すようにロロに言った。ロロにはすべてお見通しだったのか、意味深な笑みを浮かべながらも銃を出してくれた。


「やっぱり、かっこいいなぁ~!」


 オレクは興奮しながら目を輝かせていた。


「なぁ、カイ、ロロ様に魔物の話、してもらわないか?」


 オレクの言葉にカイは驚いた。しかしカイは、オレクと目を合わせ、ゆっくりとうなずいた。そして、真剣な眼差しでロロを見つめた。


「ねぇ、ロロ!魔物のこと、教えて!」


 オレクは10年前にゾルダ村にきた。2歳の時に村を魔物に襲われ、父を殺されていた。カイも母を殺されていたが、オレクとは状況が違った。オレクは今でも鮮明に父が殺された時のことを覚えているという。カイはこの話をしている時のオレクの顔が忘れられなかった。必死に涙をこらえながら教えてくれた。オレクには辛いことだとわかっていたから、ロロに魔物とはどういうものなのか聞いたことがなかった。2人はいつも一緒にいたし、オレクを想うと魔物のことを聞かなくてもいいと思っていた。


 ロロは真剣な顔でオレクを見つめた。そして、すべてわかっているというように、オレクの髪をぐしゃぐしゃとするようになでた。


「よし!いいか、少しでも魔物の知識はあったほうがいい」

 

 ロロは3人の前に座り直した。3人も正座になり、ひとつも聞き逃がすまいと身を乗り出した。


「魔物は本当にいろんなやつがいる。5mはある巨大な芋虫だったり、目が100個はある丸い魔物だったりな。でも一番危険なのは『ザイル』という人型の魔物だ。見た目は人間そのものだが、あいつらの力は半端じゃない。『セラフ』でも苦戦する魔物だ」


「そんなの、人とどうやって見分けるの?」


 カイが驚いて聞いた。


「それは簡単さ。目だ。あいつらの目は鮮やかな紫なんだよ。それに人型は見たらすぐにわかる。明らかに人間じゃない、不気味な雰囲気があるんだ」


「ロロ様もそいつと戦ったの?」


 今度はオレクが聞いた。


「いや、『セラフ』が戦っているのを見たことがあるだけだ。彼らの戦いはとてつもないスピードでな。当時『アンゲロス』だった俺では目で追うのがやっとだった」


「そうなの!?」


 ネイサが驚きの声を上げた。


「ああ、俺もまだまだだったからなぁ。あとな、魔物にも階級があるんだ。最初の攻撃を仕掛けてくるのは下級の魔物だ。下級の魔物は生き物ならなんでも攻撃してくる。そして、それらを取りまとめているのが『ザイル』だ。だけど、『ザイル』がいない時でも魔物は統率された動きをしてくることが多々あるんだ。だから、下級の魔物と『ザイル』の間に、知能がある魔物がいると言われているんだが、人型以外の魔物はどれも同じに見えて、区別がつけられないんだ」


「そうなんだぁ」


 カイはふとオレクを見た。オレクはとてもツラそうにしながらもしっかりロロを見つめていた。


「俺は神碧シンペキの森での戦いは経験しているが、村に対しての攻撃はどういうものなのか経験がない。だからお前たちに言えることは、もし魔物が村を襲ってきて自分の目の前に現れた時、自分とは反対側にまず何か投げろ。下級の魔物にも目はあるが知能は低いんだ。音のするほうをすぐに見る。その間に、できるだけ静かにとにかくその場を離れるんだ!最初に攻撃してくる魔物にはこの方法が効くはずだ」


「そんなんでいいの?」


 カイはなんだかあっけない答えで気が抜けてしまった。


 ロロは暗い顔でうつむいた。


「……ああ。それしかすることができないんだ。我々人間の魔力は弱い。とてもじゃないが、武器の持たない人の魔力では、下級の魔物にだって傷一つ与えることはできないんだ…。前線で王都が戦っているのは知っているな?今この時にもエンジェル達は戦い、死んでいるだろう。そうなると村を守るエンジェルの数も減っていく。次々と村が襲われ、人々が殺されているんだ……」


 カイとオレクは神妙な顔になり、ネイサは目に涙を溜めていた。


「森を突破された時からこの繰り返しだ…。我々人間の生き残るすべはもうないかもしれない。しかし、ただ黙って立っているだけではダメなんだ。恐怖に打ち勝ち、行動を起こさないと殺されてしまう。足掻き、もがいて、生き残るんだ。生き残れば道が開けるかもしれない。お前たちの存在は我々の希望なんだよ。お願いだから、お前たちはなんとしても生き残るんだ」


 ロロの熱くも悲しみがこもった目を見つめ、カイは心がとても痛かった。でもカイは、エンジェルになることを更に強く願った。


 オレクを見ると、オレクの目もカイと同じように燃えていた。カイはとても心強く、嬉しかった。


「大丈夫だよ、ロロ!俺たちはエンジェルになるんだ!!絶対にみんなを守ってみせる!!!」


 カイは胸を張り言った。


 ロロは微笑んだが、その顔は喜んでいるようには見えなかった。


「そうか、エンジェルか。嬉しいが、複雑だな。生き残ってほしいとは言ったが、エンジェルは、な……」 


「なんだよ!」


「いや、エンジェルになりたいってソルネさんに言ったか?」


 カイは唇を噛みしめ、うつむいた。


「反対されただろう?俺は、お前たちの未来は、明るく穏やかなものであってほしい。そのためにも俺は俺にできることを精一杯やる。お前たちが魔物なんかに脅かされない未来のためなら、俺はなんだってやるつもりだ」


 ロロの瞳は熱く静かに燃えていた。


「でも!エンジェルになる人がいなかったらどうするんだよ!というか、武器がないと戦えないなら村に武器を配ればいいじゃないか!」


 カイの言葉にロロは戸惑うように頬をかいた。


「エンジェルの武器はな、扱える人間が限られているんだ。誰しもが使えるわけじゃない。それに、エンジェルになるだけがすべてじゃないだろう?それはお前たちもよくわかっているはずだ」


「俺は……」


 オレクが静かに話し出した。皆がオレクを見つめた。


「俺は、父さんみたいな人を守りたいんだ。父さんは、魔物が近づいてきているのを知っていた。でも、逃げることができなかったんだ。自分たちがいなくなったら、エンジェル達の身の回りはどうするんだ、少しでも作物の収穫をして戦いに備えなければって。エンジェルがいなくなったらどこに逃げたって同じことだって、いつも言ってた…。お前は馬鹿だって、畑を捨てる人に言われていたのを見たことがある。でも、父さんは強いんだ!すごく強かったんだ!人間界のために、父さんは頑張ったんだ!」


 この時、オレクの目から涙がこぼれた。カイはオレクの涙を初めて見た。


「だから、もし俺の魔力がエンジェルに入れるほどのものだったら、俺はエンジェルになる!エンジェルになるんだ!!」


「………そうか。オレクはそこまできちんと考えていたのか。でも、一人で突っ走るのは絶対にダメだ。オレクと同じくらい、お前の母さんも辛い思いをしているんだ。エンジェルになるにしても、母さんときちんと話し合って決めるんだぞ」


 オレクは涙を服の袖でゴシゴシと拭うと、真っ赤な目でうなずいた。


「お前たちは本当に心が強い。でも、自分よがりで物事を考えてはいけないぞ。優しく、強い人間になるんだ」


 ロロはそう言うと、カイとオレクの肩に手を置いて微笑んだ。2人も嬉しそうに笑った。


「さて、そろそろ宿舎に戻らないとな。アリゼに何て言われるか」


「ロロ様、もう遅いみたいよ。アリゼ様がこっちにくるもの」


 ネイサの言葉で3人が村を見ると、ものすごい形相で丘に向かってくるアリゼが見えた。


「あぁ~、これは大変だ。俺は戻るよ。お前たちも早く村に戻るんだぞ!ここだってもう安全とは言えないんだ」


 ロロは早口で言うと、すぐに村に向かって歩き出した。そのままじっと成り行きを見守ると、カンカンに怒ったアリゼの声が聞こえてきた。ロロは頭をかきながら、黙って聞いているようだった。それを見て3人は吹き出すように笑った。


「ロロ様もアリゼ様には頭が上がらないんだなぁ」


 オレクが笑いながら言った。


「あぁ、そうみたいだな!」


 カイは草原に寝転がりながらフフッと笑った。オレクとネイサも同じように寝転がると、3人とも無言のまま、思い思いの考えに浸った。 






 ――――――そんなゾルダ村を木陰から見る黒い影があった。大きさは20センチほどで、顔の真ん中にはすべてを見透かすような大きい目。


〘ディゴル様……、ディゴル様。キキッ、ようやく、ようやく見つけた。見つけたよぉ〙




 そのテレパシーを受け、紫の瞳を持つ闇の者がニタリと笑った。




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