第6話 エンジェルの階級
気持ちのいい風を感じながら、カイは顔を上げ、真っ直ぐにロロを見つめて聞いた。ロロは本当に優しく、そばにいるだけで安心できた。
「ねぇ、ロロ。……母さんは、強かったんだよね!?」
ロロは優しく微笑むとカイの頭をぐりぐりと回すようになでた。
「ああ、強かったぞ!同じ戦場に立てたのは2回しかないが、それでもティーシャ様のあの強さは目に焼き付いている。風のように魔物の横を通り過ぎたと思ったら、その魔物が真っ二つになって崩れ落ちるんだ。ティーシャ様の通った後には、魔物の死骸がゴロゴロと転がってた」
「だよね!?そうだよ、母さんは強いんだ!」
「ああ、お前は胸を張れ。立派な人の息子だとな!それにティーシャ様はあの頃の俺たちとは強さの桁が全然違った。エンジェルにも強さの階級があるって前に言っただろ?」
「うん、聞いたよ!」
「エンジェルの階級は三段階に分かれていて、下から順番に『アンゲロス』『エクスシア』『セラフ』だ。そして俺がティーシャ様と戦いに出たときはまだ一番下の『アンゲロス』だった。だからあの時は、ティーシャ様のスピードについて行くのがやっとだったんだ。でも、今ならどうだったかなぁ」
「今のロロは『エクスシア』だもんね!」
「あぁ、その通り!そして『エクスシア』になって初めて自分の武器を持たせてもらえる」
ロロはそう言うと、腰に下げていた銃を出した。
「うわぁ~!何回見てもかっこいいなぁ!」
カイはロロに会うたびに見せてもらっていたが、本当にかっこよかった。長さは25cmくらいで、グリップは木目調、その両側には金でエンジェルの紋章が入っていた。そして、グリップから銃口にかけて、綺麗な金細工が施されていた。
「キレイだねぇ」
「そうだろう?武器にも色々あってな。弓や銃、剣や短剣、槍に斧、他にも色々あるが、まぁ、自分の好みにもよるな」
「ロロは剣も持ってるよね?」
カイはロロの腰に下がっている剣を見た。柄は金で、鞘は黒く金細工が施されていた。
「ああ。まぁ俺は銃のほうが得意だけどな」
ロロはそう言うと銃をしまった。
「ねぇ、母さんの武器は何だったの?」
「ティーシャ様はサーベルを使っておられた。戦い方もとても優雅でなぁ」
ロロは嬉しそうに話を続けた。
「ティーシャ様は少数精鋭と言われた『セラフ』だったんだ!セラフの人たちは本当に強かった。でも、ティーシャ様は下位の俺たちにも本当に優しかったんだぞ。それにすごく可憐で綺麗で、美しいとはティーシャ様のためにあるような言葉だな。エンジェル達の憧れの的だったんだ」
ロロが少し顔を赤くしながら言ったので、カイはにまっと笑いロロを横目で見た。
「なんだ、ロロ、母さんのこと好きだったんだ」
ロロは吹き出し、顔を真っ赤にしながら両手を振り回した。
「ち、違う違う!!いやいや、そういう事じゃなくて、その……」
ロロが少しずつ口ごもっていったのを聞いて、カイは大声で笑い出した。ロロは恥ずかしさを隠すように頭をかいていた。
「あっ、ほら、オレクとネイサがこっちにくるぞ!きっとお前を探してたんだな」
ロロは話題を変えようと慌てながら指をさした。カイが指さすほうを見ると、確かに2人が畑のほうからこっちに向かって走ってきていた。