第5話 ロロとのひと時
いつもの丘で1人ふけっていたカイは、エンジェルであるロロの姿が見えるとすぐに立ち上がり大きく手を振った。
「ロローー!!」
ロロも手を振り返しながら頂上まで登ってきた。
ロロは髪と瞳が茶色ですらっと背が高く、とても端正な顔立ちをしていた。
エンジェル達は皆同じ制服をきている。黒のブーツを履き、白いパンツには金のサイドストライプが入っていた。上着は白く立襟で、丈は膝まであり、袖口に金のストライプ、上着のボタンも金だった。そしてその左胸には、エンジェルの紋章が金の刺繍で入っていた。
「ふぅ~、やっと着いた。ホントここは傾斜がキツイな」
ロロは笑いながら楠木の根元に倒れるように座った。
「なんだよ、このくらい!エンジェルのくせに!」
カイがからかうように言うと、ロロはこのっとカイを抱え、くすぐった。
「どうだ、まだ言うか!?」
「あはははは!ごめん、ごめんって!もう言わないよ!」
カイがロロの腕から逃れようともがくと、ロロは手を放してくれた。
「カイ、姿が見えないと思ったらやっぱりここだったか。ソルネさんが心配してたぞ」
「……うん」
カイの様子を見たロロは察したようにカイから目線を移し、麦畑を眺めた。カイはなにをどう話せばいいのかわからず、うつむいたままだった。すると、ロロが手足を気持ち良さそうに伸ばした。
「はぁ~、俺が初めてゾルダ村にきてからもう5年か!あっという間だったなぁ」
「最初は村の人もみんな怖がってたよね。大勢のエンジェルと一緒に魔物もきたんじゃないかって」
カイは顔をあげフフッと懐かしく笑った。
「そうだったなぁ。そしてソルネさんを見つけたときは本当に驚いた!ここでお会いするとは思わなかったからなぁ。思わずティーシャ様のことを聞いてしまって、もうそこから大変だったなぁ……」
「俺は、母さんの事知ってるの!?ってロロを質問攻めにしたし、ばあちゃんは村の人からエンジェルだったのかと迫られてたしね」
「いやぁ、ソルネさんがエンジェルだったことを隠されてるとは思わなかったからなぁ」
ロロは気まずそうに頭をかいた。
「そういえばロロ!ばあちゃんのことソルネさんって呼ぶのにもだいぶ慣れたね!『もう私はエンジェルではない!ソルネ様ではなく、ソルネと呼べ!!』ってすごい剣幕だったもんね」
カイは腰に手を当てソルネのまねをして胸を張った。
「いやぁ~、あの時は恐かったなぁ~」
そのまま二人でしばらく笑いあうと、ロロはふと真剣な表情になった。
「なあ、カイ。ティーシャ様の最後を聞いたんだって?」
「うん……」
ロロの言葉にカイはうつむいた。
「そうか……。きっと、優しいままのティーシャ様で逝ったんだろうな」
ロロは寂しそうに微笑んだ。
「…ばあちゃんは、母さんが死んだ時のこと、誰にも言うなって……。なんか俺もう、わかんないよ。母さんが死んだときのことは教えてもらえたけど、まだまだ何も知らないままだ……」
カイは瞳を潤ませながらロロを見た。
「ロロは知ってたの?母さんの最後を……」
「いや、ソルネ様は何も仰らなかった。ソルネ様に再会したときに言われたのは、ティーシャ様は亡くなったという事と、カイにはソルネ様自身のことを話すなという事だけだった」
カイはうつむきぼそぼそと言った。
「ロロは絶対に、ばあちゃんの事は教えてくれないもんね」
ロロはフッと微笑むと、優しくカイの頭に手を置いた。
「ソルネ様のことだ。きっと何かお考えがあるのだろう。カイ、今は深く考えてもしょうがないさ。きっといつかすべて教えてもらえる時がくる」
「……うん」
カイは納得できないままだった。でも、ロロの優しい笑顔を見ると、きっとそうなんだと思えてきた。そして心が軽くなり、ロロの言葉を信じようと思った。
カイはニッと笑うとロロにいたずらな目を向けた。
「ロロ!ばあちゃんのこと『ソルネ様』って言ってるよ!」
「あぁ~、つい出てしまった!ソルネさんには内緒にしてくれよ!」
そして二人は笑いあい、ロロはカイが少し元気になった様子に安心したようだった。