第2話 求める過去
カイの家は密集する家々の一番外側にあった。この家では祖母のソルネと2人で暮らしていた。
家に着くと、勢いよく扉を開けカイが叫んだ。
「ただいまー!!!」
家にいたソルネは体をビクッとさせ、カイに怒鳴った。
「なんだ!ビックリする!いつももっと静かに入ってこいと言ってるのに!」
ソルネに怒られても、カイはにまっと笑い言った。
「そんなにビックリするなんて、もう歳なんじゃないの~?」
「うるさいわ!それより、ロロ様が帰ったそうだね」
カイは扉を閉め、イスに座りながら答えた。
「ああ、さっき帰ってきたよ。話はできなかったけどさ。なんか魔物の噂がどうとかで、今村長の家にいるよ」
「そうか……。カイ、お腹空いてるだろ?食事の支度をするから、かまどに火を入れてくれるかい?」
「わかった!」
カイはかまどに木を入れると、手をかざし魔力を集中させた。
すると、手の平から凄まじい炎が吹き出し、かまどの中には収まらず壁や天井にまで火がついた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
カイは驚きひっくり返った。しかし、すかさずソルネが水を繰り出し火を消し止めると、怒りで体をわなわなと震わせ怒鳴った。
「この馬鹿もんが!!家を燃やす気か!!!」
「だってさぁ……」
「だってもなにもあるか!まったく。かまどに火をいれるくらい簡単だろう!いつになったら力のコントロールができるようになるんだか…」
「だって、ばあちゃんも知ってるだろ?魔物が近くにいるかもしれないんだ!そう思うと力が入っちゃって…」
ソルネはかまどの火を見ながらため息をついた。ソルネの後ろでまだしりもちをついていたカイは、自分の手を見つめていた。
「なぁ、ばあちゃん。俺の火で魔物をやっつけられないかな」
ソルネは横目で見るように少し振り返ったが、すぐに前を見た。
「そんな火じゃ、魔物は火傷もしないだろうね」
「そっか…」
「何度も言ってるが、私たちの魔力は生活に必要な力しかないんだよ。火も水も風もね。癒しの力だって、魔力の強い者でも骨折を治すのが精一杯、瀕死のケガにはなんの効果もないんだ。私がお前の母さんを助けられなかったようにね……」
ソルネは後ろを向いたままだったが、カイにはソルネの表情が分かる気がした。
カイは父のことも母のことも何も知らない。ソルネが母を看取ったというのは何となく感じていたが、ソルネからちゃんと話を聞いたことはなかった。でもソルネは聞いても絶対に答えてくれず、機嫌悪くため息をつかれるだけだった。聞いても答えてくれないと分かっていたから、カイはいつからか聞くことをやめた。聞いてはいけないような気がして今まで口にしなかったが、意を決して口を開いた。
「ばあちゃん…、もう俺も12だよ。そろそろ…ちゃんと全部教えてくれよ。母さんは、ばあちゃんの目の前で死んだんだよね…?母さんの最後、とか、俺に父さんはいるか、とか、色々聞きたいことが、たくさんあるんだ。ロロが教えてくれなかったら、母さんがエンジェルだったってことも、俺は知らないままだった……」
ソルネはため息をつきながら振り返り、カイを見つめた。その顔はとても悲しそうだった。
「お前には何も教えないつもりだったんだがな……」
その言葉にカイはキッとソルネの目を睨み付けた。
「ばあちゃんは、母さんがエンジェルだったってことも、ばあちゃん自身がエンジェルだったってことも何一つ俺に教えてくれなかった!全部全部、ロロや他のエンジェル達が教えてくれたんだ!!なんでばあちゃんは何も教えてくれないんだよ!!もういい加減に全部教えてよ!!!」
次第にカイの瞳は涙に潤んできていた。カイはソルネが直接何も教えてくれないことが本当につらかった。何か理由があるのは感じる。カイはソルネにとても大事にされているのをよくわかっていた。だからこそ何も教えてくれないことが悲しかった。
それでもソルネは口を開かず、長い長い沈黙が続いたのち、はぁ~と大きなため息をつくとゆっくりとイスに座った。そして、覚悟を決めた瞳でカイを見つめた。
「カイ、お前もここにお座り」
カイはうながされるままソルネの向かいのイスに腰掛けた。
「魔物も辺りをうろついていると言うし、ティーシャの事をお前に話せるのは今しかないのかもしれないね……」
ソルネはひたとカイを見据えた。