表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

第1話  始まり

 ここは人間界と魔界が1つの森でつながっている世界。その森を中心とし、扇のように人間界と魔界が存在している。

 国境ともいえるその森は『神碧シンペキの森』と呼ばれていた。神碧(シンペキ)の森の周囲は天まで届くほどの切り立った崖に囲まれており、たとえ魔物でも越えられるものではなかった。

 そしてその崖は、人間界と神碧シンペキの森の間、約5㎞に渡りぽっかりと口を開けたように失われており、人間たちは魔物の侵入を防ぐため、『王都グラファスト』を中心にはるか昔から人と魔物の争いが続いていた。

 

 この世界の人間は、生まれながらにして魔力を持っている。しかし、その力は弱く、とても魔物の持つ強大な魔力と戦うことなどできなかった。そこで人は魔力を増幅する武器を作った。その武器を使い、魔を滅する者を人々は敬意を表し『エンジェル』と呼んだ。


 しかし、12年前。突如として魔物に森を突破されてしまう。魔界から洪水のように魔物が押し寄せ、『王都グラファスト』が陥落。それに伴い、前線で戦っていたエンジェル達は、人々を守るべく、残っている村々へそれぞれ配備される形へと変わっていった。


 そんな村の一つに、カイという少年が暮らしていた。カイの髪は黒く、その瞳は吸い込まれそうなほどの漆黒。そしてカイには幼馴染の少女ネイサと、親友のオレクがいた。


 3人はいつものように、村から少し離れた小高い丘で遊んでいた。丘の頂上には大きな楠木が1本あり、その根元には3人よりも大きな岩があった。


「なぁ、オレク。魔物を人間界から追い出せるかなぁ?」


 カイは楠木の枝に座り、楠木に寄りかかっているオレクに言った。オレクは短髪で、銀の髪にグレーの瞳だった。なにをするにもいつも一緒で、村の皆からは『悪がきコンビ』と言われていた。


 オレクは枝にいるカイを見上げるとすぐに答えた。


「追い出すまでもない。俺たちがやっつけるんだろ?」


 すると、大岩に座っていたネイサが笑いながら二人を見た。


「ホント、あんた達って考えてることがいつも飛んでるのよねぇ」


「そんなことない!俺たちがみんなを守るんだ!!」


 カイは興奮に顔を赤くし、ネイサに叫んだ。


 ネイサは、肩まであるウェーブのかかった栗色の髪を、ふわっとなびかせてはいはいと笑った。ネイサはカイとオレクの一つ年上で、お姉さん的存在だった。表情豊かでいつも太陽のように笑っていた。


 カイが村を眺めると、オレクとネイサも黙って村を見つめた。


 カイが暮らしている『ゾルダ村』は、住民が100人ほどの小さな村だった。見渡す限り畑が続き、黄金色に実った麦が風に揺られキラキラ輝いていた。畑の真ん中には住居が密集するように建っており、その中でも一番大きい建物がエンジェル達の宿舎だった。この村に配備されているエンジェルは10人で、今は畑の四隅に建てられたやぐらに立ち、警備にあたっていた。人々は王都の指示により、一つの場所に人が集まりすぎないようにしていた。できるだけ散り散りになり、被害を最小限にするためだった。


 村では作物の収穫まっただ中で、大人たちがせわしなく働いていた。カイは、そんな村に近づく馬に乗った人影を見つけた。すぐに誰なのかわかり、枝から落ちそうなほど身を乗り出すと、オレクを見つめ嬉しそうに笑った。


「おい!ロロが帰ってきたぞ!」


「ホントか!?」


 オレクは目を輝かせ、すぐに楠木によじ登ってカイの隣に立った。


「ホントだ!ロロ様だ!それにアリゼ様も一緒だぞ!」


 ネイサは岩の上で立ち上がり、興奮しているカイを見ながら、さとすように叫んだ。


「ちょっと、カイ!ロロ様でしょ!まったく…アリゼ様のことはちゃんと呼ぶのに。ロロ様に失礼よ!」


「いいんだよ!それより、早く村に戻ろうぜ!」


 カイとオレクはすぐに木から降り、村に向かって走り出した。ネイサはため息をつくと、後ろを追いかけた。


 村に着くと、ロロはもう村人に囲まれ質問攻めにあっていた。カイは人込みでロロに近づくことができず、少し離れたところで見守った。


「ロロ様、今はどういう状況なんですか?」

「魔物はどこまできているの!?」

「この村は大丈夫ですか?」


 村人の必死の形相に、ロロは優しく微笑んだ。 


「大丈夫。大丈夫だ。ただ……」


 ロロはそう言うと、顔を曇らせた。村人たちは固唾をのんでロロの言葉を待った。カイも耳をそばだてた。


「また人間界に魔界の闇が広がったそうだ。少しずつ、人間界が魔界に呑まれている…」


 皆はうめき声をあげ、あちこちからため息が聞こえた。そんな村人を勇気づけるようにロロは笑顔で言った。


「しかし、我々エンジェルも負けてはいない!皆はこの命に代えても必ず守ってみせる!それにこの村は、神碧シンペキの森からずっと離れているじゃないか!まだまだ大丈夫だ!それに、今以上に魔界の闇が近づいてきたら、王都から指示があるだろう。それまでは安心して生活してくれ」


 ロロの言葉に皆は少し安心したようだった。


 しかし、人だかりの一番後ろから声がした。


「それは、どうですかな…」


 村人はその声を聞き、ロロまでの道を開けるように下がった。

 声の主はこの村の村長だった。


「村長、ただいま戻りました」


 ロロは深く頭を下げた。


「いやいや、ロロ様に頭を下げられるなど、そんなもったいない。ただ、近くの村で魔物を見たという噂があってな……。その噂は、もうこの村にも広がっておる。じゃから、ロロ様の帰りを今か今かと待っておったのじゃ」


「噂は私も聞いています。それについてお話ししたいので、村長の家に伺ってもよろしいですか?」


「………わかりました。皆の者、とにかく落ち着いて普段の生活に戻るんじゃ」


 村長はそう言うと、ロロと共に村長の家に向かった。

 村人たちはため息をつきながら、それぞれ散っていった。 


 カイは後ろに立っていたオレクとネイサに振り返り、興奮した顔で言った。


「今の聞いてたか!?俺はやるぞ!魔物どもを蹴散らしてやる!」


「おう!カイ、お前には負けねえぞ!!」


 オレクも笑顔で答え、カイと拳と拳をぶつけた。


「何が蹴散らすよ。あんたたちにできるなら、エンジェル様たちがもうやっつけてるわ」


 ネイサは冷たい視線を向けながら言ったが、カイは聞いていないかのように話を続けた。


「俺は絶対にエンジェルになるぞ!エンジェルになって、母さんと同じように魔物と戦うんだ!」


「だから、あんたには無理だって言ってるでしょ!?エンジェルになるには、人並み外れた魔力が必要なんだから!」


「何言ってんだ!カイの魔力はすごいじゃないか!まぁ、俺には負けるけど」


 オレクが横目でカイを見ながら笑った。カイもニヤッと笑い、腕をぐるぐる回した。


「じゃあ、やるか!?魔力勝負だ!!」


「ちょっと、あんたたち!やめなさいよ!前もそれで畑に火をつけて怒られてたじゃない!」


「火をつけたのはカイだぞ!俺は関係ない!」


「オレク、あなたも一緒よ。オレクは地面を凍らせて大変だったでしょ?」


 2人は何も言い返せず、じとっとネイサを睨んだ。すると畑からネイサを呼ぶ声が聞こえた。


「ネイサ、そろそろ家に帰りますよ!もう暗くなるわ!」


「はぁ~い!すぐ行く!いい?あんたたちももう家に帰るのよ?」


 ネイサはそう言うと、父と母を追ってかけ出した。

 

 カイは、ネイサと両親が楽しそうに並んで歩く後姿を寂しそうに見つめた。それに気づいたオレクは自分の肩をカイにぶつけ言った。


「そんな顔するな。俺だって父さんはいないんだ」


「ああ……。じゃあ、俺たちも帰るか!きっと、ばあちゃんも心配してる。勝負はまた明日な!」


「おう!また明日な!」


 カイとオレクはそれぞれ手を振り、家へ走った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新、お疲れ様です! 続きが気になりますね。 ブクマをつけさせていただきまた。これからも頑張ってください! 自分も細々と投稿しているので、よかったら感想や意見などもらえると嬉しいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ