前途洋々?
私立言ノ葉学園。それは日本を代表する名門校。でも、その学園の生徒会は何やら変わっているらしい。
名は体を表す。そんな呪いにかけられた少年少女の奇妙な学園生活が始まる。
桜の花びらが舞い散る朝、俺、因果応報は私立言ノ葉学園を探しながら見知らぬ道を歩いていた。
「まったく、急にパンフレットが届いたと思ったら、有無を言わせずに春から登校しろだもんな」
去年の冬、高校受験に全敗した僕のもとに残されたのは、県内一の不良校に通うか、なぜか合格通知が届いた、全国でも有名な進学校である言ノ葉学園に通うかの二択しかなかった。
どうして、受験してすらいない言ノ葉学園に合格したのか不思議でたまらなかったが、学園に問い合わせたところ書類手続きのミスでもなかったようなので、親元を離れ、三年間の学園生活を堪能するために、迷いなく言ノ葉学園への通学を選択した。
「おっ、ここがそうか」
流石は名門校、その辺の高校とは比べ物にならないほど立派な校舎だ。
「さて、今日から僕の高校生活のスタートだ!」
勢いよく、はじめの一歩を踏み出したその時、
「ようこそ! わが学園へ!」
何やらおかしな人がおかしなポーズを決めて、校門前に現れた。
う~ん、まあ春だからな。そういう人も出てきちゃうのかもな。
とりあえずここは素通りして……と。
「ちょっと待ちたまえ、そこの一年生!! いやあ、まいってしまうな。朝からこうして、挨拶運動を行っているというのに、誰も返事をしてくれなくて困っていたんだよ。」
「すいません。先を急ぐので僕はもう行きますね」
なるべく、不審者を刺激しない言い方でやんわりとこの場をしのごう。
「ハッハッハッー! 僕かい!? 僕は眉目秀麗! 私立言ノ葉学園第44代生徒会長さ!」
あ……、ダメだ、人の話を聞かないタイプの人だ。
というか、これは驚いた。初登場時のインパクトが強すぎたせいでわからなかったが、この人、超イケメンじゃないか。この世に生を受けて15年、こんなイケメンを見たことがない。この顔があれば、さぞかしおモテになるだろうに……。
「ああそうだ、一年生、まだ君の名前を聞いていなかったね。もしよければ、僕に教えてくれないかい?」
「いや、遠慮しときます。知らない人に名前を教えるなって、母に言われて育ったので。では失礼します。」
一度、お辞儀をしてそそくさとこの場を離れる。
「まあまあ、待ちたまえよ、名前、名前だけでいいんだよ。ほら! 今なら失血大サービス、僕のサイン入りブロマイドをつけようじゃないか」
「いや、そんなのいらないんで、もう勘弁してください」
いよいよ、泣きついてきそうなレベルで懇願してきたぞ。だめだこいつ早く何とかしないと。
「しょうがないですね。僕の名前は田中太郎です。では、今度こそ失礼します」
「ふむ、田中太郎君か。時間を取らせてすまなかったね!では、またどこかで会おう!」
やっと、離れてくれた。とっさの偽名だったけど、これで大丈夫だろう。あの人、ちょっとあれな人ぽかったし。
…………ん、偽名? しまった! うっかりしていた! 今俺は、あの人を騙してしまったじゃないか!
マズい、来るぞ……、
「あーーーーー!! 飼育室で飼っていた、アマゾン原産の電気ウナギが逃げ出したーー! 誰か捕まえてくれーー!」
くっそ、今回は動物パターンか。絶対に逃げ切ってやる。
電気ウナギって、あれだろ? ウナギなんだから、木に登っていたら追ってこないはず。
近くの木に登って、安全地帯に避難する。
「よし、地面から5メートルあるぞ。もう安心だ」
あとは、電気ウナギが捕まるまで、じっとしていれば……。
「おーーい。春の陽気に侵されて、何やら奇行に走っているそこの君―。私は飼育委員の者なんだけど、この辺で電気ウナギを見なかったかい?」
さっきの声の主か、
「うーん。僕は見てませんねー。あと、僕はその電気ウナギから逃げているんですよ。早く見つけてくださいね」
まったく、俺を校門前の変な人と一緒にしてもらっては困る。
ん? なんだ? なんか、やたらこっちを見てくるな。
「なんですか? 早く捜索頼みますよ」
早く見つけてもらわないと、俺の命が危ないじゃないか。
「あーー! 君がもう捕獲してくれてたんだね。いやー、悪いね新入生」
一体あの人は何を言っているんだ? 俺が掴んでいるのは、ただの木の枝……。
不思議に思い、しっかりと握っていたはずの右手を見ると、そこには、木の枝ではなくつぶらな瞳でこちらを見つめてくるお騒がせ物の姿だった。
さて、電気ウナギの発電量は、家庭用コンセントの約8倍という。
俺の意識はそこでブレーカーが上がってしまった。