5.地魔法考察
よろしくお願いします
ロービヒから受け取った本をロムは三日で読みきった。
ほとんど寝る間も惜しんだため彼の目の下には黒々としたくまがある。それが日に日に黒くなるのを見たボルクは毎日心配してくる。
しかし、そんなことより何より、ロムにとってあの本はとても面白いものであった。
教科書のようにとても分かりやすくといったものではなく、どちらかと言うと資料をまとめたものと言う印象が強いものだった。
地魔法とは他の魔法と同様に無から魔力を用いて一般的な石や砂、土などを作り出すもので、闘いなどに使うときはそれを、魔力で形をイメージして、そこからは維持したりしないとならない。
その分多くの魔力を使うし、魔力の操作の練度も問われる。しかし、その割には攻撃性も低く、サポートとしても非効率なため、使い手を選ぶものとなっているのだ。
さて、どうしてあまり汎用性の無さそうな地魔法の資料が、あの厚い本に繋がったと言われれば、作り出すものの違いである。
火 水 風 これらは、ほとんど決まったものを作り出す。しかし、地魔法は、土、砂、石、岩など数多くのものを作ることができる。
だが、ものによって使う魔力の量も異なるし、性質もまた異なる。だが、これがわかったからと言って戦闘やサポートに使えるものではないため、あまり研究している人は少ないのだ。
これらの性質などを研究する暇で酔狂な人がいるとは、とロムも思い、著者を見ると、ロービヒの名前が載っていた。
なるほど、だから部屋があんなに汚かったのかと納得するロムであった。
「あんちゃん、あの分厚いのもう読み終わったのか?」
登校するとすぐにボルクが話しかけてくる。彼はこの3日休み時間もずっと本を読んでいるロムが話に付き合ってくれないので、少し寂しく思っていたのだ。
「おう!やっと昨日は5時間寝れたぜ!」
「それでもあんま寝てないのな。」
「いやぁ、学校でこの一週間魔力の操作習ったじゃんか?」
「おう」
「夢中になって石とか砂部屋に出して見たんだわ!」
「あー、先が見えてきたぞ。」
そう言いながらロムをジト目で見る。
「母さんがぶちギレてなぁ…」
やっぱりなと言った表情のボルクである。
「夜中まで掃除してたよ。ははっ」
それでもボルクは笑っているロムを見て少し安心した。ここに2.3日はほとんど笑った姿を見ていなかったからだ。
「じゃあ、もうあんちゃんは元気なんだな?」
「おう!あったりめいでい!」
「そうか!よかったな!」
「元気になったんですね。」
そう言って笑いあっていると後ろから、美声もとい女神の信託が聞こえた。
(こ、この声は…!?)
後ろを振り向くとマリィが笑顔で立っていた。
「マ、マリィさん!?」
ロムは声を上ずらせながら名前を呼ぶ。
「はいっ。とても厚い本を読んで、体調悪そうでしたけど?」
自らの心配をしてくれるマリィに対し、ロムは心で土下座をしながら拝む。
(心が浄化されていく!!疲れが全て吹っ飛んだ!!これが女神のなせる技なのかっ…)
「あっ、はい!魔法について本を読んでいたのですが!面白くて止まりませんでした!」
「あら、そうなんですね。なんの本か見せてもらっても良いですか?」
そう言いながらてをさしのべてくるマリィ。
(マリィさんの手に触れたいのになぜ貴様が!?この本が憎い!!!)
そう思いながら本もこれでもかと言うほど握る。
「あっ、あの、本がこわれちゃいますよ!?」
その言葉にはっと気づき
「貴様、彼女に免じて許してやろう。」
「な、何を言っているのかな?ボルク君」
「あんちゃんの考えてることはわかんねぇけど、またバカなこと考えてんじゃねぇか?」
そう答えるボルク。だが、彼がロムの方に振り向くとこの世のものとは思えないような黒いオーラを身に纏ったロムが立っていた。もはや目は赤く光り、髪は逆立ち、それはさながら魔王のようであった。
「ぎ、ぎざまー!!名前で呼び合うなかだとぉぉお!?」
そう、ロムはボルクの名前がマリィの口からでるとは思っていなかったようで、一瞬で魔王と化したのだ。
「おっ、落ち着けあんちゃん!これは、あんちゃんが本ばっか読んでるから、いろんな人とはなす間に友達になっただけだ!」
「ともだちだどおおぉぉぉお!?」
(俺が身を削りながらやっと友達になれたと言うのに、この男は!!)
「ボルク!!」
「は!はい!」
鬼の形相のままボルクの耳の近くまで口を持っていったロムはささやいた。
「次はないぞ?」
「はい!次は報告させていただきます!!」
「よろしい」
「あ、あのぉ」
マリィがその現状に困惑しながら声をかける。そしてその声はロムの耳から入り、彼の心を浄化していく。逆立っていた髪は、どうしてかツヤツヤになり、充血していた目も、健康に戻っていく。真っ黒だったオーラはキラキラと星が見えるように変わっていった。
「マリィさんすげぇ…」
ロムには聞こえないくらいの声でボルクが呟いた。
そんなこんなで朝は過ぎ、今週最後の魔力の操作についての授業も終わり、放課後。
「あんちゃん、いきなり呼び出してなんだよ。俺も部活行きたいんだか。」
「そうじゃよ、わしも自分の研究したいぞ。」
そう二人が言うのは地研の部屋のすみ。3日前よりはある程度きれいになった部家で二人を席に座らせた。
「うんうん、俺がこの3日で見いだした強くなりかたを聞きたいかって?」
「いってねぇ」
「ないのぉ」
「そうか、そんなに聞きたいか!では教えよう!」
聞くそぶりを全く見せないロムにため息を吐く二人。
「少し付き合うかの」
「そうですね…」
そう言う二人を見てロムはごほんっ、と咳払いをして言葉を続ける。
「ではいくぞ!俺は地魔法でこの世にある全部の種類の石や、岩を見つけ、それを操ろうと思う!」
「ひとつ質問言いか?」
「どうぞ、ワトソン君」
「誰だよワトソンって。まぁ良いけど、それがどうして強くなることに繋がるんだ?てか操れるのか?」
「うむ、そこはわしから少し説明を加えようかの。わしの本を読んで気付いたんじゃろうが、地魔法使いは自信の理解しうる石や土のみを生み出し、操るのだ。であるからして、当然自分たちのよく知る土や石を使うことになるのだな。」
「なるほど」
ボルクは初めて聞くようにうなずき、ロムは当たり前だとでも言うようにブンブンとうなずいている。
「わしの研究は地魔法使いがどこの範囲まで土や石を扱えるかについての研究である。」
「はて?どう言うことですか?」
「ふっ、バカめ!」
「あんちゃんうるせぇ!」
「ひぃぃいっ!ごめんなさい!」
「おう!それでそれで?」
「うむ、石をどこまで定義するかについてなんじゃが………」
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