10.生徒会に、高嶺の花と
よろしくお願いします!
「ここです。」
マリィがロムとボルクを連れて来たのは、この学校で最も煌びやかなドアの前。
生徒会室である。
この学校の生徒会は、席のほとんどが貴族で構成されているため、職員室と比べてもこちらの方が内装も外装もしっかりしているのである。
生徒会に入った生徒の親が、自身の子供が貴族のなかで肩身の狭い思いをしないよう、この部屋に寄付なり色々な家具などを送りつけるため、年々変わっている。
「なんか、俺らが入って良いのか?」
「あんちゃん、ここまで来ちまったんだ。行こうぜ。」
二人は足を生まれたての小鹿のように震わせドアを見上げる。
ドアは高さ三メートルほどあり、上から下まで宝石や細工が施されている。
縁は金で覆われ、取手も金色だ。
「では、入りましょうか。」
「はい。」
ロムは声をなんとか絞り出す。ボルクはうなずくので精一杯だ。
マリィがドアを開けるが、立て付けが悪いはずもなく一切音が鳴らず巨大なドアが両側に開いていく。
内装は、外装から想像していた物以上であった。
壁には超有名画家による絵画が並べて飾られ、誰が見るのかわからないような壁のすみにあるガラス棚の中には、ドラゴンの爪、鱗、牙が並べられていた。
部屋の中央にある細長い円卓には椅子が6席存在した。
どれも異なる椅子なのだが、全てに宝石が散りばめられていた。
どれも生徒会員の親が持参したものである。
他にも金色の甲冑、そして魔力で動く冷蔵庫なども壁際に並んでいる。
「こんにちは。友達を連れてきたのですが。」
今日、生徒会室にいたのは三人。
「あら、そうなの?」
最初に円卓の上座に座っている綺麗な女性が答える。
「マリィ、男友達なんていたんだっ!ははっ」
次に答えたのが先ほどの女性の右隣に座るかわいらしい女性。
「あんまりからかわない方が良いんじゃないですか?また怒りますよ?」
と、嗜める優しい風貌をした男性。
「ふんっ、私にだって友達いますよ!」
「あの取り巻きだろ?あんなん、友達って言わないだろ。」
「皆友達ですぅ!」
「薄っぺらいなぁ」
「そういう先輩だって友達いないじゃないですか!」
「女の子は見ますけど、男の子の友達見たことないですよ!」
「私は身持ちが固いだけだからね。」
「その言い方だと、私がほいほいついていくみたいに聞こえるんですけども!」
「あら、違ったかしら?おほほほ」
「ほらほら喧嘩しないで~」
かわいらしい方の女性は外見とは異なり、相当なイタズラ好きのようだ。
そして嗜める男性は、あわあわとしている。
「ほら、まず自己紹介しないと、後ろの男の子二人が置いていかれちゃってるわよ。」
綺麗な方の女性にロムとボルクは助けられる。
二人はこのままここで立ち続けねばならんのかと、ドアの外にいたときよりも足が震えていて、膝の動きの残像が見えるほどだ。
「あははっ!すごいね!その膝どうやってるの?ねぇねぇ!」
「もう、いじめないであげてくださいっ!」
二人の膝も落ち着き、別の場所で繰り広げられていた喧嘩も治まったため、自己紹介が始まる。
「自分!ロム·ホーリンです!」
「自分!ボルク·トゥルストっす!」
軍人さながら、ビシッと挨拶をする。
その光景に先ほどの女性もクスクスと笑う。
「じゃあ次は私からね。」
そう言って、綺麗な方の女性は席を立ち二人を見つめる。
「私は、ルルイエ·アドムスよ。三年、生徒会長を勤めています。」
次に先ほどのから喧嘩しかしていない女性が立つ。
「私は、シス·フート。よろしくね!二年生よ!」
そして最後に優男。
「僕は、マルクス·ムント同じく二年生だ。歓迎するよ。」
三人とも貴族であるため、幼少期から叩き込まれた所作が一つ一つ洗練されており、二人を圧倒する。
「今はワンとベリルが不在ね。全部で6人で構成されているわ。」
「説明ありがとうございます。会長。それで、頼みたいことがあるのですが、」
マリィがいきなり本題に切り出す。
先ほどまでわちゃわちゃやっていたが、基本的に忙しい生徒会は、無駄話をすることは多くない。
3人が来る前だって、生徒会メンバーは書類仕事をしていたのだ。
マリィはその事を知っているので、本題を最初から切り出したのである。
「はい。こちらのロム君が召喚魔法の適正を少しもっていまして。なので会長に少し使い方などを教えていただきたく参りました。」
「あら、そうなのね、君が。」
「はい!しかし適正と申しましても微弱ですし!魔力出力もまだまだなので、やっとスタートラインに立ったばかりです!」
「なるほどね。測定紙はもっているかしら?」
「はい!これです!」
そう言いながらルルイエに手渡す。
それをじっと見つめるルルイエ。
「魔力などに関してはこの時期なら普通ね。でも、地魔法…あっ、もしかして一度マリィが生徒会室にもってきたあの本の持ち主?」
ルルイエはマリィに目で答えを要求する。
「はい。皆さんも面白がって見ていたあれの持ち主です。」
入学してすぐロムが3日徹夜した後にマリィに貸した本は生徒会室にまで足を運んでいたのだ。
生徒会の皆も他の属性の専門書との異色さに興味を引かれ、その一日は生徒会メンバーで回し読みしていた。
そのため、ルルイエの頭の中にも記憶に強く残っていたのだ。
「あなた、あれ3日で読んだんだって?」
「はっはい!」
「ふふっ、面白いわね。」
口許に手を当てながらルルイエが笑う。
その姿はマリィに負けず劣らず絵になるもので、ロムもボルクもそれに見とれる。
「だよねぇ~!あんなん、うちじゃ1ヶ月はかかるよっ!」
すっごーい!と目でうったえる。
「シス、あなたはもう少ししっかりしてほしいのだけど…」
ルルイエが頭を抱えながら少しシスをにらむ。
生徒会の中では、シスの素行など色々な問題を抱えているのだ。
「会長、もっと言ってやってください!僕じゃ押さえきれませんよ!」
ここぞとばかりにマルクスが席から立ち上がりルルイエに身振り手振りで訴える。
(マルクス先輩、大変なんだろうな。)
ロムとボルクはその光景を見ながら、あぁ、貴族も普通の人間なんだ。と少し心でほっとしていた。
「頑張ってね、次期生徒会長っ」
「会長ぉぉ」
そう言ってマルクスは机に突っ伏す。一年から、シスを押さえる役回りはこれからも続くようだ。
「それで、召喚魔法についてなんだけど。」
ルルイエが話を戻すように仕切る。
「あなたの魔力の量だと、四属性の下位互換といったところかしらね。」
「下位互換?」
そもそも召喚魔法についてなにもわかっていないロムはなんだそれはといった顔をする。
「そう。そもそも召喚魔法って、いろんな物質を召喚する魔法なの。火も水も風も石も、それに鍛えぬいた人なら精霊なんかも召喚できるわ。」
精霊とは普通肉眼では見ることのできない魔力思念体である。しかし、召喚魔法を駆使することにより、肉眼でも目視できるようになるのだ。
「私もまだ、意志疎通の出来ない下位精霊しか召喚できないわ。」
「会長でも…」
ロムは少し落胆した。召喚魔法と言うのだからバンバン空想の生き物などを出せると思っていたからだ。
「そう。だから、今のあなただと、地魔法をもう使えるようだから、火、水、風を召喚するのが召喚魔法の使い道ね。」
「なるほど、てことは全属性適正があるってことですか!?ずるくないですか!?」
「うん、でも適正のある人に比べると、習得するのに二倍の時間がかかるといわれているし、あなたの微弱だと、そのさらに二倍三倍の時間や労力が必要ね。」
「でも会長は他の属性使いと同じくらい使えるんだよ!」
マリィが自分のことのように語る。
彼女はとてもルルイエに懐いている。
「人一倍努力したからね。」
(なるほど、と言うことは今の俺には火水風は練習しなければ出せないし、出せても威力はあまりないと。あまり直接的な戦闘には向かなそうだな。それに効率も悪そうだから、いくつかに絞らないといけないだろう。)
「基本的には四属性と同じ使い方だから、他の属性使いの人に習うといいと思うわよ。」
そう言ってルルイエはロムに微笑み駆ける。
(び、美人だ。いや!しかし俺には女神がいるではないか!いかん!この俺としたことが、女神以外の女性に目を奪われるなど!)
「それなら俺があんちゃんに火と風を教えてやるよ!」
「でしたら私は水ですねっ。」
ボルクとマリィがロムを励まそうとする。
「ありがとう!でも、一気に全部は無理な気がするんだ。だからあとでもう少し考えてみて、絞ってから習うことにするよ。」
「そうね、それが言いと思うわ。」
ルルイエが満足そうにロムを見る。
ここで最初から全部何て言っていれば、ルルイエの興味もなくなったかもしれない。
何事も優先順位、出来ること、出来ないことがあるとして動いていかないといけないと考えるルルイエはロムの返答に満足したのだ。
一拍おいてマリィが切り出す。
「では、私たち三人はそろそろおいとましますね。」
「そう?じゃあ、またいらっしゃい。」
しかし、そんな簡単に締めさせないのがシスである。
「ロム君さ!あの資料使った地魔法を使ってるんでしょ!?今度来たら見せてよ!!」
そう言いながらロムにぐんぐんと詰め寄っていく。
彼女の魔法適正は風と地。しかし風中心に鍛えたことで、地魔法の使い方についてあまり理解できていないのが現状なのである。
「ほら、シス!詰め寄らないで」
マルクスがロムに詰め寄るシスをなんとか引き離す。
「私もさ!地魔法を使うんだけど!やっぱり風の方が使いやすいんだよね!だから、試合とかだと風主体になっちゃうんだ~。ロム君は地魔法主体なんでしょ?」
「はい。」
マルクスがぐんぐんとロム達からシスを引き離していく。
「面白そう!じゃあまたね!」
フリフリとてを振る。それに応じて、ロムも小さく手を振り返した。
「ほら!いくよロム君!すぐにからかわれるんだからシス先輩には気をつけてね!」
マリィがロムの手を掴み引っ張って生徒会室から出ていく。
「あっ、はい。」
言葉なんて彼には聞こえていなかった。
マリィに自身の手を掴まれ引っ張られているだけで彼にとっては至福の時であったのだ。
くでぇんと、のびきったロムを見てボルクは笑いながら二人についていく。
マリィがドアを閉めながら
「もうっ!」
と怒った顔を見て、ロムはスライムのごとく溶けたのだった。
主人公が一気に最強になることはありません。
寄り添って書いていこうと思います。
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