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2 雨上がりの虹

祭壇の間は、この前の『快晴の儀式』と違ったレイアウトになっていた。


中央に大きなテーブル。その上には・・・




短刀。




「気をつけるんだぞ、エディス!」


「大丈夫よ、テオ!」


テオに明るく応える。今回はミスをすると命取りになるから、嫌でも緊張しちゃうけど。


『快晴の儀式』とちがって、『雨乞いの儀式』は見られても困らないのだけど、アルが手伝ってくれた前回と違って、みんなに見られながらわたし一人で儀式を執り行う。間違いのないようにしないと。


「それでは、頼む、エディス。」


「はい!」


殿下の声に元気よく応えて、儀式を始める。




ザク、ザク、ザク・・・




「うっ、ううっ・・・」


始まってすぐに、ちょっと涙が出てきた。


「大丈夫かエディス!」


「へ・・・平気・・・・」


だめよ、こんなところでくじけちゃ。みんなのためなんだから。




ザク、ザク、ザク・・・




「えんっ・・・うっ・・・」


少しずつ涙が出てくる。


「もう見ていられない!エディス!」


殿下がわたしに走り寄ってきた。危ない!


「殿下、待って!いま来たら危ないの!」


「エディス、短刀を置いてくれ!」


わたしが言われるがままに短刀を置くと、後ろから殿下に抱きしめられた。


「たとえ誰のためだろうと、何が理由だろうと、可愛いエディスが泣いているのは放っておけない。たとえ君が望まなくとも。好きなんだ、エディス。」


「殿下・・・」


目の前がじんわりにじむ。


殿下が、初めてわたしに触れてくれた。恐る恐るじゃなくて、しっかり抱きしめるように。


殿下が、初めてわたしのお願いにノーと言ってくれた。


殿下が、初めて大切や大事じゃなくて、好きと言ってくれた。


「うれしい・・・」


なんだか心がぽかぽかしてくる。目がぼんやりする。


「殿下、ごめんなさい、いままでわたしの力のせいで、殿下に遠慮ばかり・・・」


「いや、私もエディスの機嫌を損ねないように恐る恐る接してしまって、気まずい思いをさせたな。済まなかった。愛している、エディス。」


後ろから抱きついていた殿下が、わたしの体をくるりと反転させて、見つめ合う形になる。涙でぼやけた視界でも、殿下の優しい目がわたしをいたわるように見ているのがわかる。


「わたし、泣いているけど、もう悲しくないです!殿下が素直になってくれて、とっても嬉しい!」


「わたしもだ。ずっと想ってきたことをようやく言えて、とても幸せだ。」


今度は正面からふたりで抱きしめあった。


幸せ。


「雨が降り始めました!大雨です!でも日が出ていて、『大天気雨』でしょうか?」


外を見ていたハロルド君の歓声が上がって、みんなの拍手が鳴り響いた。


「エディス、ありがとう。・・・大きくなったな・・・」


「いえ、殿下のお役に立てて嬉しいです。そうですか、背はあんまり伸びてないんですけど。」


殿下は少し顔を赤らめて、わたしたちは笑顔で見つめ合った。


「なあ、エディス。」


「はい?」


殿下がじっとわたしを見据えて、そのまま顔を近づいてくる。


近づきすぎ?


「殿下、顔ちょっと近いです!」


「エディス・・・」


殿下はなぜか残念そうな顔をした。


「あーあ、王子の経験不足とエディスの箱入り具合が露呈したな。」


「また少し霧がでてきました。もうすこし感動していてほしいところです。」


なんだかテオとハロルドが話しているけど、よくわからない。


「姉さん、そいつは姉さんとイチャイチャすることにしか興味がないんだ!目を覚ましてよ姉さん!」


涙目のアルがわたしにむかって叫んだ。


「アル、どうしたの、わたしより涙目になって・・・」


「何を言うのだアルフレッド!そんなのデタラメだ!もちろんイチャイチャはしたいが、それだけではない!」


あれ、殿下の顔はいつもどおりかっこいいけど、セリフがちょっと違う気がした。


「え、殿下、わたしとイチャイチャしたいんですか?」


「え、駄目なのか?両思いなのに?」


殿下が子犬のような目でみてくる。でもイチャイチャ?わたしと殿下がイチャイチャしたら、天気はどうなっちゃうの?


「えっと・・・今は、びっくりして・・・」


「姉さん、ほら、奴が本性を顕にしたよ!このままだと狼に食べられちゃうよ?」


「黙れ!羊の皮をかぶった狼が!」


ツンデレさん二人はやっぱり仲がいいみたい。わたしの話をしているみたいだけど、わたしは置いていかれている気がする。


「王子、初めては優しくな。でないと国中に雷が落ちるからな。」


「おい、テオドリック!余計なことを言うな!」」


今度はテオと殿下がぎゃあぎゃあ言っているけど、なんのことだろう?


「すみませんエディス様、いまの雨量では効果は限定的かと思います。もしよければ、玉ねぎを追加してもよろしいですか?」


ハロルドさんがおずおずと手を上げて発言した。


「いいえ、まだ玉ねぎが残っていますから、これを切ってからにしますね。」




ザク、ザク、ザク・・・




「エディス、ここで切られるとわたしまで涙が・・・」


「姉さん、そいつは姉さんに辛い目に合わせて自分は見学していようという輩ですよ!僕のところに戻ってきて!」


「そうではない!このくらいの辛苦、エディスが一緒なら耐えていられる!」


ぎゃあぎゃあ言い合う弟と殿下を眺めていたら、なんだかまた心があったかくなってきた。


「殿下、イチャイチャって具体的になにをするんですか?」


「それは、えっと・・・ハグ?」


殿下が珍しくおろおろしたあと、私に可愛く囁いた。思わず殿下をむぎゅっと抱きしめる。


「わたしハグ好きなんです!大好きな殿下とハグできてしあわせ!」


殿下とだきしめあっていると、なんだか安心感が湧いてくる。


「姉さんから離れろっ!」


アルはなんだか大きな声を出しているけど、殿下は気にしていないみたいだった。


「もうちょっと攻めてもよかったな・・・でも私はこの幸せを噛みしめることにする。」


わたし達は満足するまで抱き合った。




雨と晴れが交互にきたせいで、その日は素敵な虹が何回もみられた。国中のみんなが、わたしになにかいいことがあったんだな、と思ったみたいだけど、わたしは目の前の殿下に夢中で、みんなにバレていることにはしばらく気が付かなかった。



その日以来、とっても素敵な天気がしばらく続いた。




ありがとうございました。


長編「指魔法を使う魔女と恐れられているけど、ただの転生したマッサージ師です」もよろしくおねがいします!

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