1 嵐は過ぎ去る
エセルレッド王子の視点です。
祭壇の間から追い払われたとき、私は怒り心頭だった。
「落ち着け、王子。」
テオドリックがなだめにかかっているのが、逆に癇に障る。
「これが落ち着いていられるか!エディスを必要以上に喘がせた上に、俺をニヤリと見つめながらエディスにベタベタ触っていたあいつなど、地獄に落ちればいい!」
聖女の婚約者に指定された私には、厳しい倫理基準が求められる。結婚するまでは手出しできないし、浮気はもってのほか。
それでも、かわいいエディスのためならばという一心で、私は隣国の王子から「童貞王子」と呼ばれる屈辱に耐え、こうして17歳までの歳月を過ごしてきた。
それなのにアルフレッドは、私の前でこれみよがしにエディスと仲良くして、あの挑戦的な目で私を煽ってくる。私が癇癪を起こしてエディスが怖がり、婚約が破棄されるのを狙っているのだろう。
「そうはさせるものか。エディスと結婚するのは私だ。」
私は自分を言い聞かせる。
「やれやれ年下の弟くんに振り回されているな。しかし、今結婚を急ぐには、エディスは王子とちょっと距離があるな。」
「それは自覚している。」
テオドリックの言うことは間違っていない。私が思わずエディスに対して天使を扱うように丁重に接してしまうから、エディスの方も距離の置き方に困っているようなことがある。
「しかし、自分の責務を思い出して自分を律していないと、かわいいエディスに思わず手が伸びてしまいそうになるのだ。だがそうなれば悪漢アルフレッドと大差がない。」
「まあ、似た者同士のところはあるよな、王子とアルフレッドは。」
テオドリックの聞き捨てならないセリフに反論しようとすると、後ろからハロルドの声が響いた。
「殿下、アルフレッド様が、エディス様を連れて館へ逃走しました!」
頭をごんと殴られたような感覚だ。
「なんだと!これからエディスの慰労会が予定されていたではないか!私としても肩の力が抜けたエディスが見えるのを楽しみにしていたというのに!」
地団駄を踏みたくなる。可愛いエディスをあの腹黒い弟に独占され、婚約者としての立場がないではないか。
「落ち着け、王子!」
「これが落ち着いていられるか!」
私とテオドリックの会話は振り出しに戻った。