私のお墓
お墓にやってきた。
ここは私のお墓。
ずいぶん久しぶりに来たな。
前に来たのは、いつのことだったか。
私のお墓は、私の記憶の中。
埋めたのは、私の悲しみ。
埋めたのは、私の怒り。
埋めたのは、私の気持ち。
埋めたのは、私の心。
埋めたのは、私の過去。
埋めたのは、私の勇気。
埋めたのは、私の正義感。
埋めたのは、私の恋心。
埋めたのは、私の望み。
埋めたものは、埋まったまま。
お墓の前で、私は手を合わせる。
あの日、私が埋めたもの。
あの日私が、埋めたもの。
あの日私が埋めた、もの。
埋めたものは、どこかへ還っていったのだろうか。
違うものに、変わっていったのだろうか。
埋めたものを、掘り返す術を、私は持っていない。
埋めた事実を、ここに来て、ただ、確認するだけ。
私は今日、言葉を埋めにここへ来た。
今、必要ない、言葉を、埋めに来た。
今、埋めたくてたまらない言葉を、ここに、埋めた。
しばらく、ここには、こない。
いつかまた、何かを埋めたくなったとき、私はここに言葉を埋めたことを思い出す。
いつかまた、埋めた言葉を取り戻したいと願う日が来るかもしれない。
埋めたものは、埋める前の状態で掘り返すことなど、できないというのに。
埋めた事実から、目を背けるなと、お墓が私に語りかける。
お前の埋めたものは、ここにあるのだと、お墓が私に語りかける。
埋めたものは守ると、お墓が私に語りかける。
いつか私が灰になり、どこかに埋められたそのときに。
私は必ず、ここに来るから。
ここに埋めたすべてのものを、必ず、私は、抱きしめるから。
そう、約束をして、私は、私のお墓の前から、立ち去った。