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9、カッコイイ!がとても大切

「強制力……か」


 ウィズべリアからその可能性を聞いた時、さすがのワードルドも一瞬耳を疑った。が、もともとこの世界には魔法という解明されていない力があるのだし、そのような現象があっても不思議ではないかなとも思いなおした。

 けれど、そんなものがあるのならば、どう対策をしても"運命"とやらを回避できないのではないだろうか。


 "乙女ゲーム"という名の"運命"が避けられないものであるならば、でもそれならそもそもウィズべリアは前世を思い出したりしないのではないか? とも考える。

 強制される運命ならば、もっと前の段階、前世をウィズべリアが思い出した時点で、ウィズべリア自身の記憶を封じるなり、ウィズべリアを亡き者にして他の"悪役令嬢"になりうる代わりを用意されるなり、何かしらの修正をするのではないだろうか。


 己に考えられる範囲の事をあれこれと考えながら、ワードルドは自分の後ろに迫る影に向けて魔法を放った。

 魔法によって生み出された風の刃によって狼型をした一匹の魔獣が左右に切り裂かれ、それぞれがキラキラと淡く光る粒子へと変換され、そのままはじけて空気に溶けるように消える。

 それと同時に何かが地面へと落ちたような音がし、ワードルドは振り向いて魔獣の消えた箇所の地面を見た。


「……お、魔獣の牙。残りは三個と言ったところかな」


 つぶやきながら牙を拾って腰に下げた袋へと入れる。

 考えながら魔法で索敵をし、次の獲物を探しはじめる。

 目的のモノを作る為の材料を狩る為に、ワードルドはアレイスター公爵領の端にあり毒霧の森へときていた。




 ***




 そろそろ本日分の勉強が終わる頃だろうとワードルドはレイノルドの部屋へとやってきた。

 教材の片付けをはじめていた教師がワードルドに気が付いて目礼をする。

 ワードルドも教師へと会釈をし、それからレイノルドへと声をかけた。


「レイ」

「あ! わーどにいさまー!」


 机の上の本とノートを見比べ、うんうんと唸っていた顔がワードルドに気が付くなりパッと明るい顔になった。立ち上がり、両手をひろげてワードルドへと駆け寄る。

 そのままワードルドに抱き着いて、レイノルドはえへへと笑った。


「今日の勉強はもう終わりでいいのかな?」

「はい、ワードルド様。本日もレイノルド様は大変頑張っておられました」

「ぼく、がんばっ……りました!」


 一応の確認を教師にすれば思った通りの返事がきた。

 レイノルドも元気いっぱいに同意して言葉を言いかけ、それから言葉遣いを直されている事を思い出したのかつっかえながらも直して言い切る。


「そうか、頑張ったのか。レイはえらいね」


 そう言って頭を撫でれば、レイノルドは照れたように嬉しそうにワードルドにすり寄った。

 仲の良い二人に教師はほほ笑み、片付けた道具を持って一礼した。


「……では、本日はこれで失礼します」

「うん、またよろしくね」

「またよろしく……おねがいします!」


 ワードルドが返事をし、レイノルドが手をふると、そのまま教師は部屋から出て行った。

 扉が閉まると同時に結界をはり、聞き耳を立てられる範囲に自分とレイノルドしかいない事を確認してから、ワードルドはレイノルドと視線をあわせるようにその場に膝をついた。


「レイ」

「はい!」


 レイノルドがこの屋敷へ着てからそろそろ一か月。

 ワードルドとレイと、レイノルドはワード兄さまと。それぞれが愛称で呼び合うくらいに打ち解けていた。


「頑張ったレイにご褒美があるんだ」

「ごほうび! ……ですか!」


 ご褒美の一言で目がキラキラと嫌いに輝くレイノルド。

 その素直さがとても微笑ましく、ワードルドは笑みを深めた。

 ワードルドはレイノルドの左手をとり、腰につけていた袋から取り出した腕輪をつける。

 レイノルドの小指ほどの太さの腕輪は銀と青を混ぜたような不思議な色をしていて、その表面には精密と呼べるほどに細かい模様が彫られていた。


「これはね、魔法の腕輪だよ」

「まほー…?」

「そう、魔法。レイが大怪我をしないように守ってくれる魔法の腕輪」

「まもってくれるの?」

「そう。レイが危ない時にキラキラと光ってレイを守ってくれるんだ」

「ひかるの? かっこいい!」


 言葉遣いの事をすっかり忘れて、腕輪とその説明に興奮しはじめるレイノルド。

 ワードルドは頷く。

 

「そう、光るんだ。格好良いだろう? ただね、気を付けなくてはならない事があるんだ」

「きをつけるの?」


 不思議そうなレイノルドに、ワードルドは内緒話をするように彼の耳元に手をやり小さな声で話す。

 その動作に釣られてレイノルドの声も小さくなる。


「そう。他の人たちにはこの腕輪の事は内緒にしなくてはいけないよ」

「どうして?」

「話をしたら、この腕輪はレイのものではなくなってしまうからね。そうなってしまうと私がとても悲しい。だから、内緒にしてほしいんだ」


 レイノルドは目を丸くし、少し考えてから聞き返す。


「わーどにいさまがかなしくなるの?」

「そうだよ」

「わーどにいさまがかなしいと、ぼくもかなしいよ」


 ワードルドの手をぎゅっとにぎり、レイノルドが真剣な顔をする。


「ぼく、ないしょにするよ! だから、わーどにいさまはかなしくならないよ!」

「そうか。ありがとう、レイ」

「うん!」


 ワードルドがにっこりと言葉を伝えれば、レイノルドも嬉しそうに返事をする。


「よし。約束の証におまじないをかけておこう」

「おー?」


 レイノルドにつけた腕輪へと手をかざし、最初からかける予定であった魔法をワードルドは使った。

 その魔法に反応して、腕輪がキラキラと光る。


「おおおおおー!」


 腕輪のついた手ごと天にかざし、興奮した言葉にならない叫び声をあげながらその場をぐるぐると回って感動を示すレイノルド。

 しばらくそうしていたが、腕輪の光が治まると、レイノルドの動作も止まった。

 不思議そうにワードルドと腕輪を見比べている。


「いつも光っていたらすぐにバレてしまうだろう?」


 だから週に一度おまじないを言った時に少しだけ光るようにしておいたよと言い、ワードルドはその"おまじない"の文言をレイノルドに伝える。

 何度か口の中でおまじないの言葉を繰り返し、覚えた!とレイノルドは自信たっぷりに言い切った。

 にこにこと笑い合い、そろそろおやつに行こうかと手をつなぐ。

 その時、レイノルドが気付いたように声を出した。


「あ、うぃずねーさまにもないしょ?」

「ん? うーん、そうだね……」


 ウィズべリアにならば言っても問題はないとワードルドは考えているが、それだと自分やウィズべリア――ワードルド同様にウィズべリアとレイノルドも愛称で呼び合うくらいに仲良くなっている――以外に親しい人物ができた時に話してしまう可能性があるかもしれない。

 その可能性を少しでも低くする為には、誰にも内緒――仲の良い兄弟であるウィズべリアにも秘密にしておく方がいいだろう。

 ワードルドはそう判断をした。


「内緒だからね。ウィズにももちろん内緒だよ。私とレイの二人だけの秘密だ」

「ぼくとわーどにいさまだけのひみつ! わかった! ないしょにするね!」


 秘密という言葉に何かを感じたらしいレイノルドの元気な様子に目を細める。

 そして今度こそおやつを食べる為、二人は手を繋いで勉強部屋から出て行った。

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