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4、事前準備は大切なこと

「全体集合。整列!」


 青空の下、城壁内の詰め所横の広場に号令が響きわたる。

 早朝から集まっていた騎士と魔法師たちは号令が耳に届くなりに口を噤み、各々が己の位置へと速やかに向かった。

 騎士が四列に五人ずつの二十名。魔法師が二列に五人ずつの十名。広場の城側に立つ軍幹部たちの前に並び立つ。


「キリー小隊、集合しました!」

「ランバル小隊、集合しました!」

「リディール小隊、集合しました!」

「マズリット小隊、集合しました!」

「レイルド魔法師以下十名、集合しました」


 列の先頭に立つ騎士たちと魔法師が順番に叫んだ。

 号令を出していた騎士団の副長のひとりである騎士が直立不動に並んでいる部下たちの方へと、一歩前に出る。


「ご苦労さま。今回の護衛任務の長を務める事になったズィール・ガンドルだ。今回はよろしく頼む」


 茶髪の騎士――ガンドルが軽く挨拶をして元の位置に戻ると、幹部たちが順番に一歩出て名乗った。

 所属は騎士団第一大隊であり、騎士団長ディモンドを補佐する副長の一人だ。


「副長を務める事になった近衛所属のシンシア・ロズィールだ」

「ロズィール副長の補佐を務めます、近衛所属のラヴィリア・キリングです。私とシンシア副長は旅の間、妃殿下と姫殿下のお側に付く事になっています」


 近衛騎士の隊服に身を包み、その細い身体には似合わない武骨で大きな剣を腰に下げている女がシンシア・ロズィール。淡い金色の髪を後ろで一つにまとめている。

 その横にいる肩に触れるか否かくらいの長さにカットされた青銀の髪の女がラヴィリア・キリング。背負っている柄の長い斧槍の武骨さが際立つほどに線の細い、すらりとした身体であった。


「副長のムーディンド・ロフィアル。魔法師団所属」

「やあ! 同じく副長で騎士団所属のツツィード・ジクチーだよ。よろしくね」


 言葉少なに自己紹介をしてすぐ引っ込んだ男がムーディンド・ロファル。魔法師団の制服でもある紺色のローブには上級魔法師である証に三本の白い線と魔法師団副長の証である二本の黄色い線が入っている。任務前の自己紹介であるからフードはかぶっておらず、紺色の魔法師にしては珍しい短い髪をしている。

 そのすぐ後に軽快に挨拶をした男はツツィード・ジクチー。金髪にこの国にしては珍しい緑色の瞳を持った男で、騎士団の副長と第二大隊の隊長を兼任している。


 一人を残した五人の名乗りが終わると、ガンドルがもう一度前に出た。


「それと極秘任務に属する為に詳細を語る事は出来ないが、今回特別に同行する事になったワードルド・アレイスター殿だ」


 ガンドルの紹介と同時に前に出て、ワードルドは年相応に見える笑みを浮かべる。


「はじめまして。軍部には所属しておりませんが今回同行する事となりました、ワードルド・アレイスターと申します。足を引っ張らないように気を付けますので、よろしくお願いしますね」


 魔法師団とは違う色の深緑のローブには上級魔法師の証である白色の三本線が刻まれている。

 どう見ても子供であるワードルドが上級魔法師である事に驚いたのか、アレイスター公爵家の者が護衛する側に混ざる事に驚いたのか。ひょっとすると両方であるのかもしれない。集まった騎士や魔法師たちがざわついた。

 が、それもすぐに治まった。


「傾注!」


 ガンドルが号令を発したからだ。


「ワードルド殿を守る必要はない。が、先に言った通り極秘任務だ。詳細を問う事は禁止する」

「「「「「はっ!」」」」」


「昨夜告げた通り、一小隊に付き魔法師二人が付くように。それと決して単独行動を取ってはいけない。肝に銘じておけ! 二人から三人でまとまって動き、些細な事でも何かあればすぐに報告をするように!」

「「「「「はっ!」」」」」


 ガンドルは部下たちを見回し、頷いた。


「よし。それででは今から任務を開始する」




 ***




 良く晴れて雲一つない空の下。三台の馬車と三台の台車、それから護衛たちが石畳に舗装された道を進んでいる。

 中心の馬車には正妃であるマリニア・ルフィーリアとその娘である第一王女のミルフレイア・ル・ルフィーリア。それから二人の専従である侍女が二人と、護衛の女騎士たち――シンシアとラヴィリアの計六人が乗っている。

 その前を走る馬車には他の侍従と侍女たちが。真ん中を挟んだ後ろを走る馬車には夜番をする護衛の騎士や魔法師たちが乗って身体を休めている。

 台車には当然ながら、食料と水、それぞれが野営をする時のテントと寝具が載せてある。

 それらの馬車や台車を囲うように他の護衛たちが並び、歩いている。


 子供とはいえ護衛のひとりとして参加しているワードルドも例外ではなく、先頭を走る台車の横をやや早歩き気味に歩いていた。

 今にも鼻歌でも歌いだしそうな笑顔で歩きながら、索敵魔法を使って周囲の様子を探っている。


「……なあ、アレイスター殿?」

「ワードルドでいいですよ。何でしょうか?」

「そう? それならオレの事もツツィードでいいよ、ワードルド君」

「はい、ありがとうございます。ツツィード殿」


 索敵魔法の手を休めることなくツツィードを見上げて笑うワードルドを、どこか珍妙なモノでもあるかのようにツツィードは見ていた。その視線に気が付いているだろうに、動揺するような気配はない。

 出発時には低い位置にあった太陽は真上にきていて、長い時間を――それも子供にはきついであろう速度で歩く騎士たちに遅れる事なくついてきている。にも関わらず、弱音どころか疲れた様子すら見えない。


「出発前からずっと索敵を続けているみたいだけど、魔力の残りは大丈夫?」


 この任務にツツィードがつく事は以前から決まっていた事だった。しかし昨夜突然にディモンド騎士団長に呼び出され、ワードルドを見守るように言いつけられた。監視ではなく、見守るように、である。

 その為、ツツィードは常にワードルドの横を歩くような配置に付けられ、さらに言えば単独行動が禁止されている今、ワードルドが極秘任務とやらへ行く際にはツツィードがついていく事になっている。


「ええ、大丈夫です。魔法は得意なので、まだまだ余裕ですよ」


 笑顔で言い切り、ワードルドは力こぶを作るかのように腕を曲げてポーズを作って見せるが、そのローブ越しに見える腕は年相応に細く、頼りない。

 子供ながらにも極秘任務につけられるくらいなのだから、本人の自己申告通り魔法の腕は確かなのだろう。そんなに体力があるようには見えないのだが、本人が大丈夫だというし、足取りもしっかりしている。

 妃殿下と姫殿下の護衛の魔法師たちも定期的に索敵魔法を使っているし、騎士たちとてその任務から気配には敏感だ。

 正直、この少年が何でそこまで索敵魔法を使い続けているのかが気になる。気になるけれど、少年は極秘任務についているのだというし、その極秘任務について何かを聞く事は禁止されている。


「そう? ワードルド君はまだ子供なんだし、疲れたら言うと良いよ。背負ってやるからさ」


 倒れられるよりはその方がマシだからなと、心の中で付け足すツツィード。

 心配されたのが意外であったのか、ワードルドは目を瞬かせる。そして花の咲くようなとしか言いようのない輝かんばかりの笑顔を見せた。


「ありがとうございます。その時が来たら遠慮なく頼らせてもらいますね」


 笑顔のあまりの眩しさにツツィードの表情が笑顔のままで固まり、『落ち着け。あれは男だ。男なんだぞ』と心の中で必死に自身へと言い聞かせる。

 まだ九歳で子供と言える年齢とはいえ、ワードルドは美形という括りに十二分に含まれる容姿をしている。ヤンチャ盛りであろう年齢の少年にしては丁寧な言動に、まだ男らしさを持たない――下手をすれば少女と言っても否定するものはほとんどいないのではないだろうか。

 なんだかイケナイ扉を開きそうになっている自分を、一生懸命そっちはダメだダメなんだと唱えながら抑えるツツィード。

 その心を知ってか知らずか、ワードルドは先程までよりも楽しそうに、索敵魔法を四方へと展開させていた。


「あ、ツツィードさん。そろそろ野営場所へ到着するみたいですよ」

「――えっ、あっ、マジ? ああ、本当だね」


 ワードルドの言葉にツツィードは我に返り、前方を向いた。すると呆れたような顔で自分を見つめている騎士のひとりと目が合った。

 その騎士の手には"あと一刻もせずに予定通りに野営場所に到着する"という合図を後方へと送る為の旗が握られている。

 ツツィードはあははと笑って誤魔化すように、旗を持った騎士に向かって手を振った。


 先程まで真上にあった太陽は高度を少しずつ下げている。

 野営の設置が終わる頃にはその色を変え、あっという間に沈んで夜になるだろう。

 

 これから来るのは月の無い暗闇。

 月明りのない、新月の夜。


 襲撃をする側にとって都合の良い時間帯が、二人の王族とその付き人たちに訪れようとしている。

 軍のトップが騎士団長で、その下に各部隊(近衛・各騎士隊・兵士)があります。

 魔法師団は軍務関係については騎士団長に従いますが、研究所や治療施設等も受け持っている為に、特定の条件下では騎士団長からの要請も断る事のできる、少し特殊な立ち位置です。


 軍については、この話のゆるふわ独自設定だと確信しているので、多少現実と違っていても異世界のそういうルールの国なんだ~、と思って流してやってください。

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