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3、自分の評判は利用するもの

 王都レビアの中心にある王城。煌びやかに周囲を照らすシャンデリアの下、大広間。

 華やかに着飾っている貴婦人たちと、そんな貴婦人に恥をかかせない落ち着いた服装の紳士たち。

 それぞれが踊り、会話し、ワインを嗜む。

 王家主催の舞踏会に、ワードルドは出席していた。

 すでに宴も半ばを過ぎ、テラスから見える外は暗く、空には星々が瞬いている。

 デビューしたとは言えまだ九歳という若さ――子供である彼がその場に残るには少し遅い時刻とも言える。

 一部の良識のある大人は彼を心配そうに見るが、大多数の大人たちは気にしていない。そして少年趣味の紳士淑女たちは少年であるワードルドをどうにかして釣ろうとするが、彼は靡かず声をかけられる度ににこりと笑い、かけられる言葉を軽く受け流していく。彼は会場を危なげなく、縫うように歩き回った。

 ワードルドの両親であるアレイスター公爵と夫人も大切な跡取り息子を見守ってはいるが、だからと言って彼自身の行動を諫めたりはしていない。


「あ、いた。ディモンド騎士団長!」


 歩き回っていたワードルドは目的の人物を見つけ、その背中に声をかけた。

 騎士団長と呼ばれた大柄な男は振り返り、ワードルドに気が付くと目を細めて見下ろした。


「何か用か、ワードルド殿」


 国の要、騎士たちの頂点にして軍の長である騎士団長、ダグディ・ディモンド。

 ウィズリア曰く、攻略対象者のひとりであり将来は宰相候補になるノーズ・ディモンドの実の父親。。

 自分の父親よりも高い背に、自分の胴ほどに太い腕と筋肉質の身体。赤茶の髪の騎士団長はこの国特有の青い目を持っている。


「ご相談したい事があります。私にディモンド騎士団長のお時間をいただけませんでしょうか」


 ワードルドは人好きのする笑みを浮かべ、そう尋ねた。

 目を合わせるとディモンドから探るような視線をもらうが、ワードルドは自分の評判を知っている。知っているからこそ、その程度の視線は気にならない。

 しばらく目を合わせ続け、先に視線をそらしたのはディモンドの方だった。

 広間から続く廊下に視線を向けて、口を開く。


「ふむ。私で良ければ相談に乗ろう。あちらの部屋で良いか?」

「はい。ありがとうございます」


 礼を言うワードルドにディモンドは頷き、部下にいくつか話しかける。

 それが終わるとワードルドに視線で促し、廊下へと足を進めた。




 ***




 休憩部屋と呼ばれる部屋に入り、扉を閉める。

 ワードルドは部屋の内側に結界を張り、設置されている椅子へとディモンドを促した。

 そして彼は設置されている茶器を手に取り、慣れた手つきで二人分の茶を用意した。


「よろしければどうぞ」

「うむ」


 目の前に置かれたカップを取り口に含む。

 ディモンドには茶の良し悪しはわからないが、香ばしい香りとすっきりとした後味に自然と笑みが浮かぶ。


「お口に合ったようでよかったです」


 にこにこと笑顔で言うワードルドにディモンドは我に返り、コホンとひとつ咳をした。

 カップを置いて、ワードルドを正面から見据える。


「それで、相談とは?」

「はい。殿下方の療養についてなのです」


 ワードルドの口から言葉が出た瞬間、並大抵の子供――どころか大人でも怯むような強い視線をディモンドが向けるが、ワードルドの笑顔は揺るがない。

 神童。麒麟児。化け物。怪物。

 それがこの少年への魑魅魍魎と呼ばれる大人たちからの評価であることはディモンドもよく知っている。

 小さく舌打ちをして、最初と同じように目をそらした。

 カップを手に取り、茶を一気に飲む。ドンと音を立て、しかし割れないようにカップを置く。


「今年のルートはアレイスター領の近くと聞きました」


 ディモンドが考える時間を待っていたのか、彼が何かを言う前ににワードルドが口を開いた。


「我が領地は隣国と面しておりますから、心配なのです」

「……もちろん、精鋭の中の精鋭をお付けする」

「けれど、ディモンド騎士団長は護衛には加わらないのでしょう?」


 言外に護衛騎士が頼りないのだと言われ、癇に障った顔になるディモンド。

 その迫力は、威圧は、鍛えられた騎士や戦士でも逃げ出したくなるであろうほどの恐ろしさであった。


「王の剣であり盾である私が陛下のお側から離れるわけにはいかない」

「ええ、わかっています。だからこそ、私は心配なのです」

「オレが付いていかずとも、副団長以下の精鋭を付ける。魔法師団からももちろん――」


 何が心配なのだと憤るディスモンドの言葉を、ワードルドは遮る。

 遮って、決まっている事を淡々と告げる。


「――ミストリアの天災(ディスタード)が出てきたらディスモンド騎士団長。あなたか魔法師団長のどちらか……もしくはお二人ともがいないと精鋭とは言っても全滅しますよね?」

「……あん?」


 通称ミストリアの天災、ディスタード。

 隣国ミストリアのある将軍の名前であり、並みの戦士であれば一騎当千どころか万でも億でも三日でも十日でも戦い続ける事のできる人であるはずなのに、人ならざる者(ばけもの)と呼ばれる隣国の人間兵器とも呼ばれる者の事である。

 ワードルドが生まれた頃に勃発した戦で現れ、幾千幾万のルーフェリアの兵士たちが犠牲になり、騎士団長と魔法師団長の二人が協力してやっと撃退する事ができたほどの、天災。


「情報元は明かせませんが、おそらく次の療養で殿下方はその命を確実に散るように狙われます。だからこそのミストリアの天災(ディスタード)です」


 情報元はもちろん前世を思い出したウィズべリアである。

 彼女は王妃と王女殿下が山賊に襲われて護衛ともども全滅するとしか言っていなかった。

 だが普通、山賊に襲われたくらいで王妃と王女についた護衛が全滅をするだろうか。それも、王が妃と我が子を守る為につけた、国でもトップを争う精鋭中の精鋭を、である。

 答えはノーである。万が一、億が一にも山賊に敗れたところで、全滅はしない。精鋭中の精鋭というのは伊達ではないのだ。


「……それが本当なら、情報元を明かせ。でなければ私も魔法師団長(ガイスト)も出る事は適わん」

「療養を中止にするのも不可能ですか?」

「だから、情報元を明かせ。恒例行事だからな。明確な証拠がないのであれば遂行されなければならない」

「そうですね。困りました」


 ちっとも困ったようには見えない口調で、ワードルドは頷いた。

 たかだか九歳の少年に見透かされているようでディモンドの機嫌は下降する一方ではある。が、だからと言って少年の言葉を嘘だとは言わないし、思ってもいない。

 むしろ高確率でこの少年の言った通りの事が起こるのだろうと容易に想像がつく。それほどにワードルドが今までに積み重ねてきた実績は大きいのだ。


「では、私が護衛に混ざるというのはどうでしょうか」

「ダメに決まっているだろう」

「何故ですか?」

「なぜって……」

「自分で言うのも何ではありますが、私の魔法の腕は魔法師団長お墨付きのものですよ?」


 剣の方はまだ初心者に毛が生えたようなものですけどねと軽く言う。

 すぐそこの公園へピクニックにでも行くような気軽さで死地へ向かうと言うワードルドに、ディモンドは絶句する。


 ミストリアの天災(ディスタード)天災(・・)だ。

 文字通り、人の力ではなんともし難いほどの災害。天からの試練なのかと思えるほどの大きな災い。

 国一番の騎士であるディモンドと国一番の魔法師であるガイストの二人が揃って、はじめて撃退できたほどの、化け物。


 そんな化け物の元へ、まだ二桁にもなっていない年齢の子供を放りこむ事なんて。

 ためらいを見せるディモンドに、ワードルドは仕方がないなとでも言うように自分の価値を言葉で示す事にした。


彼の方(ディスタード)が化け物であるのは知っています。

 だからこそ、ここはひとつ、この国(ルフィーリア)でも化け物と名高い私を投入すると良いと思いませんか? 目には目を、化け物には化け物を、です。

 情報元は明かせませんし、かと言って襲われるのがわかっていて何もしない事はできないでしょう?

 なのでこっそりと私が護衛に混ざってしまうのが一番良いと思うのです。

 私はお得な人材だと思いますよ? いかがですか、ディモンド騎士団長」


 自分を化け物だと言い切る少年に、ディモンドは言いようのない寒気が走るのを感じた。

兄(主人公)はチートな人なので、すでに色々とやらかしております。

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