1、妹は弟である
よろしくおねがいしまーす!
「――うぃずは"あくやくれいじょう"なのです」
大きな黒い瞳に涙を浮かべた幼い少女が黒髪の少年へと訴える。
「うぃずは、しにたくありません」
「私もウィズを死なせたくないよ」
少女を落ち着かせるように少年は少女の頭を撫でようとして――巻かれている包帯に目を細め、優しく肩を抱いて落ち着かせるようにぽんぽんと軽く撫でる。そして、言葉には頷きを返した。
泣き止むどころかますます少女の瞳から涙が溢れ、それを少年が優しくハンカチで拭う。
「おにいさま、うぃずはけっこんをしたくないのです」
「うん」
要領を得ない少女の言葉に、兄である少年は問いただす事はせずに続きをおだやかに促した。
妹は一度うつむいて、それから何かを決意したかのように両手でこぶしを作り、もう一度兄を見上げる。
「うぃずは"おとこのこ"なのです」
「……うん?」
突拍子の無い、そして突然話が飛んだように思えて、兄は首を傾げる。
「うぃずは"うぃずになるまえ"は、"おとこのこ"でした」
兄は言葉が妹の言葉の意味を測りかねているのか、目を白黒させていた。
が、だからといって怒ったり、意味がわからないと妹を問い詰めようとする気配はない。
言葉の意味を知ろうと頭を巡らせ、たどたどしい話し方をする妹の言葉に耳を傾ける。
「うぃずは、うぃずがうまれるまえのきおくがあるのです」
「ウィズは女の子だけど、男の子としての記憶があるのだね」
「はい。おにいさまは、しんじてくれるのですか?」
「もちろん。ウィズは私に嘘をついているのかい?」
生まれる前の、前世の記憶がある。
頭がおかしくなったか、幼児ゆえの妄想か。
そう判断されてもおかしくない内容に、不思議そうにはしていても否定をせずに頷く兄。
兄の様子に、妹は驚きに涙をとめて目を見開いた。
自分だったら到底信じないであろう内容であることを妹は自覚していたのだから。
「いいえ!いいえ!ほんとうのことです。うぃずはうそをいっていません」
頭をぶつけて前世の記憶を思い出したウィズべリア三歳と、その兄であるワードルド八歳。
雲一つなく晴れた、ある春の日。
「おにいさま、うぃずがしなないように、きょうりょくをしてください!」
運命というものがあるならば、まさにこの時、二人の運命が変わったと言えるだろう。