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病毒の王  作者: 水木あおい
2章

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忘れえぬ記憶


 間もなく城塞都市リタルサイド。


 王都よりなお大規模な、リストレア魔王国最大の街に思いを馳せながら、私は口を開いた。



「ところでリズ。報告書に、重要な情報が抜けてたんだけどね」



 私は、リズの報告書とレベッカに選んでもらった本で、事前にリタルサイドの知識を入れていた。


「申し訳ありません。不備がありましたか?」


 リズが頭を下げる。


「気候、地理的要因、歴史、駐留戦力など、一通り網羅したつもりでしたが」


「そこは完璧だったよ。ありがとね」

「では、どこが?」



「リタルサイドの名物が抜けてる」



「謝ったのを返して下さい」

「それ、必要か?」

 リズとレベッカが、ほぼ同時に口を開いた。


「何を言うのリズ、レベッカ。確かに私は公務で行くわけだけど、プライベートな時間にちょっと名物を楽しんで英気を養おうというのが、そんなに悪い事かな?」


「悪い事ではありませんが、報告書の抜けとは思いません」

「全くだ」


「まあそれはそうだけど」


「本当に観光気分ですね……」

「完全に物見遊山だよな」


「仕事は真面目にするから。で、名物って何かある?」


「名物……レベッカ、知ってますか? あそこ、城塞都市ですよね」

「城塞都市と言っても、国境側にしか壁はないからな。名物らしい名物はよく分からんが……監視塔が一つ、一般に開放され、景色を楽しめる展望台になっていると聞いた事はある」


「それはいいね」


「でも、マスターは城塞に行くので……多分、高い所からの景色は好きなだけ見れますよね」

「ああ、そうだったな」


「食べ物とかは?」

「食べ物か……。大体どれも美味しいぞ。知り合いの店もある」


「いいね。みんなで行こう。リタルサイドらしい食べ物ってある?」

「カゴネ湖の魚料理あたりがいいんじゃないか。リタル山脈の雪解け水が流れ込んでいる湖だ。景色もいいし、さっき言った知り合いが湖畔に店を出している」


「レベッカ、よく知ってますね」

「これでも長く生きているからな。リタルサイドにもいた事があるし」


「死霊軍として?」


「ああ。駐留軍としてな。合計で……八十……九十……まあ、百年に少し足らないぐらいだったと思う。最後にいたのは多分十年ほど前だな。その時は、二、三十年はいたはずだ」


「……長くない? 後、なんでそんなあやふやなの」


「長いのは、相応の時間生きて……存在しているというだけだ。自分で言うのもなんだが、私は優秀だから便利使いされる事も多かった。リタルサイドは重要拠点だから、駐留軍としてではなく、短期から中期滞在で派遣された任務も数多くある。逆にリタルサイド駐留の際も、他から呼ばれたり、な。記憶が多少あやふやなのも仕方ないだろう」


 レベッカが、どことなく厭世的な笑みを浮かべた。


「それに、不死生物(アンデッド)は、過去は過去として割り切って忘れていくのが普通だ。……特に、長い時を過ごすようになるとな」


 私は、レベッカの目をじっと見ると、口を開いた。



「私の事も、忘れちゃう?」



「……安心しろ」


 レベッカが、皮肉気に笑った。


「私が今まで生きてきた中で、お前が一番珍妙だよ。忘れられるものか」


「照れるよレベッカ」

「褒めてないぞ?」


 微笑んだ。



「誰かに覚えていてもらえるのって、嬉しいよ」



「……そうか」

 レベッカが、苦笑気味ではあったが、確かに微笑みを浮かべる。


「……マスターは、私達の事、忘れちゃいますか?」


 リズが、不安そうに耳を少し下げて、首を傾げた。


「私人間だから、みんなの事忘れる前に死ぬと思うんだよ」


「……そういえば人間だったな、普通の」

「レベッカ。それ、どういう意味かな」


「言葉通りの意味だ。気にするな」

「割と気になるけど……まあいいか」


 頷いた。

 そしてきっぱりと断言する。



「私は、忘れないよ」



 この世界に来る時、大事な記憶をたくさん失った私だけど。


 この世界でまた、失いたくない記憶が出来た。


「……そうですか」


 リズが嬉しそうに微笑み、長い耳が少し上がる。

 花の咲いたような笑顔、という言葉はきっと、今の彼女の愛らしさを表現するためにある言葉だ。



「ていうか、こんな可愛いダークエルフのメイドさんとエルフ耳の幼女を忘れる方が、人間としてどうかしてる」



「……マスターが人間としてどうかしてます」

 また耳の下がったリズ。


「全くだな。まともな人間のする発言じゃない」

 小さくため息をつくレベッカ。


「光栄だね」

 私はにやりと笑った。



「私は"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"。この名前は、人間としてどうかしていなくては、名乗れる名前ではないぞ」



「それはそうなんですけどね……ちょっと違う意味でどうかしてる気がするんですよね……」


 リズの言葉は、聞き流す事にした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] デレてるリズ、いい……! [気になる点] 今ふと思ったんだけど、割とあやふやに召喚してるけど勇者とかは召喚しないんだな [一言] 事前知識として検索したファンアートに何何話からデレ全開のリ…
2023/03/18 06:52 退会済み
管理
[良い点] 捕虜から最高幹部と窮屈な生き方をしてるマスター、守る国のこともほとんど見たことないのでしょう 観光上等。頑張れ護衛班。 [気になる点] 直近十年前、そんだけ開くと街って結構かわるんだけど、…
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