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病毒の王  作者: 水木あおい
2章
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暗黒騎士団長からの手紙


 リズが、ぱん、と両手を打ち鳴らす。


「――はい、会議を始めます。しゃんとして下さい」

「分かったよ、リズ。真面目にやるから議題をお願い」


「はい、暗黒騎士団長より、私に私的な手紙が届きました」


「私的な?」


「それを踏まえて、暗黒騎士団に関して、二つお伝えすべき事があります。一つは『合同訓練』の申し入れです。もう一つは……その……」


「何か? 機密に関する事?」


 リズが言い淀むのは、珍しい。


「ではないのですが……その、マスターに聞かせたくないというか……」


「……わざわざ会議まで開いといて?」


 思わず首を捻った。


「そうなんですけど……マスター……気は長い方ですか?」


 おずおずと聞くリズを、安心させるように微笑んだ。



「それはもう。三年計画で人類を絶滅させようと思うぐらいには気が長い方だよ」



「それ短くないか」

「そういう見方もあるね」


 レベッカの呆れ声に真面目な顔で頷く。


「……怒らないで聞いてくれますか?」


「内容による。でも、リズに怒ったりしないと思うよ?」


 悪い報告をした部下を怒れば、次は悪い報告が来なくなる。


 ――それは、良い報告しか来ない事の、何倍も怖いのだ。


 って、確か昔読んだビジネス書に書いてあった気もするし、古代中国の思想家も言っていたような言っていなかったような。


「……その、暗黒騎士団の若手を中心に、マスターの資質を疑う者がいるようです。今回の『合同訓練』に……"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"を出してほしいと。さすがに訓練申し入れの文面にはありませんが、剣をもって"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の化けの皮を剥がすとか息巻いている一派がいるようです。どうも、前回ラトゥース様……獣人軍の長に助けられた件が、変な風に広まったようで……」


「ふうん」

「……怒らないんですか?」


「聞き飽きたって、そんなの」


 ひらひらと手を振った。

 この程度で怒っていては、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"など……いや、魔王軍最高幹部など務まらない。


「そうですか……」


 リズが、ほっとしたように息をつく。


「ブリジットは、なんて?」

「ブリジット? ブリングジット・フィニスか?」


 レベッカが、ひょいと眉を上げた。


「そう。縮めて呼んでるの」

「不仲と聞いていたが、実は仲が良いのだな」


「……どうなんだろ」

 思わず考え込んでしまう。


 ――私は、まだ、彼女の友人なのだろうか?


 リズが口を開いた。


「正直微妙ですね。というか、一年以上まともに話されていないのでは?」

「でも友人と呼んでいいって」


「社交辞令じゃないですか?」

「え、でもプライベートなシーンで言ってくれて」


「その後怒らせて不仲になったとか言ってませんでした?」

「い、言ったけど」



「……ブリングジット様は、なんと言っておられるので?」



 リズに問い詰められて、私が震え声になって、涙目になりそうなところで、サマルカンドからの助け船が入った。


「それが、団長からは、適当にガス抜きに付き合ってほしい、と。――やり方は全て、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"に任せる、との事です」


「――へえ?」

 私は、余裕を取り戻して、不敵な笑みを浮かべた。



「お受けして、リズ」



「……いいんですか?」

「いいよ」


 跳ねっ返り共の思い上がりを叩き潰す、丁度いい機会だ。


「この短時間で、腹案をお作りになられたのですね」

「ほう。我が主君は頭脳明晰であるな」


 感服するサマルカンドとハーケンに、私は宣言した。



「どうするかはこれから考える!」



「……その思いきりの良さを尊敬致します」

「確かに尊敬に値する猪突猛進さであるな」


「なあ、リズ。いつもこんな風か?」

「割とそうですよ。まあアイディアは悪くないものもあるので……きちんとするのは、おおむね私達部下の仕事ですけど」


「……まあ……そこが大事かもな……」


「でも、どうして急に決めたんです?」

「ブリジットは、私の事を友人と思ってくれてるって事かな」


「意味が分かりませんよ」


「分からなくていいよ。――ないしょ」

 人差し指を、唇に当てた。


「……マスター……本当に姉様と……何もないんでしょうね……?」

 リズが疑惑の詰まった視線を向ける。


「リズが考えてるような事はないよ」



 やり方は任せる。



 『私の』やり方で。


 それを、友人の信頼と受け止めなくてどうするのだ。


 ……本当に"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の非道さを見込んでとかだったら、どうしよう。


「とりあえず資料ちょうだい。真面目に考えるから」


「まず資料見てから決断して下さると嬉しいんですけどね。部下といたしましては……」

 そういえば、部下の時は私も思った気がするなあ、それ。



「ごめんね。――でも、みんなの事、信頼してるよ」



「ありがたきお言葉です」

 かしこまるサマルカンドの口元には、満足気な笑み。


「主君の信頼とあらば、応えぬわけにはいかぬな」

 ハーケンがからからと顎骨を打ち鳴らして笑った。


「……マスターのそういうとこ卑怯ですよ……」

 リズがぼやきながら苦笑した。


「精々苦労してやるよ。『マスター』?」

 皮肉気にレベッカが笑う。


 そういえば、思った事がある。



 笑顔の溢れる職場で働きたいなあって。



「よろしくお願いね」

 私も、みんなに向けて笑った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] マスターには伝わったブリジットの信頼。 病毒の王として真面目に対応…それ絶対ヤバいやつ [一言] チーム病毒の王 リーダーはマーシュ(沼)グリーンことマスター ハーケンは鬼火ブルー。リズ…
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