表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病毒の王  作者: 水木あおい
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/577

黒いもふもふの海の中で


 仕事が、とても忙しくなった。


 定期報告のチェックをするいつもの仕事以外は、プライベートの時間も削って、新しく入ったお仕事に励む。


 少しばかり『ブラック』な労働環境だ。


 一匹のバーゲストの後ろに座り、首筋の黒く艶やかな体毛に指を差し込み、もつれたそれを指でくし梳かす。


 ふんわりした首元の毛にそっと頬を埋めると、さわさわした毛先がくすぐったくて、自然と笑みが浮かんだ。


 もう本当にブラック。


 一応はバーゲストの事を警戒し、監視しているリズが口を開いた。


「マスター。経過は、どうですか?」


「順調極まる!」


「……あ、はい。何よりです」




 誠心誠意心を込めて、国家のために忠勤している私の顔に影が落ち、レベッカの声が降ってきた。


「……報告は聞いているが……今、何をしているのか、聞いてもいいか?」


 ――バーゲストの腹毛を枕に芝生に寝転んで、わさわさと塊になった黒犬さん達を、手のひらに触れた端から撫でるというお仕事を中断し、身体を起こして座り直した。

 黒い毛玉の海がうごめき、固まって寝転んでいたバーゲスト達がばらけて、私を中心に集まり直す。 


「お仕事中! あっ、こら、お話中は舐めるんじゃない」


 その内の一頭が、べろんと頬を舐める。

 確かに舐められたはずなのに、すーっと唾液は消えて、不思議な清涼感だけが後に残る。



挿絵(By みてみん)



 とても楽しいが、お話中に邪魔をするのはよくないので、ぎゅーっと首筋を強く抱きしめて拘束する私。

 どうも気に入られたらしく、大人しく受け入れるバーゲスト。頭を私の肩に載せて、体重をゆるく預ける。


「……これが、黒妖犬(バーゲスト)だと?」


「私にとってはね」


 耳をよけて、頭を撫でる。

 一通り撫でて解放すると、名残惜しそうに入れ替わった。


 次の子の前に手のひらを上に向けて差し出すと、お手をしてきたので、両手で包み込んで肉球を揉み倒した。


「これが、黒妖犬(バーゲスト)を懐かせる手法だというのか?」


「正直言って、一から使える『手法』かは知らない。でも私は、そうじゃなかったとしても、こうするよ」


 そうしている間にも両側からすり寄ってくる二匹のバーゲストの首筋を、両腕でかき抱いた。


「全く、大変なお仕事だね」


「なるほど。随分と楽しそうなお仕事だことで……」


 そしてくるりと踵を返そうとするレベッカ。



「――レベッカ。おいで」



「……は?」


「『この子達』はこの館の守護者にして、私の手足たる魔獣だ」


「あ、ああ……」


 キリッとした"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の口調になった私の言葉に、レベッカが気圧されたように頷く。



「この子達と君は、明確な友好関係を築くべきだと、私は確信している」



「マスター、相変わらず適当な理屈付けの時だけは、お口の回りが絶好調ですね」


 私の真面目な口調に惑わされる事なく、若干冷ややかな視線を向けるリズ。


「そんなに褒められると照れるって」

「褒めてませんよ?」


「言葉は受け取る側によって意味を変えるものだよ」

「さすがに元の意味を変えすぎだと思うんですよ」


 正論なので、聞かなかった事にした。

 反論する代わりに、手招きする。


「リズもおいで」


「……分かりました。さ、レベッカ」

 リズがレベッカを促す。


「え? え?」

 困惑するレベッカに、リズが微妙に死んだ目で現実を告げる。



「死霊軍でのお仕事が、一体どういうものだったのか分かりませんが……ここではこれも、立派なお仕事なんですよ……」



「えっ、うわっ、ちょっ! ――なあ! これ本当に大丈夫なんだろうな!?」


 私より体が小さいので、バーゲスト達にすり寄られ、のしかかられると、すぐに埋もれて見えなくなるレベッカ。


 彼女の慌て声をよそに私は、服が黒一色なので、バーゲストの体毛と同化しやすいのも一因か、と冷静に分析する。


 黒いもふもふの塊がうごめく様が何かに似ていると思ったら、ニホンミツバチが天敵のスズメバチ類に対して行う『布団蒸し戦法』だった。


「安心しなさい。命を懸けて保証してやろう。ただお前達、手加減しろよ。ていうか、何匹かこっちおいで」


 新顔が嬉しいのか、割と人気なレベッカ。


 ちょっぴりジェラシーを覚えるほどだったが、手を広げて呼ぶと、半分以上がこっちに来た。


 嬉しくなって、構い倒す。


 リズも、大分この子達のあしらい方が上手くなった。


 かつて黒妖犬(バーゲスト)の群れ――獲物を見定める上手さから、『見たら死ぬ』と言われるほど恐れられる――とやり合った事があるというから、触れる手がぎこちなかったのも今は昔。


 芝生に膝を崩して座り、二匹の顎裏を指で掻いている様は尊い。


「な、舐めるな。あ、噛むなよ? 絶対噛むなよ!?」


 レベッカも、いずれ慣れてくれるだろう。

 今は、大きな口に呑み込まれそうになりながら、小さな手を舌で舐められたりしているが。


 命に懸けて保証したし、安全だと信じてはいるが、どうも味見に見えて、不安になる光景ではある。


 リズに二匹、レベッカに三匹。そして私に六匹がすり寄って、思い思いに構ったり構われたりしている。


 後二十匹か、それ以上増えるとなると、これは忙しくなるかもしれない。


 フードを軽く噛まれて引っ張られたので、その子の首元にもたれかかるように倒れ込む。


 わらわらと寄ってくる他の子達を先着順で捕まえ、抱きしめ、黒いもふもふの海に埋もれるように寝転がった。



「……やっぱりマスターへの懐き方はおかしいですよね」


「やっぱりこれ、お前の目から見てもおかしいんだよな。私だけがおかしいんじゃないよな」



 私は、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"。

 国家に忠誠を尽くす、魔王軍最高幹部。


 今日も、国家のために身を粉にして働いたという自負がある。



 ――可愛い女の子二人と一緒に、十匹以上の大型犬とたわむれる、とても幸せなお仕事だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 珍しくジェラシーなマスター 呼び戻すとこが可愛い。 人気のレベッカ、味見疑い(笑)黒犬さんの感想を聞きたい [気になる点] 後から来たコをかまうときは前からいるコも構うべし 黒妖犬のことじ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ