ファイナルステージ
ゲームの文言とはいえ、『愛してる』を自然と言い合えるとは、なんて素晴らしいゲーム――と、ぬるま湯のようなことを考えた私は、甘かったらしい。
もちろん、もっと仲良くなるためにしている、というのが大前提だ。
しかし同時に、これは勝敗のあるゲームでもある。――真剣勝負において手加減は相手へと失礼。常に全力で、ルールの限り、勝ちに行く。それもまた、正しい姿だ。
そしてリーズリット・フィニスという女の子は、妻を相手にしたささやかな交流ゲームにおいても、貪欲に勝利を求めた。
優しく抱きしめられたまま、キスされる。
私も応えつつ、ここからどんな風にゲームを進めていくのか……と見に回った。
それが、甘かった。
私はこのキスを、次に『愛してる』を言うための下準備と考えていて。
リズは、そうではなかった。
ぐい、と後頭部に手を回され、逃げられないように固定された上で、リズの舌が唇をこじ開けるようにこちらの口内に侵入した。
「あいふぃてまふ」
……え?
私は、キスしながら愛をささやかれたことも、逆にささやいたこともある。もちろんリズだけだが。
しかし、今こんなタイミングでされるとは思っていなくて。
言葉を喋る時特有の舌の動き。鼓膜すら通さずに脳に直接叩き込まれるような、愛のささやき。
その全てが、私の余裕を奪い『照れ』させるには十分だった。
力が抜けていき、そのままリズに追い詰められるようにして、ソファーの肘掛けに背を預けると、クッションが優しく迎えてくれた。
キスを終えたリズが、身を離して首をかしげる。
「……マスター、このゲーム向いてないんじゃないですか?」
「え、や……だって……」
うろたえながら言葉を探す。
「まあ、私はそういうマスターも好きですけどね。……同じことしても、いいんですよ」
リズは、私が言葉を見つけるのを待たずに、もう一度くちづけた。
そうだ。まだ、逆転のチャンスはある。
さっきの頬の赤みが残っている気がするが、次こそ勝ちに行く。
既に三敗している。いずれも一回の『愛してる』とその亜種で。
こちらに回ってきた三回目の『愛してる』を言えるチャンス。
リズの舌に、自分の舌を絡めるようにして愛をささやく――
「あい……ふぃ……」
――のに、失敗した。
このゲームは、先攻、つまり最初の攻撃側が有利かというと、そうでもない。
なにしろ、『愛してる』という言葉は、言う方も恥ずかしいのだ。
改まって向き直って……となればなおさら。ゲームというシチュエーションが、さらに恥ずかしさを増幅する場合もある。このゲームの基本は一対一だが、ギャラリーがいる場合などでも話は変わってくる。
照れて、『愛してる』と最後まで言うことすらできないのも、よくある話。
ただ、それは素人の話で、リズに愛をささやくことに関してはベテランであると自負する私は、自分がそんな負け方をするとは思っていなかった。
しかし、わずか三巡目にして、『キスしながらの愛してるゲーム』なんて高度なステージに変貌した戦局を見誤った。
しばらくそのままキスを続けた後、お互いに相手を解放する。
「……やっぱり、このゲーム向いてないみたいですね?」
にやー、っと笑うリズ。
その顔すら愛しくて、私は無言で目をそらすと、口元を手で覆った。
上位死霊だというのに、耳まで熱くて、心臓がどきどきしている。
自分から話を振っておいて、このザマとは。
認めたくはないが、どうやらこの、私達夫婦用にチューニングされた『愛してるゲーム』において、私はリズに勝てないらしい。
静かに勝利を諦め、敗北の味を噛み締める。
……とても甘い。
「リズ……このゲーム、私以外にやらないで……ね?」
「……当たり前じゃないですか」
リズのマフラーが、ぽふっ、と私の頬を撫でた。
イラスト、セリフのフキダシありver:https://27310.mitemin.net/i1041815/




