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病毒の王  作者: 水木あおい
2章
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愛らしい幼女と親睦を深めるための手段


「……なんだ、風呂か」


 全てを諦めたような絶望の表情を浮かべていたレベッカが、連れて来られたのが大浴場だと分かって、ほっとした顔になる。


「そうだよ。何だと思ってたの?」

「い、いや……裸にするとか、ぬるぬるの液体漬けとか……その……」


 頬を赤らめて、目と耳を伏せるレベッカ。


「全くエロいなあ。あ、経験豊富? 私処女だからする時は優しくしてね」


「エロっ……!? しょっ……!? ば、馬鹿! 破廉恥な!」


「あ、これ耳年増だね、間違いない」

「つまりマスターと同じですね」


「言うようになったねリズ」

「鍛えられましたから」


「……一応言っておくと、私はアンデッドだから、別に入浴など必要ないぞ?」


「え?」

 この、柔らかくて体温があって頬を赤らめる幼女が?


 不死生物(アンデッド)


「ダークじゃないエルフじゃなかったの?」


「……かつては、な。エルフは、もういない」

 レベッカの顔に、風化した痛みが浮かび上がり、疲れたような顔になる。



「人間に滅ぼされた……」



 これが、私のしようとしている事。

 一種族を、この地上から滅ぼして絶やすという事だ。


 涙も流さずに泣くような。

 涙が涸れ果てて、それでもなお悲しみを抱いているような。

 この子に、そんな顔をさせるような所業なのだ。


 けれど、人間は既に『そうした』のか。


 かつての彼女が属していたという種族を。

 きっと、肌の白いエルフ耳で、可愛い女の子が沢山いた種族を。



 この地上から、絶滅させたのか。



「エルフ耳の素晴らしさを解さない愚か者共め……」

 吐き捨てる。


「……リズ。すまないが、教えてくれ。どういう意味だ?」

「私にもちょっとよく分かりません」


「この世界に来て嬉しかった事の一つは、生のエルフ耳を拝めた事だよ」


「はあ……マスターの故郷、エルフもダークエルフもいないんですよね?」

「いないよ。――人間しか、いない」


 思い返せば、この世界に比べると、随分シンプルな世界だ。


「エルフも、ダークエルフも、獣人も、不死生物(アンデッド)も、悪魔(デーモン)も、(ドラゴン)も、いないんだ。後、黒妖犬(バーゲスト)とかの魔獣もね」


 それなのに、争いの絶えない世界。


「私の世界でも、人間は、人間とずっと殺し合ってきた」


 私は、一転してにこりと笑った。


「だからまあ、私はこの国を全面的に支持するよ! 全世界のエルフ耳の女の子を守るために!」


「リズ。言ってる意味分かるか?」

「マスターが頭おかしいって事しか分かりません」

「そうか。私もだ」


 本当に、随分と馴染んだものだ。




 "粘体生物生成(クリエイトウーズ)"を連打して『お湯』を溜める。

 手を突っ込んで、浴槽一杯に張られたウーズに魔力を流して温めながら、口を開いた。


「でもこの館お風呂広いよねえ。先代の館の主さんとは趣味が合うかも」


 浴槽は大理石で作られているし、とても広い。

 かなりお風呂にはお金を掛けたお屋敷だ。


「ていうか多分、個人用じゃないんですよ、ここ。館の規模からしても、使用人と主が時間を分けて使う事を前提にしてるんじゃないですかね。それで、使用人は何人かまとめて入ると」


「あーなるほど。主人用、使用人用とか作ってると、余計な手間掛かるよね」


「使用人の身だしなみに気を遣うのは主として当然ですしね」

「うちのメイドさんはどこに出しても恥ずかしくないから大丈夫だよ」


「えへへ……私、本職はメイドじゃないんですけどね」

「分かってるよ。でも、それも大事な仕事だよ」


「そうですか?」


「主に私の精神衛生上」

「あ……はい」


 とぷん、とウーズの湯船から腕を上げる。


「出来たよ。入ろっか」



 ウーズ風呂。

 召喚呪文"粘体生物生成(クリエイトウーズ)"で召喚したウーズを、やはり魔法で温めてお湯代わりにして入浴する、魔族にとってメジャーなタイプのお風呂だ。


 日本人の感覚からすると、怪しさメーターが針を振り切るタイプのお風呂だ。


「はあぁ~」


 なのに、ここへ来て一年ほど、このタイプの入浴に慣れ親しんだ結果、安心感を覚えるようになった。


 特に、王城へ召集を受け、正装で最高幹部らしいキリッとした振る舞いをした日のお風呂は格別。仕事の疲れがお湯に溶けていくような気がする。


 今日は王城へ行っていないが、着任準備で慌ただしかったし、着任の挨拶とかもどんな人が来るか緊張した。

 その疲れが、癒やされていく。


 健康的な褐色肌のリズと、透き通るような白い肌のレベッカを同時に視界に収めていると、さらに癒やし効果がアップ。

 ちなみに彼女は、服を脱いでもティアラを着けたままだ。


「レベッカ、お肌白いねえ」

「日に焼ける事もないからな」


「……マスターは、肌が白い方が好みですか?」


 どことなく不安そうなリズに、私は微笑んで見せた。


「私は、褐色の肌も、白い肌も、両方大好きだよ」

「それは良かったです」


「ところでレベッカ。なんでそんなに離れてるのかな?」


 広めの湯船を利用して、私から限界まで離れた所にいるレベッカ。


「警戒する権利があると主張するのはおかしいか?」

「大丈夫だよ、私、自分より年下の女の子の裸とか見慣れてるタイプだから」


「何が大丈夫なのか全く分からない」


「……マスター、一体どういう人生を送って来たんです?」

「それは色々とね」


「……あと、私はお前より年上だからな?」


「そうなの?」

「着任前に、実績豊富なベテランって言ったじゃないですか。建国間もない頃からの軍歴は伊達ではないですよ」


 今年は、建国歴四百二十年だったと記憶しているのだけど。


「分かった。でも大丈夫。地位と権限は私が上だよ」


「……大丈夫な要素がどこにも見つからないんだがな……」

 乾いた声のレベッカ。


「もういいだろう。私は先に上がらせて貰うぞ」

「ダメだよレベッカ。一万数えてから出ないと」


「それはどこの風習だ?」

「私の故郷かなあ」


「あの、マスター。私には百数えてから出るって言いませんでしたか」

「そういう説もあるね」


「…………」

「…………」


「それに、まだ身体洗ってないし」

「いや、私不死生物(アンデッド)だから。老廃物とかないから」


「それでも埃とか付くでしょ?」

「ウーズ風呂に入れば十分だから」


「召喚生物ごときに可愛い部下を任せられません」


 有無を言わさぬ強い口調で告げる。

 湯船から上がると、身体を洗うタオルを手にした。


「――ほら、おいで。隅々まで綺麗にしたげる」


「……拒否権は?」


 救いを求めるようにリズを見るレベッカ。

 リズが、すまなさそうに首を横に振った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 病毒の王といえばお風呂!ばばんがばんばんばん レベッカはドキドキ、リズはハラハラ、マスターはワクワク [気になる点] >えへへ…… >……マスターは、肌が白い方が好みですか? なんかリズ…
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