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病毒の王  作者: 水木あおい
1章
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竜の呪い


 私と私の部下達をこんなにした相手――白い鎧の騎士の事を聞くと、リズが一つ頷く。


「あ、はい。一応調査の結果が出ています」


「あの強さ……回復能力の理由と、どういう目的で、どういう侵入経路で来たか、分かってる限り教えて」


「分かりました。あの白い鎧の騎士の出身はランク王国で、"ドラゴンナイト"だった事は、ほぼ間違いありません。詳細を確認中ですが、おそらく隊長です。最後の、と言うべきでしょうか」


「……"ドラゴンナイト"って、ドラゴン降りてもあんなに強いの?」

「安心して下さい。あれが『特別』です。残り四名に関しましては――」


「あ、それは今はいい。また今度、報告書でお願い」


 目の前で見ていない二人は知らないが、それもリズが殺したはずだ。

 普通に殺して死ぬような相手なら、急いで聞く必要もない。


「はい。目的は"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の暗殺であったと推測されています。派手な陽動という可能性はありますが、現時点では、目立った動きは報告されていません。私見ですが、多分素直に暗殺でしょう」


「まあ、あれで違ったら困るけど。――侵入経路は?」


「持っていた地図の印などから、リタル山脈を徒歩で踏破して大森林を抜けて来たと思われます」


「待ってリズ。……『リタル山脈を徒歩で』って言った?」


 私の記憶が正しければ、それは国境線代わりの高峰が連なり、万年雪で頂上が白く染められた山脈の名前だ。

 ドラゴンの住処であるという事を差し引いても、雪崩の巣だ。

 魔法があってさえ、人が安全に山越えを出来るような山ではない。


 しかし、そこで思い至った。


「……あ、低くなってるとこ?」

「いいえ。高くなってるとこです」


 低くなっている所はあるが、そこは城塞も築かれ、リストレア魔王国の警戒が厳しい。

 確かに、高くなっている所ならば、警戒が薄い……というか、警備自体がいないだろう。

 でも。



「馬鹿だよね?」



「馬鹿ですね」

 リズが同意した。


「でも……もう少しで上手くいくとこだったんだよね……」

「さすがに馬鹿すぎますからね。あのルートを少数突破されると……ちょっと……」


 リズの表情が曇る。


「再発防止は?」

「ドラゴン側へリタル山脈の防空網見直しのお願いと、後は、獣人軍が、巡回を多少強化してくれるとの事です」


「まあ、失敗したわけだし、そんな馬鹿がもう出ないとは思うけどね……」


「そう思いたいものですが、可能性は無視出来ません。無用の警戒を続けるのもそれはそれで負担なのですが……」


 "病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"がよくやる戦術だ。

 例えば一つの村を全滅させても、次は隣の村を襲ったりしない。


 規則性を持たせず、各地に出没する捉え難い影が、私達だ。


「まあ、このルートを私達に気付かれず、大軍を動かすのは無理だと思うので、頭の片隅に置いて警備してもらうのが現実的な落とし所でしょう」

「だね」

 頷いた。


「それで、強さの秘密は?」



「ドラゴンの血です」



 そういえば竜の加護とか言ってた。

 "ドラゴンナイト"とはつくづく因縁があるらしい。


「ドラゴンの血って、そんな効果あるもの?」


「普通はそんなに強い効果はありません。少量ですが、手持ちに残っていた飲み薬(ポーション)を解析に回しました。ドラゴンの血をベースにしていたようです。精製方法などは不明ですが、服用すれば、最高強度の治癒魔法が常時発動した状態になる……とでも言えばいいでしょうか」


「不死身って事?」


「効果時間中はそうです。実際、脳を破壊したと思ったら動きましたからね。不死生物(アンデッド)でもあそこまでしぶとくないですよ……」

 リズが再びぼやく。


 でも確かに、言いたくなる気持ちも分かる。


「あんなものが大量に作られたら……」


 ぞっとした。


「それに関しては、そのー……多分大丈夫だと思うんですよ」


「どうして?」

 語調を少し強めて聞いた。


 "ドラゴンナイト"の一員であり、なおかつ隊長だったというなら、それなりの強さを持っていただろう。


 けれど、近衛師団のリズと、上位悪魔(グレーターデーモン)のサマルカンドを、ああも圧倒出来るほどではなかったはずだ。


 常人を、不死の英雄に変える薬。


 その薬とは、そういうものかもしれないのだ。



「調べてくれた、王城に詰めている研究者によると『こんな服用者への殺意に溢れた薬と術式は久しぶりに見た』だそうで」



「……副作用あるの?」


「副作用しかない、と言いますか。詳しくはもっと調べてみないと分からないという事ですが、どうも生命力……言ってしまえば、寿命を前借りしてるみたいなんですよね……」


「何その悪魔の発明」


「人間の方が薬学に関しては進んでいますからね。……とはいえ、成分に関しては、ドラゴンの血がベースなのは間違いないようです。いくら"ドラゴンナイト"を擁していた王国とはいっても、もういませんし、量産は無理でしょう。……いっそ量産させた方が、片端から戦える人間を使い潰してくれるような気もしますけど」


「最後のは危険思想すぎる。ていうか、『竜の加護』とか言ってたけど呪いじゃないのそれ」


「マスター鋭いですね。呪いに近いそうですよ。"血の契約"に近いところもあるとか。服用を止めても死ぬ可能性があるとの事で……あの量では、おそらく一週間もせず自滅していたでしょう」


 くすりと呼ぶより、ヤクと呼ぶべき代物か。


「分かった」

 頷いた。



「念入りに潰せ。必要なら陛下に予算と人員の追加をお願いしてもいい。――"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の名において命じる。素材、施設、人員に至るまで、あの薬に関わった全てをこの地上から消滅させろ」



「はい、マスター」

 リズが、優雅に微笑んで頷いた。


「ところで、竜の血って薬用効果あるの?」


「……一応、効能は確認されています。ダークエルフと獣人に、ほぼ同じ効果が出ます。人間も多分、同じかと」


「どんな?」

「い、言わなきゃダメですか?」


「なに? 私が知ったらまずい事? 何か危ない事に使いそう? 例えば猛毒とか」

「用法・用量を守る限り、毒ではないです、毒では……」


「明確に拒否する理由がないなら教えて」


「……血管の拡張効果とかあって、魔法では難しい体質改善を目的として、ごく少量が医療現場で使われる事が……」


 別に伏せる必要がある効果や、用途には思えない。

 つまり。


「その口振りだと、他にも効果があるんだよね?」


 リズが、少し頬を赤らめて、ささやくように言った。



「精力増強効果があります……」



 なるほど、スッポンの生き血。

 心の中で頷く。


「もう一回言ってくれるかな」


「精力増強……です」


「もう一回お願い」


「せ、精力……って、明らかにもう分かってますよね!?」


 顔を赤くして叫ぶリズに、私はにこやかな笑顔を崩さずに答えた。


「ええー? そんな事ないよ?」



「そういうたわむれに付き合うのは業務範囲外です!」



「ちなみに手に入る?」

「……理由を明確にして、陛下を通して頼めば、少量なら問題ないでしょう」



「個人的に部下のメイドさんに使ってみたいって理由、通ると思う?」



「断固阻止します」


「分かった。私が飲む方がいいんだね」

「そんな事は言っておりません」


「あれ、両方が飲むべき?」

「そういう事も言っておりません」


 リズと、いつものようにたわむれていると、なんだか肩の力が抜けた。

 ふかふかの枕とシーツに身を預け、ゆっくりと頭を沈める。



「『いつものお仕事』も大変だね」



 微笑んだ。


 そこで、ベルの音が聞こえる。

 来客だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 単純で馬鹿な方法だが有効。 でもそんな命令で全滅した暗殺者達は報われないな。 人間魔力袋と同じ発想。 [気になる点] そんなヤバいヤク漬けだった死体で復活したサマルカンドが心配。 主への愛…
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