EX7. 夜戦用特殊装備(全年齢版)
現状維持という選択肢は容易い。
現状が満足いくものなら、なおさらだ。
しかし、同時にそれは思考停止という傲慢さでもある。
ゆえに、私達は考え続けねばならないのだ。
可愛い女の子の可愛さを引き立てる服を。
可愛い女の子は何を着ても可愛いというのは、真実ではあるが、やはり思考停止に他ならない。
より引き立てる可愛い服があるし、特定のシチュエーションで輝く服もある。
そう。
例えば、夜、ベッドで、とか。
リズは、私が紙袋から取り出して差し出した『服』を広げ、裏返し、引っ張り、そして眉をひそめた。
「……なんです、これ?」
「エリシャさんの所で特注してきた」
「いえ、そこに疑問を持っているわけではないんですけど」
服関連だと、大抵エリシャさん絡みだ。
かなり頻繁に通っているので、既に常連の域。
親しいとも言えるが、なんというか……客や友人と言うよりも同志なのだ。
彼女は可愛い服を作って可愛い女の子に着せたい。
私は可愛いお嫁さんと可愛い妹と(以下略)に可愛い服を着せたい。
ドライな言い方をすれば、利害関係が一致しているとも言う。
「見ていてもよく分からんのだが。なんだその服?」
リズだけでなく、レベッカもいる。
私は、怪訝そうな顔をしている二人に向けて、正確に名称を伝える。
「アニマルパジャマです」
「あにまるパジャマ……?」
異国の言葉を聞いたとでも言いたげなリズ。
「こっちはレベッカね」
「え、待て。私の分もあるのか?」
「もちろん。さ、お風呂入って着替えようね」
最近は、誰かしら一緒にお風呂に入ってくれる事が増えた。
リズはもちろんだし、レベッカも週一から三日に一度ぐらいまで、入浴の頻度を増やしている。
アイティースもよく一緒に入っているが、文字通りリストレア中を飛び回っているので、なにかと家を空けがちだ。
"第三軍"の"闇の森"駐屯地にも部屋があり、今日はいない。
リズが、しみじみと息をついた。
「……マスター、上位死霊になってもお風呂好きですよね」
「アイデンティティに関わる所だと思うんだよ」
私は、真剣な顔で、うんうんと頷く。
「レベッカ。意味分かります?」
「恐ろしい事にちょっと分かるようになってきた」
「恐ろしい事にってなあに……?」
「気にするな」
「いや、気になるんだけど……うん、まあいいや。それで……着てくれる?」
「……まあ、いいですよ。ちょっとファンシーですけど、パジャマですよね」
「別に構わん。……それぐらいのたわむれは、付き合ってやる」
頷いてくれる二人。
とても仲良くなっている気がする。
……感覚が麻痺してるんじゃないかという気も、少しだけする。
レベッカにも渡し、改めて検分したリズが首を傾げた。
「……私、ネコなんですか?」
レベッカも疑問を表明する。
「リズがネコなのは分からんでもないが、なんで私がクマなんだ?」
「単に可愛いからだけど、一応リベリットグリズリー討伐にちなみまして」
「ちなむ意味が分からん」
「で、私は?」
「単に可愛いから」
深い意味は――ない。
「ところで、その袋……まだ何か入ってますよね?」
「え……これは……その……」
「何ですか。見せて下さい」
「うん……これなんだけど」
「……黒いパジャマ……あ、犬ですか?」
リズが広げたのは、黒いアニマルパジャマだった。
基本デザインは共通していて、違う所と言えば耳と尻尾となる。
「うん……バーゲストにちなんでだって。リズとレベッカにこういうの着せたいねって話で盛り上がって注文出したんだけど、そしたら私の分も作ってくれた。……なんか、『二人が可愛いパジャマ着てるのにいつものパジャマで混ざろうとか許せない』だって」
「……最高幹部にそこまで言えるのすごいですよね」
「プロフェッショナルとはそういうものだ。妥協は許せないんだろう」
確かに。
自分で言うのもなんだが、私は魔王軍最高幹部として、雰囲気とハッタリで、かなり危ない橋を渡り切った過去がある。
その私が、眼力と有無を言わせぬ態度で押し切られた。
信念と覚悟が、並ではない。
「ちょっと楽しみになってきました」
「ああ。いつも私達にばっかり着せようとするから、丁度いい」
そう言って笑い合う二人。
私は、大分強くなったはずなのだけど。
何故か、狩られる側になった気がした。
お風呂を終えて、きちんと着た姿を見ると……出てくる感想はありきたりなものだった。
「二人共可愛いよ! すごく似合うね!」
「……思ったより恥ずかしいんですけど」
「……私もだ。なあ、これでいいのか?」
「パーフェクトだよ」
断言する。
多分、地球だと十代……前半。下手をすると一桁年齢向けだとか、そういう事は言わない。
ふわふわ起毛の生地でゆったりと仕立てられた、フード付きのパジャマだ。
上下は分割されていている。
リズは髪の色に合わせた薄い灰色。
レベッカは明るい茶色。
それぞれお腹の部分が一段薄い色になっている。
ピンと伸びた猫耳に、先の丸い熊耳。
それに長い猫尻尾と、短い熊尻尾が、実にラブリーだ。
リズは胸の前に手を寄せて私を見つめ、レベッカは逆に両手を広げて、余った袖を握り込みながら、ちょっと目をそらし気味にする。
私も着ている。
色は黒で、デフォルメされているので少し猫耳との差が分かりにくいが、少し長めのピンと伸びた犬耳に、ふさふさ系の尻尾。
「マスターも似合いますね」
「ああ、年相応に見えるぞ」
バーゲストとお揃いになったみたいで、ちょっと楽しいが。
「……年に合わない気が……するんだよ」
肉を切らせて骨を断つ、という言葉が頭をよぎる。
「この中で一番年下のくせに何言ってるんです?」
「普通に可愛いから安心しろ」
長命種基準は優しい気がする。
「まあ、一番可愛いのはリズだけどね!」
そう言って抱きついたら、リズに無言で猫パンチされた。
可愛い女の子にネコパジャマで猫パンチされる以上の幸せが、あるだろうか。




