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病毒の王  作者: 水木あおい
1章

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最終解決案


 対魔族同盟の円卓会議は、ランク王国が主導するのが常だった。

 三国の中で最も古い歴史を持ち、最も豊かな国土を持ち、国境が魔王国と接している割合も最も多い。


 帝国と神聖王国にしても、それを面白く思わない向きがあるにせよ、魔族が人類の敵だという共通認識に変わりはなく……何かとリーダーシップを取りたがる王国を陰で冷笑しつつ、機嫌を損ねないように立てるのが、いつもの風景だった。


 今日もそのように会議は始まった。



「我々は、最終解決案を選択するに至ったと報告させていただく」



 王国代表が、重々しく宣言する。

 小太りな体型。低い身長。カールした髭。ひょうきんとも取れる外見に似合わぬ威厳は、王国有数の貴族という立場に由来する。


「最終……解決案?」

 帝国代表が眉をひそめる。王国代表とは対照的な、軍人を重んじる軍事国家らしい、厳つい外見をした禿頭で褐色肌の武人だ。


「王国は"ドラゴンナイト"を失われたばかりでありましょう?」

 神聖王国代表も、控えめながら確かな疑念を表明する。三大国代表の中では唯一の女性で、ゆったりした白の司祭服が宗教国家らしい。


 王国の立場は、じわじわと弱くなっている。

 神聖王国の代表に言われたように、最強の戦力たる竜騎士を、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の魔手によっていいように蹂躙されたからだ。


「なればこそ。大軍では国境線を抜けられぬ。最精鋭を五人、派遣した……」


「五人ばかりで何をなさるとおっしゃる」


「"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"を討つ。きゃつめ、友軍にも嫌われておるらしい。普段は、王都郊外の館にごく少数の手勢と共に隠れ潜むように暮らしているという事だ」


「それは……確かなのでしょうか?」

「確かな情報だ」

 王国代表が大きく頷く。


「"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"さえ討てば、数で勝る我らが負ける道理などない」


「独断でそのような勝手な真似……」

「"ドラゴンナイト"を失われたからといって焦りすぎでは?」


「なんとでも言われよ。……悠長に構えてなど、いられぬ」


 握りしめた右の拳をゆっくりと振り上げる。



「奴を排除する! 今使える、最高の手札で!!」



 振り上げた拳が、思いきり机に叩き付けられた。

 馬鹿でかい音が議場に響く。


 今さらこんなパフォーマンスに怯むような者はここにいない。

 だが、王国の断固たる意志を示すには十分だった。


「……成功の暁には、本格的な攻撃を開始する。よろしいな?」


「確かに……"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"さえいなくなれば。――帝国は賛同する」


「神聖王国にも、異論はありません。あれは、おぞましきもの。排除せねばならぬ悪です」


 帝国と神聖王国の代表が、それぞれ頷く。


「各々方も、帰って伝えられよ」

 王国代表が、円卓に集う小国家群の代表に、形ばかりの発言権はあれど、拒否権はないとばかりに素っ気ない言葉を投げかける。


「それでは、成功を祈ろうではないか」


 王国代表が両手を広げ、ぐるりと円卓に座った面々を見渡した。


「我らの勇者に、武運があらん事を」


「かの勇者に、皇帝陛下の恩寵があらん事を」


「我らに、神の御加護があらん事を……」


 三大国家の代表三人の三者三様の祈りが終わり、会議が終わる。




 夜の静寂が、つんざくような警報音に破られる。


 ベッドにいた私は、ぱっと目を開けた。


「マスター!」


 警報音が最初に響いてから、大体五秒で、部屋の扉が開けられる。

 リズだ。

 きっちりメイド服を着込んでいるのはさすがと言うべきか。


 クローゼットを開け、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"セット一式を私に向かって放り投げる。


「いつもの服、着て下さい。仮面も。――サマルカンド!」


「ここに」

 サマルカンドが、開け放たれた扉からぬっと入ってくる。


「マスターの護衛、任せます。最優先はマスターの命です」

「言うまでもありません」


「リズ」


「反論は聞きません。警報を感知するとほぼ同時に、敷地内の黒妖犬(バーゲスト)の魔力反応が途絶えました。三名侵入を確認。……早すぎる」


 バーゲストが?


 庭で爆発音が響いた。

 攻撃魔法? ……いや、リズの罠か。


 リズが頭を押さえて呻いた。


「力ずくでトラップゾーンをぶち抜いて来てますね……エントランスホールで迎え討ちます」


「リズ様。私めも共に」

「どうも外にまだいるようです。こんな時のための複数での護衛体制でしょう。……大丈夫、あなたはマスターの安全だけを考えていなさい」


「それは無論です。しかし……」


「議論をしている時間はありません。この部屋は地下室の次に守りが堅い。扉を閉めれば相応に手間を掛けさせられます。……出来そうなら、マスターを連れて離脱しなさい。いいですね?」


「……はい」


 サマルカンドが頭を下げる。

 私に向き直ったリズが、微笑んだ。



「それでは行って参ります、マスター」



「……気を付けて、リズ」


 私は、それしか言えなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 真っ先に飛び出していく暗殺者。 護衛が二人になったおかげというべきか? [気になる点] 殺す対象がどんなものか知らず暗殺にくる。 屋敷の中にいる者は全員皆殺しというスタンス。 大雑把な作戦…
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