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病毒の王  作者: 水木あおい
6章

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かみさまのいないせかい


 魔法は、擬似的に太陽を再現出来る。


 核融合とかいう話ではないと思うのだけど、術式を刻んだ物質を発光させる事が出来て、その光に太陽光と同等の性質を与える事が出来る。


 だから、ここは城の中枢であり、窓が存在しないにも関わらず、開けられた天蓋から差し込む柔らかな太陽光で私は目覚めた。


 部屋の雰囲気と相まって、ドーム状の天井から燦々と降り注ぐ光は神々しい。


 私はむくりと起き上がると、寝ぼけまなこをこすって、神聖な光景が目の前から消えないのを確かめてから、呟いた。



「かみさまっているのかもねえ……」



「なーに馬鹿な事言ってるんですか。いたとして、昨日大聖堂燃やした人の言う事じゃないですよ」


 声のした方を向くと、ベッドの端に腰掛けて、装備の点検をしていたらしいリズが呆れ顔になっていた。


「全くだ。この戦場に神はいないと宣言したと聞いてるぞ?」


 レベッカも同じく、刃の様子を見ていたらしい細剣(レイピア)をそっと鞘に収めながら、呆れ声を出す。


「そうだね。戦場にはいなさそうだよ。――ああ、でも、天使ならいるかもね」


「ドッペルゲンガーの変身した姿じゃなしに、ですか?」


「うん」

 そして笑って、リズに抱きついた。



「ここにも可愛い天使さんが一人!」



「……馬鹿なんですね」

「……馬鹿なんだな」


 リズとレベッカがばっさりと切り捨て、レベッカが、辛辣な罵倒には似つかわしくない天使の微笑みを浮かべる。抱きついているので見えないけど、リズからも、そんな気配がした。


「もう、喜んじゃうでしょ」


 リズを軽くぎゅっと抱きしめてから解放すると、枕元に置いておいた三種の護符(アミュレット)を取り、紐に頭を通す。同じく、軽く畳んでいた深緑のローブを羽織ると、護符(アミュレット)の紐とローブに押さえられた髪を抜いて、背中側に落として流した。


「喜ぶ要素、あるんですか?」


「恋人と部下に遠慮のない言葉を叩き付けられるのって、仲がいい感じしない?」


「楽観的ですね」

「いっそ羨ましいかもしれないほどにな」



「楽しい事は多い方が人生、生きやすいよ」



「説得力はあるが」

「ありますねえ……」


 深すぎる頷きをする二人から視線をそらして、まだ寝てるアイティースを見る。


「アーイティースー? 起きないと猫耳触るよー?」


「んー……触っていいから後五分寝かせろ……」


 掛け布団を引き寄せて、くるまるアイティース。布団が大きいのでそれでも背中が出る事もなく余裕で、白くもぞもぞと動く様はイモムシっぽい。

 赤茶毛の猫耳が動きに合わせて、少し揺れた。


「リズ、触っていい?」

「まあ、どうぞ」


 恋人の許可が出たなら怖いものはない。


 ふにふにと柔らかい耳を触り、さわさわと細かな毛並みを楽しむ。


「ん……んんぅー……」


 耳が嫌そうにぴこぴこ動くが、むしろスパイス。


「ふぁっ!?」


 そして耳の内側に指を入れて、白くてほわほわの毛を触ったところで、アイティースが勢いよく頭を引いて逃げた。


 跳ね起きながら、顔を真っ赤にして叫ぶ。



「誰が耳触っていいって言ったよ!?」



「アイティースだよ」


「アイティースですね」


「アイティースだ」


 私、リズ、レベッカの意見が一致する。


「……え、私?」


 きょとんとした顔になるアイティース。


「うん。触っていいから後五分寝かせろって。もう少し寝ててもよかったのに」

「あんな事されて寝てられるか」


 やっぱりさっきは、寝ぼけていたらしい。

 アイティースは朝が弱いのか、単に寝る事を愛しすぎているのかは定かではないが、朝方は会話が成立しているように見えてそうでない事もしばしば。


 なお、朝ご飯の時には胃袋が完全覚醒しているあたり、さすがは獣人の女の子だと感服する。


「でも、もうちょっと普通に起こしてくれよ……」

「面白くないじゃない」



「……起こすのってさ、面白さ基準で考えるもんだっけ?」



「うちの基本方針は、『面白おかしく』だよ?」


「あ、うん……そういやそんな事言ってたな……」

 アイティースが諦めたように頷く。


「さて、起きたなら行くよ。聖都と中央教会こそ落としたけど、神聖王国の全部が滅びたわけじゃないんだから」


 靴を履くと、立てかけていた杖を取る。

 宝石に、天井から降り注ぐ光が反射して、青白く光った。


 ローブの裾を軽く払い、ばさりとはためかせた。


 杖の石突きで床の絨毯をとんと突くと、宝石を繋ぎ止める八本の鎖が、しゃらりと揺れる。


 私は振り返ると、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の名前に似つかわしくない光の中、宣言した。



「――さあ。この世界にかみさまがいない事を、知らしめに行こう」



「はい、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"様」


 リズが恭しく頭を下げ……そして、頭を上げた後、真顔で首を傾げる。


「ところでマスター、恥ずかしくなる事ってあります?」

「なくはないけど、かっこつけて気合い入れるぐらい許して」


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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく面白かったです! [一言] 戦争が終わった後もリズ達とのイチャイチャしてる所やほのぼのしている所なんかも沢山読みたいです!
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