表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病毒の王  作者: 水木あおい
6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

301/577

守るべき物


 私は、自分が属する軍の全てに、戦って死ねと言った。


 それが、必要だから。

 必要というだけで、自分達の同胞に死んでこいと言わなくてはいけないような、そんな世界に私達は生きているから。


「……そうか」


 陛下が、覚悟を決めた顔で、頷いた。

 そして朗々と響く声で宣言する。



「"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の意見を、採用しよう」



「陛下!」

「……これは、戦争なのだ。そして死ぬのは我ら魔王軍だけでよい」


 そして陛下は、私をまっすぐに見据えた。


「して、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"。そなたは、以後どうする?」


「――後方へ」


「逃げると言うのですかな?」

「勘違いしないでいただこう。目標、敵軍後方」


 揶揄するような声を、一刀の下に切り捨てた。



「背後の憂いを、完全に断つ」



「後方にいるのは……非戦闘員が中心と思われますが?」

「元より、それが"第六軍"の攻撃目標だ。だから、それを全て潰す。敵の守るべき全てが、我らが滅ぼすべき全てだ」


「今は一兵でも貴重な時ですよ?」

「こちらでやる。我ら"第六軍"は、魔王軍最高幹部として独自行動権を持つ私の命令の下に動く、敵内政基盤の破壊を目的として設立された軍だ。ゆえに、その任を完全に果たしに行く。主力軍は、遅滞戦闘に努められたい」


 真っ当な質問を順番に片付け、全員を見渡す。

 種族は異なり、方向性はそれぞれ微妙に別れ、胸に抱く誇りを大切に思う気持ちもまた、重さが違う。

 それでも私達は、同じ旗の下に集った。



「援軍は必要だろうが、リタルサイド城塞はいずれ抜かれる。ブリングジット・フィニスが稼いだ時間は、まもなく尽きる」



 失われてはいけない物がある。

 守るべき物がある。


「我ら魔王軍の全てを使い潰してでも、守るべき物がある」


 彼女が死んだとして。

 私が死んだとして。


「ここは、私達の国だぞ」


 この場にいる全員が死んだとして。

 そんな事は、関係がない。



「ここは、私達の国だぞ……!」



 私は、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"。

 種族、人間。

 目標、人類絶滅。



 この国は、ただの人間である私に、同族たる人類の絶滅を誓わせるだけの優しさを持った国だ。



 滅びてはいけない物がある。


 他の何を、犠牲にしても。

 他の何を、滅ぼしても。



 ――守りたい物が、ある。



 最初に席を立ったのは、ウェンフィールド家の現当主、ダスティン・ウェンフィールドだった。

 最近は影を潜めつつあるが、以前は、最も急進的な反"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"派として名を馳せた、力のある家だ。


 その彼が、視線を一身に浴びながら、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"へ向けて膝を折った。



「――全てを、その通りに。民を逃がし、遅滞戦闘を行いましょう。奴らにくれてやるのは、焦土だけで十分です」



「ダスティン殿!?」

「貴公がそのような!」


「他に、方法が?」


 彼が立ち上がって軽く見回すと、皆、視線を避けてうつむいたり、明後日の方向を向いたりした。


「人間達の軍は、間違いなく大軍です。しかしそれゆえに進軍速度は遅く、また、補給物資が万全とも思えない。後方からの追加輸送や、現地での略奪を計算に入れているはず。その計算を崩すためです」


「し、しかし、この国の大半を、焦土に変えようと言うのですよ?」


「私の父……ウェンフィールド家の前当主は、陛下と共に、この国の建国期を戦いました」

「それは存じておるが……」



「我らは、僅かな獣人と竜だけが住まう、まっさらなこの地に、リストレアという国を築き上げた。民を守り生かした後、同じ事をすればよい」



 彼の言葉は、皆の胸を打った。

 それは私も例外ではなく、この人を殺さないで、良かったと思う。


 数人が彼に続き、私に向けて膝を折る。

 さらに何人かが躊躇いながら続いてひざまずき、同調圧力には屈せず、そこまではしなかった者達も、私に向かって軽く頭を下げて、沈黙する。


 魔王陛下が、口を開いた。


「決まりだ。"第六軍"は自由行動を認める。他は民の避難と、その時間を稼ぐための準備を」


 私も含め、皆が神妙な顔で魔王陛下のお言葉を聞く。



「リストレア魔王国、国王の名において命じる。――人間達に最早、何も与えるな」



 人間達に、何も与えない。

 私達の国から、何も奪わせない。

 リストレアの民の命も、食料も、勝利も――未来の希望さえ。


 もう、何も与えない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ダスティンさん美味しいところをもっていくね! レベッカの尊い犠牲が報われましたw [気になる点] 問題は行軍速度。箱詰め骸骨の出番か。 [一言] 六軍の別行動承認に皆の信頼を感じます。重い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ