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病毒の王  作者: 水木あおい
4章

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古巣への帰還


 レベッカとハーケン率いる、"第六軍"の死霊騎士達がやってきたのは、なれはてが討伐されてから、三日後の事だった。


 骸骨の馬が引いているのは、全部屋根のない荷馬車。

 全員不死生物(アンデッド)なのをいい事に、旅費をケチったと見える。

 確かに手配は全て任せたが。


 門の向こうから、レベッカの声が聞こえた。



「"第六軍"、レベッカ・スタグネット以下、五十二名だ。入城の許可を頂きたい!」



「入城を許可する。――おかえりなさいレベッカ様!」


 レベッカとハーケンを先頭に、荷馬車から降り、二列になって入場する皆を見た途端、胸にこみ上げるものがあった。


 私とリズ、エルドリッチさんとフローラさんの四人で、彼女達を出迎える。

 彼女は軽く一礼した。


「お久しぶりです、エルドリッチ様。フローラとも、相変わらず仲がおよろしいようで」


「そなたの活躍は聞こえておるぞ。"第二軍"との模擬戦に、新装備の開発。それに、あの"福音騎士団オーダー・オブ・エヴァンジェル"の眼前に不死生物(アンデッド)の身で立ちはだかったとか」


 エルドリッチさんが顔をほころばせ――あくまでイメージだけど――"第六軍"に来てからの彼女の『活躍』を並べ立てる。


「模擬戦はお忘れ下さい。新装備は"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の発案を形にしただけですし、神聖騎士相手にも、城壁の上から魔法で援護したのみですよ」


 謙虚なレベッカ。


「"第六軍"は……どうですか? 悪い職場では、ありませんか?」

 私の方にちょっと遠慮しながら、フローラさんがレベッカに問う。


「……ええ」


 ちょっと間が空いた気がする。

 けれど彼女は、少し苦笑しながらも、こう続けた。



「よい職場ですよ」



 上官本人が目の前にいるのだから、多少の社交辞令は入っているのだろうけれど。

 それでも、本当に不満があれば、古巣である"第四軍"の最高幹部と副官、それに城内待機の死霊軍がわんさかいる今は、絶好のチャンスだったろう。


 彼女ほどの人材ともなれば……相応の理由があれば、転属願いの受理もスムーズなはずだ。

 彼女はベテランで、まさしく引く手あまただろうから。


 レベッカが微笑んだ。


「我らが主は、アンデッドにも分け隔てなく接してくれますので」


「ほう? それは後で、皆から話を聞くのが楽しみだ」


「……喜んで話すでしょうよ」


 またちょっと間が空いた気がする。

 何言われるか、ちょっと心配になってきたかも。


 そして彼女が、私に向き直った。



「――久しぶりだな。道中は順調だった。もちろん、一人の欠けもない」



「うん。――うん」


 エルドリッチさんに対する公的な口調とは違う、いつものレベッカの声。

 私は思わず、彼女をぎゅっと抱きしめていた。


「こら、離せ。……どうかしたのか?」


 ぐい、と押しやろうとする手を、レベッカは途中で止めた。



「『なれはて』を……見たの」



「……ああ」

 彼女は頷いて、私の、腰をかがめるようにして抱きついていてもまだ高い位置にある頭を、軽くぽんと叩く。


「どういう由来だったかは、知らないがな。大抵は、なりたてだ。私やハーケンはベテランだし、新米にもそんなヘマはさせないさ」


 彼女の言葉には、確かな説得力があった。


 アンデッドになった時……記憶の混乱が起こる事がある。


 近くに誰かがいて『教師役』になってくれればその混乱は少なくて済むし、最悪の事態である、混乱して暴走し、手当たり次第に獲物を襲って魔力吸収した挙げ句に『なれはて』になるという事態には、まずならない。


 彼女のような死霊術師(ネクロマンサー)は、死体相手に不死生物(アンデッド)としての『目覚め』から『教育』までをセットで行える。

 そして、それを擬似的に『召喚』と呼ぶのだ。


 高位のネクロマンサーともなれば、本来アンデッドとして蘇らないような魂のない死体も擬似的に動かせるらしいが、アンデッドではあっても、不死『生物』ではないという。


 間違いなく高位のネクロマンサーであるレベッカが言うのだから、その通りなのだろう。


 私は彼女を抱きしめていた腕をほどいた。


「うん……ごめんね」

「怒ってはいない」



「うちの姫様をぎゅっ……?」


「レベッカ様を抱きしめる? そうか最高幹部になれば……」


「"第六軍"ではまさかあれが日常なのか?」


「羨ましい……」



 フローラさんを筆頭に、羨ましがられてはいる。


「姫様はやめろフローラ」

「あ、公式の場ですものね。また後でゆっくり」


 フローラさんがキリッとした出来る副官モードに戻る。


「ハーケン。ようやく主を見つけたようではないか。当然我よりも素晴らしい主なのであろうな?」


「エルドリッチ様。そういじめてくれるな。だがそう……あなたと同様に副官殿の事を大好きであるな」


「それはもう分かり合った」

「そうであろうよ」


「仲良いね」


「む……我が『教師』であるからな。この口調もいつの間にか移ったものだ」


「え、そうだったの? その古風な口調、四百年前からいるせいだと思ってたけど」

「四百年前の話し言葉は、今とそう変わらぬぞ? 全くどれだけの時を生きておられるのやら」


 ハーケンがエルドリッチ様の方を見やる。



「フローラと会う前の事は忘れた」



 きっぱりと宣言するエルドリッチ様。

 格好良い。


「マスター……今のエルドリッチ様の言葉を、格好良いとか、真似しようとか思ってはいらっしゃらないでしょうね?」


「リズ。いつの間に読心術を使えるように? アサシンに出来るのは、唇読む方だけだと思ってたよ」

「これは、ろくでもないマスター限定です」


 きっぱりと宣言するリズ。

 可愛い。



「真似するわけじゃないけど、私も、この世界に来る前の事は忘れたよ」



 全て、ではないけれど。

 地球の倫理観など、この世界では参考程度にしかなりはしない。


 問題なのは、参考になりすぎる事の方かもしれないが。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 姫様!いい響き そしてレベッカの口調から察するに四軍のころより六軍ではかなりくだけているのですね 相手マスターだから [気になる点] 倹約家の多い六軍。実はレベッカの研究開発費用が大きい収…
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