副官同士の会議とファンの集い
「エルドリッチ様。そろそろ例の件を」
「うむ。"病毒の王"殿、レベッカとハーケンは息災か? 後から来ると聞いておるが」
「ええ。道が悪くなければ、三日のうちには到着するでしょう」
私達はグリフォンで先行し、レベッカとハーケンは後から馬車で来る予定だ。
「"第六軍"に頂いた騎士達も共に。……仲良くやっておりますよ」
「そうか……それは何よりだ。レベッカは経験豊富で、優秀なベテランだ。惜しむ者も多かったが、経験を積ませるという意味でも、"第六軍"の実力を疑う者達を黙らせるという意味でも、適任であったと思っている」
「本当によくやってくれていますよ。ハーケン共々、なくてはならぬ人材です」
「ハーケンもな。あやつは主を探しておった。がらんどうの心を抱えて、剣の置き場所を求め……しかし、理想の主を見つけたようだ」
「理想とは違うそうですがね。気は合いますよ」
「レベッカ様はお元気なのですね……」
フローラさんがほっとした顔を見せる。
「……様?」
副官だというのならば、彼女は序列で第二位。
レベッカは大所帯の死霊軍では相対的にかなり凄い方だが、序列でいうなら第七位が最高だったと聞いている。
「あの方は……我らエルフにとっては、いつまでも姫様ですから。我らの森も、国も……種族も、何もかも絶えても」
エルフは――絶滅した種族だ。
不死生物として、その名残を留めるのみ。
「……昔の話ですよ」
フローラさんが微笑む。
「フローラはレベッカが大好きでなあ。普段は規律をうるさく言う彼女がレベッカの事に関しては基準が緩くなって様付けするのがまた可愛くて――」
フローラさんが、くい、とエルドリッチさんの指を捻り上げる。
「フローラ、折れる折れる」
「折れればいーんじゃないですかね」
前にレベッカにもやられたが、あの指関節技、実はエルフ伝統だったりするんだろうか。
「ねえリズ。私達も仲いいところ見せつけなくちゃダメかな」
「何悪い影響受けてるんですか」
「悪い影響じゃないよ! 副官さんの事大好きな同士だから!」
リズが、くい、と私の指を捻り上げる。
「待ってリズ折れる折れる。私人間だから折れたら簡単に再生ってわけには待って骨がゆっくりみしみし言うの怖い怖い!」
「エルドリッチ様の事をうらやましがっていらっしゃったようですので、真似させて頂きました」
私の指を解放しながら、こともなげに言うリズ。
痛みが離された途端に引いていくのは、さすがリズだ。
「真似するべきところがちょっと違うかもしれない」
信じているので大丈夫なのは分かっているが、思わず解放された指をさすさすとさすってしまう。
「さすがリーズリット様。"薄暗がりの刃"の名は伊達ではありませんね。ギリギリの見極めが素晴らしいです」
よく分かってらっしゃる。
「リズでいいですよ。同格ですし、様もなしだとありがたいです」
「はい、ではそのように。……リズも私の事は是非フローラと呼んで下さい」
副官同士も仲良くなるに越した事はない。
「ところで、もうちょっと照れ隠しはギリギリのバイオレンスなやつじゃないと嬉しいなあ」
「フローラ。この方はちょっと無視して頂いて、副官同士で話詰めましょうか」
「分かりました、リズ。それではまず、改めてそちらのバーゲストを含めた戦力などを教えてくれますか」
リズとフローラさんが、円卓を回り込んで、近付いて話し始める。
「我が主の支配下にあるバーゲストが三十一。後でお見せします。私、サマルカンド……そちらの上位悪魔です。後続としてレベッカと、ハーケン、それに五十名の死霊騎士ですね」
「こちらは対不死生物用に編成された、ダークエルフと獣人で構成された師団を中心にバーゲストに当たる予定です。死霊騎士団からも希望者を募っておりますが……どの程度動員するかは難しいところですね。バーゲスト以外の不安要素は現時点で存在しないので、それなりの数が出せますが」
「周辺を囲むのに数をお借りしたいですね。理想は戦闘がない事なのですが。その後、例のバーゲストの群れの数は?」
「正確な数は未だ不明ですが、五十前後でしょう。かなり多い群れです」
「五十……負けはしないでしょうが、被害が怖い数字ですね……」
「ええ……」
さくさくと話を進め、真面目な顔で頷き合うリズとフローラさん。
「出来る副官さん同士並ぶと魅力が引き立ちますよねえ」
「うむ。惚れ惚れするほどであるなあ」
私とエルドリッチさんは、彼女達から反対側の円卓の席に隣り合って座って、一番いいポジションで副官さん達の打ち合わせを仲良く眺めていた。
「……マスター、いつの間に席移ったんですか?」
「エルドリッチ様も、"病毒の王"様と一緒になって何やってるんです」
「ここが特等席なんだよ。出来る副官さんを持って幸せだなあって気持ちを噛み締めるのにね」
「"病毒の王"殿はいい事を言う。フローラ。まさしく花が咲いたようであるぞ」
「……フローラ。うちの最高幹部様方は、仕方ありませんね」
「そうですねリズ。本当に仕方ありませんね……」
言い合って、力なく微笑みあう二人。
「今のも可愛くて永久保存版だと思うんですよ」
「うむ。記憶映像が鮮明なうちに残したいものだが、フローラに禁じられておるゆえ出来ぬのが口惜しいところよ」
「実は私もです。高いからって。でもこう解釈したんです。自分の姿を写真ではなく、瞳に焼き付けてほしいっていうメッセージだと」
「おお? その解釈はなかった。"病毒の王"殿とは、今日初めてきちんと話をしたような気がせぬなあ」
「私もです」
最高幹部組の二人が朗らかに笑い合うのと対照的に、副官組は顔を見合わせた。
「フローラ……あの二人……本格的に会わせてよかったんでしょうか?」
「私には……よく分かりません……」




