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病毒の王  作者: 水木あおい
4章

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"第六軍"式の歓迎の実態


「……なあ、これは『けじめ』なんだよな?」


「そのつもりだ」

 私は、アイティースに頷いた。



「なんで風呂なんだよ! おかしいだろ? ああ、おかしくないはずがない!!」



「おかしくないよ。私の故郷では一緒にお風呂は同性同士が仲良くなる定番です」


 私は、脱衣所に連れてこられて、ようやく事態を正しく理解したアイティースに向けて断言した。


「いや、それは分からんでもないけどな!? ――これが『"第六軍"式』? 冗談もほどほどにしろ!」


 一緒に入る事になったリズとレベッカが、目をそらした。


「……え、まさか、おかしくないのか?」


「ええ、まあ……隙を見てお風呂誘われますね」

「私も着任当日に放り込まれた」


 リズとレベッカが頷く。


「言う事がちょくちょくおかしいですけどね……功績を積んだ最高幹部ですからね……私、一応護衛ですしね……」

 遠い目のリズ。


「まあ普通に入浴してるだけだし……私も同じような疑問を抱いたものだが……」

 遠い目のレベッカ。


「さー入ろー。あ、リズ。脱ぐのはいつでも手伝うよ!」

「不要です」


「レベッカ……」

「不要だ」


「……アイティース?」

「い、いや。遠慮していい……んだよな?」


「当たり前じゃないですか」

「当たり前だろ」


「いや、これでもけじめだから……」


「何したんだマスター」

 いまいち事態を理解しないまま、私に笑顔で押し切られたレベッカが、私を怪訝そうに見やる。


「え、私? どっちかというとアイティースの方がね」

「どうせうちのマスターがろくでもない事をしたんだろう」


 ある意味、凄まじい信頼感。


「否定はしないけど」


「まあ、空を飛ぶのは疲れるだろう。入浴で、ゆっくり疲れを癒やしてくれ」


 レベッカが、アイティースに微笑んだ。


「あ、ああ……うん。ええと……」

「レベッカでいい」


「レベッカ。あんた、まともなんだな」

「そう言ってくれると、光栄だ」


 そしてレベッカが納得顔になる。


「……ああ、またうちのマスターの悪口でも言ったか。それもあいつらの前で」


「あ……うん。悪かった……」


「まあ、うちのマスターだから仕方ない。気にするな」

「え、怒らないのか?」


「言いたくなる気持ちは分かる。だが、こんなでも魔王軍最高幹部だ。慕う部下もいる。今は、それを分かってくれればいい」


「レベッカは?」

「自分の胸に聞いてみろ」


「つまり大好きって事だね?」


「…………」

 レベッカが無言で目をそらして、ため息をついた。


 真顔。


「全くもう……あ、服脱ぐ前に髪やろっか」


 レベッカの髪に手を伸ばす。

 すっとすくい上げ、手をすべらせると、なめらかな髪が砂がこぼれ落ちるように手からするりと抜けた。


 何度かそれを繰り返し、感触を楽しむ。


「さらさらだねえ」


「余計な事いいから、手早く頼む」

「心得ました」


 注文通り手早く、彼女の髪を軽くまとめて紐でくくって束ねると、くるりと回転させて巻き込んでお団子に仕上げる。


「髪洗う時にすぐほどけるよう、ゆるいからね」

「ん」


「……何それ」

 アイティースが、不思議なものを見たような目で見る。


「便利だぞ」

「まさかの便利屋扱い」


「分相応だろ?」

 レベッカが冗談めかして笑う。


 美少女の笑顔って卑怯だよなあ。


「今までは身体を洗う時もそのままにしていたが、髪を上げた方が洗いやすいものでな。してもらっている」

「まあアンデッドなら問題ないと思うけど。ウーズは髪にもいいし」


 ウーズを入浴に常用するのが、リストレアの女性の髪が綺麗な理由の一つだと、思っている。


「ウーズのついた髪が肌に張り付いて、まとわりつくのが少し苦手でな……」

「実は私は、その感触が好きだったり」


「この変態め」

「ほう。変態って事はつまりあんな事やこんな事をしてもいいと?」


「マスターが、私が暗殺者(アサシン)だって事を忘れたなら、どうぞ」


 背後のリズの圧が怖い。


「――忘れた事なんて、ないよ」


 くるりと背後のリズに向き直って、サイドの髪を軽く握り込んだ。



「で、うちのアサシンさんにあんな事やこんな事をするのは?」



 リズが微笑んだ。


「業務範囲外ですね」

「そのワード万能使いするのやめない?」


「その要望を受け入れるのも、業務範囲外ですね」


 美少女の笑顔って、本当に卑怯。


「……なあ、結局こいつら、仲いいのか?」


 アイティースがレベッカを見る。

 レベッカは呆れ顔になった。



「これで仲悪いように見えるなら、驚きだ」




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― 新着の感想 ―
[良い点] わーいお風呂回。といいつつ脱衣場回。マスターの観察が始まってないのでとても健全? [気になる点] レベッカのお世話を楽しむマスターを見てると マスターって侍女とかメイドも似合うよねーとか妄…
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