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病毒の王  作者: 水木あおい
4章
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魔獣舎での再会


「ラトゥース様! お待ちして……え?」


 案内されたのは、飼われている魔獣の住む、厩舎ならぬ魔獣舎。


 そこにいたのは、赤茶毛の髪と毛色で、猫耳が愛らしい獣人の女の子。

 癖っ毛に、緑色の瞳。


 初めて見る、笑顔。



挿絵(By みてみん)



 私は、彼女の名前を、知っていた。



「あ! アイティースちゃん、元気にしてた?」



 挨拶には答えず、彼女――アイティースはラトゥースに視線をやる。


 さっきまでの、愛らしい笑顔は跡形もない。

 機嫌悪そうに眉間にしわを寄せている。


「ラトゥース様?」

「いや、俺もあんな事があったのに、本人が来るとは思ってなくてな」


 私は、彼女と、彼女に共感した獣人軍の人達に、殺されかけた過去を持つ。

 ラトゥースが止めてくれなかったら、普通に殺されていただろう。


 私と彼女に、直接の繋がりはない。

 ただ――彼女の弟のエイティースが、"第六軍"の暗殺班に所属していて……現地で、戦死した。



 それだけの、繋がり。



 アイティースが、私を思いきり睨み付ける。


「『ちゃん』はやめろ。あんな事があったのに、また来るとか馬鹿なのかお前?」


 わあストレート。

 正論ではあるが、そう言われて黙っている訳にもいかない。


「――『何もなかった』。公的には、そうなったはずだが? ラトゥースの気遣いが分からぬとでも?」


「え……」


「アイティース。君がいるとは知らなかった。馬鹿にしたつもりはない。傷をほじくり返そうと言うのでもない。私が今ここにいるのは――軍務だ。その重みを、他ならぬ君が分からぬとでも言うか?」


「っ……」

 彼女が、歯噛みする。


「……お前が頭おかしい事言うからだ。いきなり人の事をちゃん付けで呼ぶのが、軍務で、最高幹部らしい振る舞いだって?」


 挑発するように、そして挑むように、私と、私の後ろに控える"第六軍"の序列第二位から第五位の皆をさっと見渡す。



 ラトゥースを含めた全員が、さっと目をそらした。



「……ん?」

 アイティースが、目を瞬かせる。


 リズが、真面目な顔で一歩進み出た。


「あのですね、アイティース」

「……ああ。リーズリットとか言ったか」


「エイティースの件は……少し置いてもらっていいですか」


「……ああ。分かってるよ。……そのつもりだ」


 呟くように口にした言葉には、まだ痛みがある。

 血を分けた弟となれば――私にも、気持ちは分かる所もある。


 私は仇でもなんでもないが……それでも、確かに彼の死に、責任の一端を負っている事は、間違いない。


「けどよ。こいつが頭おかしいって言ったのを、撤回するつもりはないぞ」



「あ、はい。その認識でいて下さって結構ですよ」



「……お前……副官……なんだよな?」

「はい。"第六軍"の序列第二位を頂いております」


「……自分の上官が――魔王軍最高幹部が、よその下っ端に頭おかしいって言われたんだぞ!? 怒るだろ? 普通、怒るだろ!?」


「あ、そういうの分かってるんですね?」

「馬鹿にすんな」

 

 レベッカが、リズの隣に並んだ。


「アイティース。私からも、いいか」

「レベッカ・スタグネット……?」


「名前を知っていてくれて、光栄だ。実に言いにくいが」


 レベッカが、ちらりと私を見て、ため息をついた。



「"第六軍"において、序列第一位が頭おかしいというのは共通認識だ」



「二人共? さすがにちょっと失礼じゃないかな? "第三軍"の人達の前だよ?」


「ちょっと失礼とか……そういうレベルじゃないだろ今の?」

「アイティースもそう思うよね?」


「おう……ってお前なんでこっち側なんだよ!」


「私は仕事真面目にしてるよ?」


「息抜きの時に頭おかしい事言いすぎですよね」

「否定はしない」


「いや、そこは否定しろよ」


 アイティースが冷めた目で突っ込む。


「事実だから仕方ない。私は適当な事は言うけど、嘘はつかないタイプだよ」


「お前……魔王軍最高幹部……なんだよな?」

「アイティースは軍規定に明るくないようだな」


「……前の事、まだ根に持ってやがるのか?」


「そうじゃない」

 私は首を横に振った。



「最高幹部の規定に、言動を定めたものはないと言っているんだ」



「……正気か?」

「それもよく言われるけど」


「なんで最高幹部やってられるんだよ」

「さっきそういう規定はないと言ったし、以前も言ったはずだけど?」


 微笑んだ。



「"第六軍"は、"ドラゴンナイト"と"帝国近衛兵(インペリアルガード)"を壊滅させた。"福音騎士団オーダー・オブ・エヴァンジェル"をリタル山脈に誘い込み、"第三軍"を含む各軍との共同作戦を行い、これを全滅させている。――その長たる私に、正気を問うのか?」



 それは、比類なき『戦果』だ。


 言い添える。


「もちろん可愛い部下の働きがあっての事だが」


「……可愛い……部下」

 アイティースが、ぽつりと、呟く。



「エイティースの事も……可愛かったか?」




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― 新着の感想 ―
[気になる点] …こういうときサマルカンドもマスターの味方しないのね ある意味空気読んでる? [一言] 脳筋アイティース。マスターの言葉遊びにコロコロ転がされてちょっと気の毒。 味方をしない序列二位と…
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