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病毒の王  作者: 水木あおい
4章

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この世全てのもふもふを求めて


「それで、マスター。先の命令が……温泉地と美味しい物がある地域をリストアップしろという、ふざけたものが、どうバーゲストの問題に関係してくるんです? お風呂に入れて餌付けしようとでも?」


「それもしてみたいけど」


 バーゲスト達はそこまでお風呂好きでもないので毎回ではないが、たまに一緒に入っている。

 魔力生命体でも、一応実体があるので、お風呂やブラッシングでちょっと毛並みがふわっとするのだ。


「それは副産物というか」

「……副産物?」


 私は、薄く笑った。

 そしてぽん、と膝の上のバーゲストの頭に手を置いて、宣言した。



「リストレアの黒妖犬(バーゲスト)を、全て私の群れに組み込む」



「……はい?」


「……自分が何言ってるか分かってるか?」


「我が主。従属しているバーゲストの数が増えた場合、どうなるか未だ正確な所は分かってはおりませぬ」


「いや、それでこそ主殿よな。まさかそんな馬鹿げた事を言い出すとは思わなんだ」



 リズ、レベッカ、サマルカンド、ハーケンがそれぞれの感想を述べる。


「実際に全て、というのは難しいだろうが……人里に近い地点で目撃された、小さな群れあたりから試してみたい所だな。リストレアの管理下にあるものは?」


「危険が多すぎて、あまり人気のない『番犬』ですからね……。以前まとまった数が送られてきましたし。とはいえ、十頭ほどは、まだいるでしょう」


「分かっている範囲で、全て引き取る。及び、被害が出た事例があればその地域に赴こう」


「マスターが? 直々に?」


「なるほど。そこで温泉地と名産品か」

「……なるほど」


 レベッカとリズが顔を見合わせて、ため息をついた。


「いや、途中の村とか、泊まる宿にあったらね? 決してリベリット村で味をしめたとかじゃ」

「本音で」



「美味しいものとか大好きです」



「……本当にメインじゃないんですね?」

「さすがにそこまで腐ってはないよ? リベリット村でも、ちゃんとお仕事したでしょ」


 討伐依頼が入ったからだが。

 一応"第六軍"のイメージアップを草の根活動的に行う、という名目の下、あの視察と書いて観光と読ませる小旅行は行われた。


「……『野生』のバーゲストを、本当に従属させられるんですか?」


「分からないよ。だからやってみるしか」


「またそんな軽く仰って」


「そうだね。それを決めるのは――私じゃない」


 私は、バーゲストの頭を軽く叩いて合図をすると、椅子から立ち上がった。


「私はお前達の『同族』を、全て私の群れに迎え入れるつもりだ。ただ、この件に関しては、命令するつもりはない。それが可能であり、かつ……お前達が、それが嫌ではないというなら」


 そして膝を突いて、右手を差し出す。


「この手に、『お前達』の手を載せなさい」


 足を揃えて座り込んでいるバーゲストが、私の目を見つめた。

 焦げ茶の、瞳。

 犬の瞳だ。獣の――人間ではないものの目だ。


 私は人間で、この子達は黒妖犬(バーゲスト)


 生まれも、育ちも、何もかも違う。

 絶対的に種族が、違う。


 それでも私は、この私を見つめる綺麗な瞳が、好きなのだ。



 てし、とバーゲストの前足が私の手のひらに載せられた。



 軽く握り込み、微笑む。

 しばし肉球を手のひらで堪能した後に解放すると、首筋に抱きついて、ぎゅっと抱きしめた。


「お前達の仲間を、探しに行こう。この国の未来のために。私と、私の仲間のために。――もちろん、お前達も含めた……」


 腕を緩めると、最後にまた、がしがしと撫でた。

 優しく撫でられるのも大人しくされているが、強めのスキンシップの方が、この子達の全身と――心の内から、喜びが伝わってくる。


 この子達を、愛すべき存在と見た人は、いないのだろう。


 バーゲストにとっても、人間は、そういう存在ではなかったのだろう。

 魔族も、だ。


 こんな風に撫でられた事など、あるはずがない。


「しばらく情報収集に努めてほしい。時期的に、南部を中心に、野生の黒妖犬(バーゲスト)を、本当に群れに組み込めるかどうかを試す。もちろん少数の群れからだ。今までの捕獲の際のノウハウなどもあれば資料にまとめてくれ」


「それがいいでしょうね」

 リズが頷く。


「ごめんね、面倒な事頼んで」


「それが副官のお仕事ですからね。まずは王城に当たってみましょう。それと旅商人ですね。時期的に王都に滞在している者達も多いはずです。――そうだ。レベッカ。ツテはありますか?」


「まだ現役かは分からないし、そうだったとして、今王都にいるかまでは分からないが、知り合いも多いよ。そうでなくても、話を聞くぐらい出来るだろう」


「サマルカンド、バーゲストに対応した経験は?」


「何度かございます。囲んで詰めていくというやり方でしか捕捉出来ませんでしたな」


「ハーケンは?」


「直接はない。そういった案件は主に"第三軍"へ振り分けるのが常だったのでな。だが、"第三軍"には確か少数だが魔獣種を騎獣とするものがいたはず。ラトゥース殿に渡りをつけて頂くのがよろしいのではないか」


 私は微笑んだ。

 皆が皆、それなりの回答を持っている。


 何を求められ、そして自分が何を出来るのか、分かっているという事だ。

 私は、未だ頼りない主かもしれないけれど。


「頼もしい部下を持てて、嬉しいよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「お前達」と複数系なのがいいですね 強目のスキンシップが好きなのも遠慮なく触れられるということが無かったからかもと思うと彼らの孤独の深さが感じられます。 [気になる点] レベッカの情報網凄…
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 黒妖犬達の事なら主人公さんが一番上手ですね! というか、黒妖犬さん達て案外に凄い賢いじゃん? 大切なのは外見年齢だと私も思いますw
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