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病毒の王  作者: 水木あおい
4章

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腕の中の幸せ


 魔王軍の最高幹部に必要なのは、明日の事は忘れてひとまず両隣に美少女がいる環境を楽しみつつ、安眠出来る能力であると、信じる。


 なんだかんだ、擬態扇動班と陰惨な計画の詳細を詰めたり、彼女達の安否を気遣う日々に疲れが溜まっていたのだろう。


 最近の一人寝の時より、熟睡出来た。




 翌朝。

 カーテンを透かす柔らかい朝日が、天蓋の中にまで忍び込む。

 布団に残る温もりの中、ゆっくりと覚醒していく。

 幸福なまどろみ。


「ふぁっ!? マスター!?」


 そこに不似合いな、リズの高い声。

 なんだか柔らかいものを触ったような。

 手にほんのりと残る幸せな感触。


 しかし幸せは手に残っていない。


「……マスター、わざとじゃ……ないですよね?」


 一抹の寂しさを覚えながら、目を開けて横を見ると、両手で体を庇うようにしている、頬を赤くしてジト目のリズがいた。

 それで、なんとなく幸せの正体が分かった。


 体を起こし、幸せの薄い自分の胸に手を当てて宣言した。


「わざとじゃないよ。――最高幹部のプライドに懸けて」


「マスターが言うと妙に信用出来ませんね」

 嘘じゃないのに。


 隣を見ると、レベッカが小さく寝息を立てていた。


「あれ、レベッカまだ寝てるの? アンデッドなのに」


 私よりさらに薄い胸はゆっくりと上下しているし、呼吸に合わせて長いまつげが動く様など、不死生物(アンデッド)とは思えない。


「レベッカは一応睡眠状態では自力で魔力が回復しますからね。でも、これでもマスターと私を信頼してるんですよ」

「それは、ちょっと嬉しいね」


「起こしたげて下さい」


「私が起こしていいの?」

「ええ」


「レベッカ」

 そっと頬に手を触れる。顔を近付けた。


「あの、マスター?」

 レベッカの長く白い耳に顔を寄せて、ささやいた。



「起きないと、キスするよ?」



 レベッカが薄く目を開けた。


「おはよう『マスター』。最悪の目覚めだ。舌を食いちぎられたくなかったらやめておけ、と忠告しておくぞ」


「あはは」

 笑いながら離れた。


 憮然としながら半身を起こすレベッカ。

 爽やかな朝に似つかわしくない、じっとりとした目で見てくる。


「リズ。着替えるからそいつの首を曲げておけ」

「そんな怖い事言われなくても反対向くってば」


 しかしリズに、がしりと頭を掴まれ、強制的にリズの方を向かせられる。

 リズの顔が近いので割と嬉しいのだが、そういう所には気付いてないみたい。

 後ろで衣擦れの音がする。


「いいぞ」


 リズに解放され、少し名残惜しさを感じながらも、レベッカの方を向く。

 ひらひらした寝間着から、いつもの黒くゴシックな恰好になっていた。


「私は先に行く。昨夜伝えた件は、食後に詳しく話す」

 ベッドに腰掛けて靴を履くと、部屋を出て行った。


「おや、昨夜はお楽しみであったか?」

 廊下でハーケンと出くわしたらしく、会話が聞こえてくる。


「ハーケン。お前までふざけた事を言うと、犬の餌にするぞ?」

「ははは。何。ふざけなければ人生はつまらぬではないか」


 いい事言うなあ。


「邪魔はするな。マスターはリズとお楽しみの最中だ」

「おや、それはそれは」


「ちょっとレベッカ! あなたまでふざけた事言うのやめなさい!!」

 リズが叫ぶ。


「なるほど。衣服を脱いで裸に」

「間違ってはいない」


「何もかも間違いですよ!」

 彼女の叫びを無視して続く会話に、再びリズが叫んだ。


「でも着替えるよね?」


「……あ、そういう事ですか?」

「多分ね」


「冗談はこれくらいにして……少しハーケンを借りるぞ。打ち合わせをしておく」


「ええ……いつも通り食事にしますので、見計らって来て下さい」

「分かった」


 レベッカとハーケンの話し声が、遠くなっていく。


 リズが、深く息をついた。

 長い耳が垂れ下がる。


 息を吸うと、長いエルフ耳がぴん、と立った。

 いつものキリッとした顔になる。


「さあ、マスター。着替えて行きますよ」

「うん」


 頷いた。


「えい」

 そして背中を見せたリズにのしかかり、首元に腕を絡める。


「……なんです? 『陰惨な計画成功させたらリズ成分が足りない事に気付いて』――とでも、言うつもりですか?」


「うわ、言いそう」

 声真似もなんとなく似てるし、何より内容の再現能力が高すぎる。


「でも、違うよ」

 私は、リズの長い耳にささやいた。



「私は、こうしたいだけなの」



 後、リズの先っぽまで真っ赤になる長い耳を見るのが好き。

 そこで、リズがうつむいた。


 やりすぎたか、と思ったのは一瞬。

 リズが、自分の首元に絡められた私の腕を、ぎゅっとする。


「……私も、こうしたいだけ、ですからね」


 ……私も、耳まで赤いかも。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラッキースケベから始まる爽やかな朝。 ハーケン百合推し!いいね ノリノリの冗談もなかなかw [一言] ツンデレだ、ツンデレがいる。デレ多め。 珍しくマスターも動揺
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! とっても綺麗なイラスト、ありがとうございます! 最高に親密な百合百合イチャイチャです!ご馳走様です〜 続きも楽しみにしています!
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