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病毒の王  作者: 水木あおい
4章

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帝国の機密文書


 "第六軍"は、トップである私、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"直属の護衛班を除けば、暗殺班と擬態扇動班からなる。


 この二班が、おおむね現地活動班として、現地……つまり人間国家の領土で『色々』活動しているというわけだ。


 暗殺班は、死霊(レイス)を中心に暗殺者(アサシン)が多数所属している。

 バーゲストと連携している以外は、実にオーソドックスに暗殺者らしく戦う部署だ。


 擬態扇動班は、二十八人のドッペルゲンガーを中心に、各所で、時に恐怖を煽り、時に楽観主義を広め、たまに情報をかすめ取っている。


 本国の方にも『シナリオ担当』がいるが、これは厳密には"第六軍"ではなく、王城の文官から、志願制で協力してもらっている。

 ドッペルゲンガーと並んで、まだ"第六軍"が存在しなかった頃……いや、そもそも私が"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"の名前さえ与えられていなかった頃からの付き合いになる。


 後に私がリズにつけてもらい、陛下に名乗る事を許された二つ名"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"を広めた立役者でもある。


 陛下の配慮か、文官の協力者達は皆、女の子が選ばれている。

 ドッペルゲンガーは元からみんな女の子。


 なので是非とも仲良くしたいものだが……『何故か』大層怯えられている。



 その中の一人、ドッペルゲンガーのまとめ役であり、擬態扇動班の長クラリオンが報告に来ていた。



 以前はリズに化けていたが、今日は、私の知らないダークエルフの姿に変身して、焦げ茶のフードを目深にかぶっている。

 リストレアではたまに見る、長いエルフ耳だけが穴から出る、すっきりしたデザインのフードだ。

 そのフードと褐色肌のせいで分かりにくいが、顔色が、悪いように見えた。


 彼女は、さすがに擬態扇動班を束ねる者として、連絡役を務めてくれている事もあり、私に対して無闇に怯える事はない。


 なので声をかけた。


「クラリオン。体調が悪いの? 報告は後回しにしてもいいよ」


「いえ……違うのです。本日報告に上がった件に関してでありまして……」


 顔を青くしたまま口ごもるクラリオンの様子に、背筋がぞくりとする。



「何か、あったのか?」



 また、私の部下が死んだのだろうか。

 それとも――それは、これからなのだろうか。



「はい。ペルテ帝国の、機密文書を入手しました」



「……あれ? いいニュース?」

「え? ――ええ、そう言えるかと……」


「クラリオンがあんまり調子悪そうだったから、一体どんな悪いニュース持ってきたのかと思ったけど……」

「それは失礼を」


 しかし彼女の顔色は依然として青く見える。



「なあに? そんなに人間の闇覗き込むような機密文書見つけちゃったりした?」



 私が軽く言うと、クラリオンが目を伏せた。


「……あれ? 図星?」


「私達は……擬態扇動班であります。恐怖を煽り、暴動を起こし……人心を荒廃させる事が仕事だと……認識しております」


「……うん」


 陰惨極まる仕事だ。

 かなり真人間の彼女達にとって、それは辛い仕事だろう。


 けれど、それは、全てのドッペルゲンガーのため。


 虐げられた種族が、未来も虐げられたままでいなくてもいいように。


 ――ただ、彼女達は、少なくとも現実として、その『仕事』をこなしている。


 相応の耐性は、ついているはずだ。


「クラリオン。何を見たの?」


「読んで下さい。それで、我らの見たものが……我らの感じたものが、何だったのか分かるはずであります」


 彼女が差し出した、質のいい白い紙の束を受け取る。

 刻印された紋章は、意匠化された太陽と炎、それに交差した円月刀――ペルテ帝国の紋章だ。


 私の世界のものに劣らない、かなりの上質紙だ。帝国の公文書はいい紙を使っていると聞いたが、本当らしい。


「分かった。とりあえず目を通すね」


 まず一度ざっと目を通す。



 ――インペリアルガードに関する文書だと?



 "帝国近衛兵(インペリアルガード)"と言えば、ペルテ帝国最強の戦士団だ。


 ダークエルフで構成され、長い時間を鍛錬に費やして鍛え上げられた、リストレアの誇る暗黒騎士団と、質的に拮抗してみせる化け物揃い。

 それは人類が、集団戦ではなく、一対一で魔族の最精鋭と戦えるという『事実』そのもの。


 この文書は、そのインペリアルガードの育成手法に関する物のようだった。


 読み直していくと、引き込まれていった。


 人の持つ、闇の深さに。




「……なるほど」

 一読し、概要を理解したところで、文書の束を放り出すと、ため息をついた。


「さすが帝国。合理性の塊のようなお国柄なだけはあるな」


「……驚かれないのでありますか?」


「ん? 驚いてるよ。ここまでするとはね」


「……それにしては、その……動揺が見られませんが……」


「……ああ」


 軽く頷いた。

 確かに、驚いた。

 この世界の人間が『ここまで』やるとは。


 しかし。


 少し厭世的に微笑む。



「君達よりは、人間というものを知っているから……」



 見飽きたとまでは言わないが、人間がこれぐらい出来る事は、知ってる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 王城女の子ばかりかと思いきや、陛下のおかげでマスターのまわりに多かったのねウハウハ [気になる点] 文官のシナリオ担当。神聖王国の作戦からしてもなかなかの凄腕なんでしょう。 チーム病毒の王…
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 最近の数話も中々面白くて治癒な話でしたね〜 今回は人間の闇らしいのですが、主人公さんの策謀も相当狡猾ですし、また今までに人族も相当ろくでなしですから、今更ど…
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