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病毒の王  作者: 水木あおい
4章

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地下室から聞こえる笑い声


 夜中にふと目覚めた。


 割と寝付きはいい方だが、昼間にバーゲストに埋もれて、うとうとしたりすれば、そういう事もある。


 一匹寝床に連れ込んでいたバーゲストが、私が身を起こしたのに反応し、起き上がる。


 とりあえず首筋に抱きついて、しばらく首元の一際もふもふな毛を頬で味わっていたが、そうしているうちにトイレに行きたくなって、仕方なく、最後に軽くぎゅっとして、解放した。


 鼻面を押し当ててすり寄ってくるバーゲストの頭を軽く撫でて、冷えないようにパジャマの上から深緑のフード付きローブを羽織り、さらに護符(アミュレット)を三種まとめて首に通す。

 その内の一つは若干冷気耐性が上がるので、寒さにも強くなるのだ。


 他のを着ける意味は、実は特にないのだが、三つ同時に装備するのが常なので、一つだけだと妙に軽く感じてしまう。


 トイレは部屋に備え付けられたものも含めいくつかあるが、掃除を含めたメンテナンスの関係で、なるべく共用の一つを使ってほしいと言われている。


 そしてバーゲストと共に廊下に出て、共用トイレで用を足した時、ふと笑い声のようものが聞こえた……気がした。


「今の、聞こえた?」


 バーゲストを見ると、こくりと首を縦に振った。


「案内出来る?」


 再び頷くバーゲスト。


 とてとてと歩くバーゲストの後を追う。

 夜の屋敷内を散歩した事はなかったが、昼とは随分と雰囲気が違う。


 ちょっと、夜中に襲撃を受けた時の事を思い出すが、今は安心感が違った。


 警報は鳴り響いていないし、戦力も増強されている。


 バーゲストが立ち止まり、私を振り返る。

 ここだ、と言っているようだった。



「地下室……?」



 笑い声は、最近下りる事もなくなった、地下へ続く階段から聞こえてきた。

 いつもは閉められている扉が薄く開いていて、そのせいで漏れ聞こえてくるのだろう。


 ちらりと、リズを起こす事を考えた。


 しかし、ここは館内で、聞こえてくるのも笑い声だ。

 一応バーゲストに先導を頼む。


 かなり暗いが、勝手知ったる『自分の家』だ。


 それに、少しばかり冒険心をくすぐられた。

 一人きり――バーゲストは連れているけど――で、『夜中に地下の探検』など、こういった機会でなければ出来るものではない。


 急な石造りの階段を下りると、光が漏れている部屋を見つけた。

 入った事はない部屋だが、笑い声もそこから漏れている。


 足音を忍ばせて近付くと、ドアが開いた。

 不意打ちに心臓が飛び跳ねるが、そこに見えた姿を見てほっと胸をなで下ろす。


「どうなされた、主殿」


 そこにいたのは、直立した骸骨であるハーケン。

 ほっと胸を撫で下ろ――あれ、感覚おかしいな。


 ほっとするべきでは、ない気もする。


 日本にいた頃の私なら、間違いなく悲鳴を上げていた……と言い切れない乙女力の低さがまた。

 素直に助けを呼べているだろうか。


 それでも、日本で歩く骸骨に出くわしたら、少なくともこんな安心感を抱いていない事は間違いない。


「少し、目が覚めてね。そしたら、笑い声が聞こえてきたから」


「――む? 声が?」

「地下への扉が、少し開いてたよ」


「それは申し訳ない事をした。いつもは閉めておるのだが」

「いつも? 今日だけじゃないの?」


 夜間の警備は、睡眠の必要のないハーケンが責任者という事になっている。

 睡眠の重要性が低いサマルカンドが補佐に当たり、常時敷地内に放たれているバーゲストと、リズのセキュリティトラップが警戒網の穴を埋める。


 警備ではないが、レベッカは夜でも実験室にこもっている事が多いので、以前より遙かに守りは固い。


「うむ、そうだな……いや、見てもらった方が早いかも知れぬ」


 ハーケンが、部屋から出てきたもう一人のスケルトンに、軽く指で上を指す動作で指示を出す。

 話は聞こえていたのだろう。彼――かは分からないが――は、私に軽く会釈し、上の扉へと小走りで向かう。


 見覚えがない――というより、うちにハーケン以外の骸骨(スケルトン)のひとがいたとは知らなかった。

 いつの間にか、人員が増えていたらしい。


 そして私は、ハーケンに軽く肩を押され、部屋に入った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ハーケンにほっとする自分に疑問を感じるとこが笑う 夜のトイレに黒犬さんを連れていけるマスターいいなぁ [気になる点] トイレ事情せちがらい でもリズ一人で掃除とかしてるのでしょうから 仕…
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