表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病毒の王  作者: 水木あおい
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/577

二人の帰還


 年が明け、まもなくしてレベッカとサマルカンドが帰ってきた。

 レベッカが報告する。



「帰還した。現地の損耗ゼロ。特筆すべき戦果もゼロだがな」



「おかえり、レベッカ、サマルカンド。みんな無事なのが、何よりの知らせだよ」


 白い息を吐くレベッカとサマルカンドを、屋敷内に招き入れながら、リズを見た。


「リズ、お茶淹れてくれる?」

「はい」


 リズが台所へと消え、私は二人と共に談話室へ向かう。


「報告はお茶飲みながらにしようね。でもひとまず――お疲れさま」


「ん……なんだか、くすぐったいな」


 レベッカが、言葉通り、少し照れくさそうな表情を浮かべる。


「何が?」


「その……そんな風にねぎらわれた事など、あまりなかったものでな」


「え、そうなの? ――サマルカンドは?」


「は、私めも、このような心に染みる手厚いねぎらいの言葉を受けた事など、我が主より他にはありませぬ」


 ……そんなに重いねぎらいの言葉は、口にしたつもりがない。


「そっか……サマルカンドの前の上司さんはもういないけど、エルドリッチさんには陛下を通じて一言、言っておくべきかな……」


「いや、軍隊だからな」


「軍隊でも、だよ」

 レベッカの言葉に、きっぱりと宣言した。


「そういうものか……?」


「そういうものだよ。どんな職場でも、信頼関係の構築は必須だよ。軍隊みたいな特殊な職場の方が大事かもしれない。――それにね」


「それに?」



「単純にあいさつとかねぎらいの言葉って、ちょっと嬉しくなーい?」



「……まあそうだな」

 レベッカが頷く。


 そして首を傾げた。



「しかし、なんでそのまともさで、"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"なんてやってるんだ?」



「それが私にも謎でねえ」

 しみじみと頷く。


「何を気の抜けるよーな会話してるんですか。――お茶の準備出来ましたよ」


「いつもありがとね、リズ。あ、ハーケンも呼んできて」

「はい」


「奴は飲めないだろう?」


「でも、そういう雰囲気は好きだって言ってたから。それに、これ報告会兼ねてる……というかそっちがメインだしね?」


「そうだったな。……ところで、あいつが、かなり高位の不死召喚生物だって分かってるか?」


「分かってるよ?」

「ならいいんだが」



「――どんな事情があっても、みんな、私の可愛い部下だよ」



「……時々、お前が本当に大物に見えるよ」

 レベッカが、呆れるように口元を少し緩ませて笑った。


「うちのマスターは魔王軍最高幹部ですよ? 当然じゃないですか」

 何故か自慢げなリズ。




 五人揃ったところで、口を開く。


「じゃあ、レベッカ、サマルカンド。報告を聞かせて」


 レベッカがサマルカンドと目配せし、彼の頷きを受けて、口を開いた。



「人間側に"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"は恨まれていたぞ。"病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"さえいなければ……という風潮もあるな」



「そりゃ好都合だね」

「そうか?」


「そうだよ。私はただの一要素でしかない。その私を過大評価するなら――勝てる戦争も勝てないよ」


 私の言葉に、私以外の全員が一斉に眉をひそめた。

 いや、ハーケンは眉がないので、あくまで雰囲気の話だが。



「ただの一要素……?」


「過大評価……?」


「僭越ながら、我が主にあらせられましては、ただの一要素といったものではなく、戦局を左右する重大な要素であるかと」


「主殿は、ご自分を過小評価するきらいがあるな」


 レベッカ、リズ、サマルカンド、ハーケンがそれぞれ思い思いの感想を口にする。



 しかし、私は首を横に振った。


「本当の事だよ。私は何もしてないもの」


「マスターが何もしてないなんて事がありますか」


「『私は』何もしてないよ。私の部下がみんな優秀なだけだから」


「いや、そう言ってくれるのは嬉しいがな。私にはちょっとあの非道さで命令を下すのは無理だぞ?」


「そんなに非道言われると照れるよレベッカ」


 頬に手を当てる私を無視して、リズとレベッカが聞こえるようにひそひそ声を交わす。


「照れる要素ありました?」

「ないような気もするが」


 この二人も、随分と仲良くなったものだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] マスターにとっての『病毒の王』はチームであり機構なんでしょうね [気になる点] サマルカンドはブラック上司だったようだしそうだろうけど、レベッカの場合、軍歴も長く尊敬されてたので気軽に労…
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! まぁ、憎まれて、過大評価されるのは最初にして最大の目的ですから。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ