表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病毒の王  作者: 水木あおい
1章
10/574

バーゲストの腹毛を撫でるお仕事


 基本プランは固まった。


 しかし、今回現地活動班に被害が出た事もあり、人手が足りない。

 いや、そもそも、以前から人手は慢性的に足りないのだ。


 なので、それについて、リズと庭で打ち合わせをしている。

 

「以前から申請していた死霊軍からの追加人員は?」


「はい、五十名ほど。暗殺者(アサシン)の技術を持つ死霊(レイス)という注文でしたので、数を揃えるのに時間が掛かったようですが。腕は私と比べるのは酷というものですが、十分に有能です」


 さりげないアピールが可愛い。


「問題は、今回、死霊(レイス)二十八名をまとめて失いましたので、増員しても戦力が足らな……あの、マスター。真面目に聞いているとは思いたいのですが、やっぱり相応に真面目な態度で聞いて頂けませんか?」


「え?」


 私は、ごろんとしてお腹を見せるバーゲストの腹毛を撫でながら話を聞いていた。



挿絵(By みてみん)



「……さすがに気が散ります」


「分かったよ。ごめんね」


 リズに謝った後、バーゲスト達に向き直る。


「お話終わらせてから遊ぶからね。ちょっと待ってて」


 撫でるのを切り上げると、私の後ろに何故か列を作るバーゲスト達。


 順番待ち?


「ですから、私も現地派遣用の兵力としてカウントする事をご考慮下さい」


「リズを? ……リズの事は信じてるけど……いや、信じてるからと言うか……」


 言い淀んだ。


 リズは間違いなく優秀な暗殺者だ。

 人員不足の問題は、とりあえず解決するだろう。


 しかし問題は、彼女が優秀な暗殺者であると同時に、暗殺者の手口を知り尽くした、優秀な護衛でもあるという事。



「私死なない?」



「そうなんですよねえ……」


 ため息をつくリズ。


「陛下の護衛を減らすのも怖いですし、かと言ってうちのマスターは私がいなくなると、さっくり暗殺されそうで……」


 "病毒の王ロード・オブ・ディジーズ"は最高幹部であり、英雄だ。

 しかし、正体不明な上にやり口は非道。権限や予算もどんどん増強され、その度に割を食う部署がある。

 なので、敵はもちろん、味方からも命を狙われかねない立場だ。


 隙を見せるのは、よくない。


「悩ましいねえ」

「ええ。数を揃えればいいという訳にもいきません。隠密活動が主目的ですか……ら……?」


 リズの言葉が尻すぼみになった。


「何か?」

「ちょっと待って下さいマスター」


「何?」

「いえ、少し確認を」


 リズが、私の後ろにいるバーゲストを、一匹ずつ指さして確認していく。

 何故か、その動作をもう一度繰り返した。

 そして、もう一度。


「数え間違いじゃないですよね……」

 リズの顔色が冴えない。


「ここにいるのは十一匹だね」

 私も数えてみた。



「どうして『十一匹』いるんです?」



「なんの事?」

「館に配備されているバーゲストは十匹です」

 リズの言葉に、首を捻った。



「……もっといるよ?」



「は?」


「だから、もっといるよ? 館の警備だってのは知ってるから、全部集めるような真似はしてないし。私のそばに寄ってきた子を適当につかまえて遊んでる内に、何匹か寄ってくるだけで……それでも、多い時で二十匹ぐらいはいたと思うけど」


「……二十?」

 リズが額に手を当てて押さえる。


「まさか……え? まさか?」

 現実を見たくないと言いたげな苦悩した声。

 ふるふると頭が軽く振られる。


「マスター。現在の正確な数を数えたいので、可能な限り集めてくれますか」


「分かった。――お前達、分かったね? 仲間連れといで。全部」


 私が声を掛けると、並んで撫でられる順番待ちをしていたバーゲスト達が、何故か寄ってきた。

 そこにひょこりと、館の陰から一匹のバーゲストが姿を見せた。

 走り寄ってきて、私の周りの群れに加わる。


「そう言えば、『群れの連携は魔法的なもの』って言ってたね」

「ええ。……マスターの指示が伝わっているようですね」


 ごろん、と一匹が「撫でれ」とばかりにお腹を見せて転がる。


「みんなが集まるまで、この子撫でて待っててもいい? 褒めてあげないと」


「……ええ」

 リズが頷く。


「ありがとねー」

 許可が出たので、私は手を伸ばしてわしゃわしゃと腹毛を撫でる。


「しかし……普通黒妖犬(バーゲスト)には、こういう指示は出来ないんですよ?」


「リズ。目の前の現実が全てだよ」

「それはそうなんですが」




 少しして、集まったバーゲスト達を見渡したリズが、ため息をついた。


「……あのですねマスター。私この時ほど、マスターを人間離れした方だと思った事ないですよ」


「褒めてる?」

「微妙な所です」

 リズが、並んでいるバーゲストをさっと一瞥した。



「……なんで、『四十八匹』もいるんですか?」



「私には『さあ』としか言えないよ」


「マスターにお教えしておくと、十匹が一人で安全に使役出来る数。二十匹がほぼ限界です。……四十八匹? 馬鹿な」


「別に危ない事はなかったと思うけど」


「ええ、それが何故か、マスターを主人と思っていらっしゃるようで……安全では、あります。今の所、と言わざるを得ませんが」


「リズ。バーゲストって、遠距離の移動に耐えられる魔獣?」

「耐えられるも何も。元々行動範囲の広い魔獣ですよ。脅威評価も、その神出鬼没さから来る所もあります」



「じゃあ、これで兵力の問題は解決かな?」



 リズが迷いながらも、頷いた。


「……この子達がマスターの命令を聞けば、解決です」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この話好きです、何度読んでも黒犬さんの順番待ちが可愛いくてリピートしてしまう! とぼけたマスターとリズのやり取りもテンポよくて好き。 [一言] 「私死なない?」のマスターも可愛い!いってる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ