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クリエイター少女の奮闘記  作者: 前川
高校生編
38/41

36 モンスターマシン

仁たちの活躍もあり楓の誘拐事件はとりあえず無事に収まった。


仁がやったことの方が大事なので(?)事件は公にはしなかった。


しかし楓は脚に残ったスタンガンの跡もあったので両親である透と由紀には全てのことを話した。


もちろん2人ともこれは大事だということになったのだが前述のこともあり登下校時のことは色々と規則がつくことになった。


それと併せて2人が「是非そのバンドメンバーに会いたい」と言い出したので仁、朱莉、二階堂を後日夕食に招待することになった。


ちなみに仁は両親への挨拶だと思いバキバキにスーツで決めて花束を持参していったところ、朱莉と二階堂にしばかれていた。透と由紀にはウケていたが。


そんなこともあって透と由紀は3人をいたく気に入り楓のことを(友達的な意味で)よろしく頼むと頭を下げたのだった。


...ちなみに食後「ぜひ楓ちゃんの部屋を見たい」という朱莉の申し出により3人は楓の自室へ招待された。


...しかしそこに広がっていたのはレーザーカッター、NCルーター、NCフライス、樹脂と金属それぞれの3Dプリンタ、ハンドプレス、小型のマシニングセンタといった機材が並んでいた。


朱莉は年頃の女の子の部屋ではなく町工場の一角と間違えたかとドン引きした。


女子トークをするつもりで部屋に来た朱莉は楽しそうに各種機材の使用用途を話す楓を死んだ目で見ていた。


そもそも1階のガレージに案内された時点で嫌な予感はしていたのだが...。


ちなみに仁と二階堂は楽しそうに話を聞いていた。


そんなこんなで思わぬお家訪問は終わったのだった。




「はぁ...」


とある小学校でとある小学生がため息をついていた。


彼女の名前は石井由愛。


現在は活動休止中のユニットであるRaspberryのキーボーディストだった少女だ。


今年で6年生となる彼女はその年に似合わず悩ましい顔で悩んでいた。


(会いたいな...)


彼女はとある人を思い浮かべ悩んでいた。


「元気かな、楓姉ぇ...」


その相手はかつてRaspberryで相方であった川原楓だった。


Raspberryは活動休止となったものの音楽活動は継続している由愛に対して楓は現在事務所との関わりは無い状態である。


そういうこともありかつてはいつでも会う機会があったのだが、現在ではなかなかその機会が無いのだ。


Raspberryの活動中、楓は由愛が自身に向ける好意には気づいていた。


なのであまり自分に依存させないように由愛を甘やかしたりはせず、対等なアーティストとして接してきた。


全ては由愛が将来1人になっても自力でやっていけるように、という楓の願いからだったのだが悲しいかな。

結果からすれば由愛は楓にベッタベタに惚れてしまっていたのであった。


「以上で帰りの会を終わります。起立、気をつけ!礼——」


由愛がボーッとしている間に帰りの会が終わっていたようだ。


今日は事務所でソロアルバムの打ち合わせがあるのでRaspberry時代からの担当である澤村が車で迎えに来てくれることになっている。


もう来てるかも、と思い足早に下駄箱へ向かい靴を履き替えていると1人の男の子から声を掛けられた。


「おう石井じゃん」


「あ、野瀬君...」


この野瀬という男子は由愛と同じクラスの生徒だ。


クラブチームでサッカーをやっているスポーツマンであり容姿も整っているので女子からの人気も高い。


だが由愛は少し彼が苦手だった。


「途中まで一緒に帰ろうぜ」


「ごめん、今日は車が迎えに来てるから」


「じゃあ校門までで良いからさ」


どこが苦手かというと、こういう押しの強いところだった。


何かとアプローチしてくるので毎度それをやんわりと断っているのだが一向に止めてくれる気配が無いので由愛は若干困っていた。


「——それでこの前選抜に選ばれて、結構大きいとこで試合やんだ」


「へぇ、すごいね」


話の内容がほとんど自慢話なのも苦手な要因の1つだった。


由愛は日頃から大人に囲まれて仕事をしているため良くも悪くも基準が大人目線になってしまっている。


女子からすればただでさえ子供に感じる小学生男子が由愛にとっては更に子供に感じてしまい、話をしていても退屈に感じてしまう。


そんな感情がつい受け答えにも乗ってしまうが、野瀬はそれにすら気づいていないようでそれがまた由愛の心を疲れさせた。


心の中で楓ならこう言うのに、楓ならあぁ言うのに...と心の中に楓を浮かべつつただ時が過ぎるのを待った。


視界に入ってきた校門がこの時間からの解放を告げると由愛はようやくかと息を吐く。


しかし校門に近づくにつれ、いつもと様子が違うことに気付く。


何故か下校していく小学生たちがある方向を一瞥し帰っていくのだ。


中にはそちらの方向へしばらく釘付けになっている生徒もいた。


出口まで来た由愛は野良猫でもいるのかと思い目を向けると、そこには1人の女性が立っていた。


その女性は制服のブレザーに身を包んでおり、女性としては少し背が高め。


髪型は少し乱雑に切り揃えられたボブカットで、所々の跳ねた毛がチャームポイントだ。


「か——」


見間違えるはずのないその人こそ——


「楓姉ぇ!!」


由愛が今一番求めてやまない人だった。



「野瀬君ありがとう!じゃあね!」

「お、おう」


石井は校門から少し離れた場所にいる誰かを見た途端、急に走り出した。


そして石井はその人物にスピードを緩めず抱きついた。


その光景に俺は驚いた。


石井はクラスの女子の中でも大人しい方で、感情を大きく表に出すことは少ない。


そんな石井が人目を気にせずあんなにはしゃいでいるところなど見たことがなかったからだ。


声のトーンも明らかに俺と話していた時より高いし、何よりずっと満面の笑みだ。


それは決して俺には見せない顔であり、さっきまでの俺との会話は決して石井の心を満たすものでは無かったと暗に物語っていた。


「もう、そんな抱きつくほど久しぶりじゃないでしょ」


石井に抱きつかれた女は石井よりひとまわり身長が高い。クラスで一番背が高いよっちゃん(バスケクラブ)が165cmと言っていたから、同じぐらいありそうだ。


まだ成長期に入っていない俺は現在155cmで、その女を見上げる形になるのが少し屈辱ではあった。


「だって嬉しかったんだもん」

「サプライズになって良かった。ところでさっきの子は置いてきて良かったの?」


女はそう言うとこちらの方をチラリと見る。


「うん。()()()()()()()()()で一緒になっただけだから」

「そうなの?」


その女がこちらの方をチラリと見た。


——目が合った瞬間、俺には2つの衝撃が走った。


1つ目は石井にとって俺は他のクラスメイトと同列の存在という事実。


2つ目は....俺がその女に一目惚れしてしまったという事実だ。


失恋と新たな恋を同時に経験させられた俺は稲妻に打たれたようにその場に立ち尽くし、どこかへ歩いて行く2人を眺めていることしかできなかった。



余談だが…野瀬君はその後しばらく背が高く細身でボブカットの女子としか付き合えない体質となってしまうのであった。


なお校門を通った男子の多くの初恋を楓が奪ったとか奪っていないとか、次の日に由愛の元へ楓のことを詳しく聞きにくる男子が後をたたず由愛がうんざりしたとかしないとか…というのはまた別の話である。



「あら楓じゃない」


「楓ちゃんお疲れ様!」


楓と由愛が澤村の車で事務所に到着すると、綾乃とかつて楓がひょんなことから協力先となった雑貨メーカー、ルーン株式会社の企画営業・松原英梨が来ていた。


「あ、ごめん打ち合わせしてた?」


「もう終わったから大丈夫よ」


楓の問いに綾乃がカップの紅茶を飲みながら答える。


綾乃はソルダーノレコーズのグッズ企画・デザイナーであり必然的に英梨との連携が増えてくる。


2人はソルダーノレコーズが抱えるアーティストのグッズのデザイン・企画を担当するタッグなのだ。


「突っ立てないで楓も由愛も座りなさいな」


「うん」


綾乃の手招きに従い楓と由愛は腰をおろした。


何か飲む?という綾乃の問いかけに楓はブラックコーヒーを、由愛はミルクティーをリクエストした。


「いやー、しかし夢のようだなぁ...」


英梨が伸びをしながらムフフと笑った。


「何がですか?」


「いや、楓ちゃんと知り合ってソルダーノレコーズから仕事をもらうようになってから毎日楽しくて...」


英梨は感慨深そうにつぶやいた。


「そんなにキツかったんだ、今までの仕事」


楓と由愛の飲み物を持って戻ってきた綾乃が英梨のつぶやきに反応する。


「企画営業、兼デザイナーって言っても名前だけでねぇ。全然クリエイティブな仕事じゃなかったよ」


「そうなの?」


由愛が驚いたように口を手で覆った。


「いや、大手ならやりがいあると思うよ?でもウチは元々仕事のほとんどは下請け仕事だったからさ、安さが全てなワケよ」


PB(プライベートブランド)ってことかな?」


プライベートブランドとは主に小売業(=お店のこと)が独自に企画し販売する商品のことを指す。


ちなみにメーカーが作る自社製品はNB(ナショナルブランド)品という。


多くの場合小売業者は製造機能がないため、メーカーに製造を委託するOEMの形をとることが多い。


コンビニなどが身近な例であり、例えばコンビニの名前が入ったお茶。


これはコンビニ側が飲料メーカーに製造を依頼し、販売はコンビニがしている。


そもそもなぜ小売業者はPB品を作るのか?


1つは独自の個性ある商品を作ったり、統一されたコンセプトの商品を企画し自社をブランディングする場合である。


小売業者はお店なので、お客との距離が最も近い。


そのため顧客のニーズに関してはメーカーよりもよくわかっていることがしばしばあるのだ。


そのニーズをもとに自分たちで製品を企画すればヒット商品が生まれるのでは?と考えることは自然な流れである。


2つ目のケースは、価格である。


例えば日常で使用するティッシュやトイレットペーパーであったり、洗剤。


このような消耗品はこだわりが無ければ消費者は一番安い物を手に取るはずである。


つまり競合店より一円でも安いことが大事であり、それを追求した場合がこの2つ目のパターンのPBである。


大手のコンビニやスーパー、ホームセンターなどのチェーン店ともなればその販売数量も当然桁違いだ。


小売店はこのバイイングパワーを活かして一度に大量に発注し、商品の単価を下げるようメーカーに要求することは日常茶飯事である。


有名な小売店ともなれば自社倉庫を各地方に持っていることも多いため、船からそのまま陸送でのコンテナで一括納入し送料も圧縮することが可能だ。


他にも単価を下げる要因はあるが、流通の形態は業界・品種によって多様なのでここでは割愛する。


しかし商品の単価が下がりすぎるのはメーカーとしては困るのだ。


商品には定価というものがある。

いわゆるメーカー希望小売価格と同義である。


もしお客が「あっちの店では定価の150円で売っていた商品がこっちでは120円で売っている」と気づけばどういうことかとなるし、別の取引先から「本当はあの価格でやれるのか」と思われては営業も商談時に不利になる。


もちろん市場価格が下がり過ぎればメーカーとしても儲けが減るのでいたずらに価格を下げることはやりたく無いのだ。


そもそもメーカー側はNB品に在庫リスクや不良発生時の対応、設備への初期投資など様々なものを背負っているのでそれらを加味すれば定価がある程度高くなるのは必然である。


とはいえ大手の大量注文は多少自社の売上単価が下がってもぜひ受注したい、とメーカーが思うのは当然である。


そこでパッケージを変えた他社のプライベートブランドとして販売することで上記の問題をクリアし、メーカー・小売店ともにウィンウィンな取引ができるということなのだ。


中身は全く同じ商品をパッケージだけ変えて数十社に卸しているメーカーなどザラである。


「まぁウチは当然安く作るためのPBなんだけどさ...デザイン作業って言っても実際はそういう商品のパッケージデザインなワケよ」

「あー、なんとなく言いたいこと分かったわ。よく分からないメーカーのすごい安い商品って大手メーカーの定番品にデザイン似てたりするわよね」


綾乃が合点がいったという様に頷いた。


「確かにスーパーのめちゃ安いPBスポドリとかって、大手のスポーツドリンクのデザインにめちゃ似てるよね」

「楓の言う通りで、わざと似せて作るわけよ。安さが売りの商品におしゃれなデザインなんて客は求めてない。パッと見て分かりやすいってのが一番大事だからさ」

「そういえば昔、PB商品のパッケージデザインをオシャレに全振りしたら何が入ってるかわからないって大炎上した会社あったわね...」


綾乃が苦笑いしながら相槌を打つ。


「それに比べたらグッズの企画は全然自由度あるからさ〜大変だけど楽しいのだ!」

「でも英梨さんメインは営業でしょ?そっちの仕事は大丈夫なの?」

「いや〜お恥ずかしい話ですが、元々そんなに戦力じゃなかったんで営業は外れて今は企画とデザインに集中してるの。願ったり叶ったりだけどね」

「それは良かったです」


楓は満足気に頷いた。


「ところで今日はなんで事務所に来たワケ?」


綾乃が楓に疑問に思っていたことを口にした。


「みんなの顔を見に来たのもあるけど、今度バンドで商店街の市民発表会に出るからその宣伝」


そう言うと楓はコレっ、と机に市民発表会のチラシを置いた。


「へぇ〜。バンドを組んだとは聞いてたけど」

「曲はどういうのやるの?」

「曲はですね——」



さかのぼること1日前。


「超天才的なアイデアを思いついたよ!!!」


軽音同好会の部室で朱莉が全員集まるや否や大きな声を出した。


「逐一声が大きい。もっと静かにできんのか」

「んで、天才的なアイデアってーのは何なん?」


二階堂はフンと鼻を鳴らし、仁は先を促す。


「市民発表会でやる曲目だよ!」

「時間的に2曲くらいじゃ無いとダメなんだっけか?」

「そう、その常識を覆すアイデアこそが——」

「なるほど、メドレーか」

「っっっっておい二階堂君!?それあたしがキメるとこでしょーー!?」


キメどころを持って行かれた朱莉が二階堂へ不満を漏らす。


「なるほど、良いアイデアじゃない?」

「師匠のおっしゃる通りです。よくやったぞ、木乃原」

「コイツ....」



「...(回想終了)。まぁ色々あって老若男女が楽しめるメドレーで行こうってなったよ」

「毎年お客さんは色んな人が入ってるものね。いいんじゃない?」

「でも楓が流行りの曲を弾いたりするのって想像できないわ...」


英梨は楓が流行曲を弾いている姿が想像できなかった。


「でも、なんで今更そんな素人たちとバンドなワケ?アンタは文字通り世界一って言っても過言じゃ無いレベルのギタリストでしょう?」


綾乃から楓に質問が投げかけられる。


綾乃と楓の距離感だからこそ出来るストレートな質問に、由愛と英梨はウンウンと頷いた。


ちなみに英梨も楓の事情は以前にカミングアウトされているので承知済みである。


「仁科奏の記憶があるんだからそんなことしてる暇あったらもっと他にやれることあるって?」


「いや、そこまでは言わないけど...」


「まぁ分かるよ。というか私もそう思ってた。前世の記憶使って学校行く時間を削って創作活動すればいくらでも周りと差が付くじゃん、って」


でもね、と楓はそれを否定した。


「最初はすごいチートだと思ったよ。でも同時に呪いだなとも思った」

「呪い?」


英梨が楓の言葉に首を傾げた。


「どんな素晴らしい作品を見ても、どんな刺激的な体験をしても、子供の頃の——まだ『知らなかった』頃には絶対にインパクトでは叶わない...本当に子供だった頃の鮮やかさには叶わないって気づいたんだよね」


楓は少し寂しそうな顔で続けた。


「私は前世と今世を足したら年齢的には50歳近いわけだけど、英梨さんや綾乃と由愛とは20-40年の年齢の開きがあるよね。車で言えば私は3人に比べて基本設計が30年前の車みたいなもんなんだよ」


そういうと楓は机に置いてあった紙に「Resto-Mod」と書いた。


「レストモッド...?」

「そう」


由愛の呟きに楓は頷いた。


「修復するって意味のレストアと改造するって意味のモディファイを合わせた造語だよ。比較的新しい車用語だね」


「...それが何か楓姉ぇに関係が?」


「レストモッドは意味の通り、古い車を修復して、かつ改造も施すってこと。例えば70年台のスポーツカーを修復して、かつ現代の技術をインストールする。エンジンをEVにしたり、現代の快適装備を追加したり...。つまりそういうこと」


楓が言いたいことが分かってきた綾乃が口を開いた。


「つまり、自分自身をレストモッドするため...って言いたいの?」


「そうそう。...まだまだみんなと一緒に私も同じスピードで走りたいからね」


楓はそう言うと照れた顔を隠すようにコーヒーをズゾゾッと啜った。


「...なるほどね、楓らしいわ。んで、なんで今日は由愛と一緒に来たわけ?高校と小学校じゃ終わる時間噛み合わないでしょうに」


「いやー今日開校記念日で休みだったの忘れててェ...」


若干寝癖のついた髪を楓はかきつつ正直に告白した。


「なるほどねぇ。ってーことはアンタはその格好でいつも学校に通ってるワケだ」


「えっ!?あっ、いやそんなことナイッスヨ」


ブンブンと首を振る楓を綾乃はジロリと上から下まで眺める。


寝癖のついた髪、化粧が何ひとつ載っていない顔、何の改造もされていない綺麗な制服...


「アタシが何言いたいか、分かるわよね楓?」


「いや進学校だから化粧とか校則でNGなんだって!」


「へぇ?まるでオフの日はちゃんとしてるような口ぶりね...ところで私が先月楓に上げた試供品のファンデ、どうだった?」


「あー、えっとね、良かったよ(語彙力ゼロ)」


綾乃は若い世代のインフルエンサー的側面も持っているので、化粧品メーカーとのタイアップをすることもある。


そういうこともありよくサンプル品や試供品を貰ったりするので楓や英梨に問題が無さそうなものはお裾分けしていたのだが...


「なるほどねぇ。...ところでこの前楓のお母さんからこんなメッセージが来たんだけど、これはどういうことかしら?」


綾乃が自身のスマホを取り出し、何回かタップしたあと楓に画面を見せつける。


そこには『いつも試供品ありがとね綾乃ちゃん♪』という楓の母である由紀からのメッセージがデカデカと表示されていた。


「裏切りやがったな母上!?」


「アンタはアタシの期待を裏切ってんでしょうがこのおバカ!5分で出来る簡単バージョン伝授したげるからこっちに来なさい!」


「離せ!私は自由な鳥だ!」


バタバタと暴れる楓を綾乃が引っ張っていく様を見て、英梨と由愛はため息をついた。


「...レストモッドなんてしなくても、充分速いのにもっと速くなろうなんて困った子ね」


英梨はやれやれと肩をすくめた。


「楓姉ぇの場合、元がレーシングカーだから今でも最新のスポーツカーより速いって前提が抜けてますよね...」


「確かに、由愛ちゃんの言う通りね。...まぁ、それに年を取れば自然と化粧しだすでしょ」


「あっ(察し)」


そう言いながら遠くを見つめる御年33歳の英梨の言葉を由愛は苦笑いしつつスルーした。


下手な慰めが不要な事もある....

若くして大人の世界に足を踏み入れた由愛はそれを知っているのであった。


挿絵(By みてみん)

⭐︎用語解説⭐︎


レーザーカッター

→文字通りデータ通りの形に金属板やアクリル板をレーザーでカットする機械。

試作や一品もの、複雑な形状を作る際は便利だが、1枚を切る時間を考えるとプレスで抜いた方が早い。


NCルーター

→NCとはnumerical control、つまり数値制御という意味。

デジタル制御でプログラムを組めば自動でワーク(対象物)を切削してくれる機械。

楓のギターのボディとネックは全てNCルーターで切削している。


NCフライス

→金属を色々なドリルで切削する機械。

筆者は昔会社のフライス盤のドリルをプレートにぶち当ててえらい怒られた思い出がある(ドリルがぶつかると機械のセンターがズレて精度が落ちるため)


3Dプリンタ

→最近は個人レベルでも使用者の増えている機械。

金属の3Dプリンターは登場当初、完成品の強度に問題があったり値段が高価であまり使われていなかったが現在では実用レベルへと達している。


金属製品を3Dプリンターで作る場合の大きなメリットとして積層して形状を作り上げるため、製品内部の形状まで自由自在に設計出来ることが挙げられる。

例えば正方形の鉄の塊の中をハニカム形状にする、など。


ホンダの最新のF1エンジンのピストンは上記のメリットを活かすため3Dプリンタ製らしい。


デメリットは1つの製品を印刷するのに時間が掛かる点。24時間かかるとかザラである。


筆者は数百年後の未来、企業からデータを買って家の3Dプリンターで製品を手に入れる時代が来ると思っている。


余談ですが最近のF1エンジンはボアを広くして超ショートストロークなんですね。熱効率も50%近いとか。


これだけ完成された技術を捨ててEVとか言ってるEU君は何考えてんですかね(唐突な欧州批判)


ハンドプレス

→その名の通り手の力で動かすプレス機。

何かを圧入する時などに意外と便利。


マシニングセンタ

→機械が自動で工具を付け替える機能のついた切削機械。

つまりフライス盤くんの超上位互換。

ワークが加工されて行くところを想像しながらプログラムを組まないとドリルがワークにぶつかりブチ折れるなどのクラッシュが発生するので、結構な熟練が必要。

十何時間もかけて切削してた部品がドリル折れで止まっていたりすると膝から崩れ落ちる。

動画サイトで「CNC fail」と検索すると、クラッシュするシーンが見れます。

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― 新着の感想 ―
楓さんはとんでもない物を盗んでいきました 大量の小学生男子の初恋です。
レーザーカッター、NCルーター、NCフライス、3Dプリンタ等々・・・一般的な女子高生のお部屋だね( ꒪⌓꒪) 楓ちゃんもっと速くなるのか、まあ世の中にはジェットエンジンを積んで音速超えた車も有るから・…
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