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クリエイター少女の奮闘記  作者: 前川
高校生編
37/41

35 影あるところに光あり

この物語は現実とは別世界であり、登場する人物・団体等は実在のものといっさい関係ありません。またここに描かれる走行シーンを真似することはしないでください。自転車を運転する際は交通ルールを守り、安全運転を心がけてください

話は朱莉たちがファミレスに着いた頃まで遡る。


その頃には掃除当番を終えた楓は3人を追うように学校を出た。


その道中でワンボックス車が停まっており、その側に立っていたのは先日会ったばかりの沙耶香だった。


「高城さん...?」

「どうも、川原さん♡」


とりあえず車に乗れという沙耶香の申し出を当然楓は拒否したが、


「いいのカナ〜?いうこと聞いてくれないと周りの子たちがどうなるかわからないカモ...」


沙耶香は車内にいるガラの悪そうな男たちと周囲の下校生へ交互に視線を向ける。


直球な脅迫に楓は一瞬で逃走を判断した。

校内に逃げ込めばこちらのものだという判断だった。


走り出そうとしたまさにその時、背後から男に口を塞がれ何かを体に押し付けられた。


その瞬間体中の筋肉が攣ったような感覚に襲われ楓は倒れ込んでしまう。

スタンガンの電撃だ。


口を塞がれていたため声も上げられずそのまま車内に押し込まれ、今に至るというわけであった。


「何が目的なの?」


車内を見渡すと沙耶香の他に男が4人ほど運転手含め乗っていた。


押し込まれた後部座席はフルフラット状態であり楓は沙耶香と男たちに取り囲まれる形だ。タバコの臭いが鼻につく。


車内に投げ入れられるや否やスマートフォンを取り上げられ、指紋認証でロックを解除され位置情報などの機能は全てオフにされた。


男たちの手慣れ具合と思い切りの良さに楓は想像以上に危険かもしれないと感じていた。


自分が連れ去られた理由が全く分からない楓に沙耶香から質問が投げかけられる。


「単刀直入に聞くけどぉ、アナタ仁の彼女だよねぇ〜?」

「いや違うけど」

「えっ?」

「えっ?」


その瞬間に沈黙が場を一瞬支配した。


「う、嘘は良くないよ〜?アタシを刺激しないようにわざとそういうこと言ってるんでしょ〜?」

「じゃあ一ノ瀬君に今ここで電話して確認してもらってもいいけど」


その言葉を聞いた沙耶香は男から楓のスマホをひったくると仁へと通話を繋ぎ問い詰めるも、


『いや川原さんは彼女じゃないが』


という回答が返ってくる。


「「・・・・・」」


再び場を沈黙が支配する。


本来であれば楓を脅し一ノ瀬と別れさせるつもりであった。


さらに二段構えとして楓を人質にとり仁へ助けに来るよう指示する予定だった。


沙耶香は一ノ瀬 仁という男が女に全く興味が無い人間だということを知っていた。


自分が付き合えたのもあくまで仁からすれば付き合ったことないし付き合ってみるかという冒険心からであり、その後いくら可愛い子に言い寄られても全くの塩対応だったのを散々見てきたからだ。


周囲に「私は仁の彼女だ」と言いふらす自称「仁の彼女」が後をたたず、結構な戦争が起きたことを沙耶香は知っていたので楓もまた仁に惚れた哀れな自称彼女であり仁にとっての一時的な彼女に過ぎないと思っていた。


そんな楓を拉致し仁へ助けに来るよう要求したところで仁が助けに来るはずがない。


それを楓に思い知らせ絶望させるための誘拐であった....のだがその目論見は文字通り一瞬で崩れたのだった。


「あ、勘違いだったんなら私帰ってもいいすかね」


楓がおずおずと手を挙げながらそう言った瞬間だった。


「おい」


若干和んだ空気感を打ち破るように男は再び楓の太ももへスタンガンを当てた。


「あああああッ!?」

「!!アンタたち!手は出すなって——」


楓の痛みをこらえる叫びに振り向いた沙耶香は持っていたスマホを放り投げるように男たちへ声を掛ける。


「なんか勘違いしてねぇか?沙耶香」


そんな沙耶香を男がドスのきいた声で睨みつける。


「別に俺たちはお前の奴隷じゃねぇ」

「用が済んだら俺たちの好きにして良いって話しだから手伝ってるだけだぜぇ?」

「てかさ、別に俺的にはお前からヤッちまっても構わねぇんだぜ?」

「なっ...!」


そういうと男たちは沙耶香に向かって手を伸ばし始める。


「うおっ!?」


しかしその時、沙耶香へ迫ろうとしていた男の後ろからローファーが飛んできた。


男が振り返ると肩で息をしつつもニヤリと笑う楓がいた。


「外しちゃったか」

「テメェ...」

「まぁ怒るなよ!この短時間でスタンガンを2回も喰らって心が折れてねぇとは優しそうな見た目に反して根性あるじゃねぇか。良いねぇ、俺好みの女だ」


男は面白いオモチャを見つけたと言わんばかりにクククと笑った。


「誘拐した張本人を庇うとはとんだお人好しだな、お嬢ちゃん。そんなお嬢ちゃんに提案だ」


男は手を広げながら楓に言う。


「ゲームをしようじゃねぇか」



一方その頃、1人の少女が自転車を漕いでいた。


彼女の名前は村田佳奈。


今年で高校2年生となる佳奈は陸上部の短距離走者であり、部内ではNo2の速さを誇る俊足の持ち主だ。


そして彼女がまたがる自転車はいわゆるロードバイク。人馬一体となった彼女と自転車はまるで風のように道を駆け抜けていく。


その時だった。ふと、佳奈は後ろから一台の自転車が迫っていることに風切り音で気づく。


(このスピードに付いてくる?)


佳奈が後ろを振り向くとそこには——


「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」

「3ケツゥ!!???」


同じ高校の制服を着た男女が3ケツしとてつもないスピードで佳奈を追い抜いて行った。


「二階堂もっとスピード上げろ!」

「これ以上スピード上げたら木乃原が失神しそうだが...」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅううううううう!!!」


追い抜くやいなや結構な速度で走っているはずの佳奈をあっという間に置き去りにし、MotoGPのライダー張りのバンク角で自転車を寝かせ次のコーナーへと消えていった。


※MotoGP:世界最高峰のバイクレース


「..........ん?????」


あまりに一瞬の出来事だったため佳奈は目を擦り先を見つめるも、すでにその姿は幻のように消えて無くなっていた。


遠くから聞こえる恐らく女の子のおよそ女の子とは思えない悲鳴だけが、この出来事が現実であるとまるで主張するようであった。



「ゲーム?」

「なに、簡単だ。これからお前の口と鼻をテープで塞ぐ。1分間耐えたら2秒だけ剥がしてまた1分間テープを貼る。簡単だろ?」

「もう10分もしない内に俺たちの溜まり場に着く。それまでにお嬢ちゃんが根を上げなければお嬢ちゃんの勝ち。気絶したり手をタップしてギブアップしたら俺らの勝ちだ」


ククク、と男は笑いながら楓へ提案する。


「勝負の報酬は?」

「お嬢ちゃんが勝ったら2人とも何もせずに解放してやる。負けたら2人とも俺たちの好きにさせてもらう」

「ふーん」


楓は少し考えるような素振りをしてから言った。


「ヤダ」

「「「「は????」」」」


楓の拒絶の言葉にその場にいた全員がキョトンとした声を出した。


「いやいや、今のは受ける流れだろ!?」

「だって私が勝っても何もせずに私たちを解放する保証なんてないし」

「ほう。なぜそう思う?」

「車のナンバーもあなたの個人情報も握った私たちを野放しにする程アホじゃないでしょ?それに...」


楓はクスリと男たちを嘲るように笑う。


「どうせ私が勝っても嘘でした、って言って犯すつもりなんでしょ?あなた達みたいな人が考えそうな三流脚本だね」

「...さっきから黙って聞いてりゃ調子づきやがって」


楓の挑発に乗った男が楓を組み敷く。


「うっ!?」

「そんなに痛い目見てぇならいくらでもしてやるよォ。おいお前らこいつ押さえろ!」


男が叫ぶと後部座席の男3人がかりで楓を拘束し始める。


その様子を見ていた沙耶香はただ車の片隅で震え息を呑んでいた。


仁と歩いている時に会った楓はあんなに挑発的な人間には見えなかった。


もちろん非常事態というのもあるが、恐らくこういった荒事に慣れていない少女が何故あの様な啖呵を不良たち相手に切るのか?


どう考えたって自分を庇うためだ。


(なんで...)


「1分なんかで終わらねぇぞ。お前が気絶するまで塞いでやるよォ。ククク...」

「うむぅ!?」


(なんでアタシのためにそこまでやるワケ!?)


男たちに馬乗りされながら養生テープで口を塞がれる楓を見て、沙耶香は心の中で叫んでいた。


楓にとって自分は誘拐の主犯そのものだ。

初対面の印象も良くなかったはずだ。


そんな人間に対し、なぜあれだけ自分を差し出せる?


男たちは沙耶香にとってただの扱いやすいコマくらいの扱いだった。


決して悪くない自身の容姿を利用して都合の良い時に都合の良いように使ってきた。


『ひょっとしたらワンチャンあるかも——』


という男たちの心を利用してきたに過ぎない。


だが沙耶香には罪悪感は無かった。


女は男と違って社会から求められる物が格段に多いのだ。


生理という生まれつきのクソッタレなハンデを背負いながら、男女平等の名のもとに同じ社会、同じ境遇で生きろと言われる。


化粧やファッションにもそれなりに気を使わなければ男からは庇護の対象とされず、同姓からは仲間はずれ。


それだけ『税金』を払ってんだから男の下心を利用するなんて女の特権じゃないか——そう沙耶香は考えていた。


しかし男というのは沙耶香が考える以上に愚かな生き物であった。


もはやただの獣と化した男たちに対し荷台の隅でうずくまっている沙耶香。


対照的に1人の少女が果敢に立ち向かっている。


それも自分のためではなく沙耶香を庇うために。


沙耶香はなぜ楓に対し出会った時からイラついていたのか。


その理由は単純で自分に無いものを持っているからだと今日ハッキリと気付かされた。


あの少女はたとえどんな性別に産まれようが、どんな容姿に産まれようが、どんな環境に産まれようが関係ない。


どういう形であれきっと何かを成し遂げたり、人の心に残る人間になるだろう。


その事実に最初から沙耶香は気づいていながら目を逸らしていた。そんな自分に沙耶香は苛立っていたのだろう。


ふと男たちに身体を押さえつけられながら、それでも抵抗の意思を見せる少女と目が合った。


少女は自分の目を見つめてはすぐに沙耶香の隣に視線を移す。これを数回繰り返した。

まるで何かを訴えるように。


(なに?——)


ふと沙耶香が横を向くと、先ほど楓が蹴り飛ばしたローファーが転がっている。


そのローファーの中に何かが入ってるのが沙耶香には見えた。


こっそりとそのローファーを拾い上げると、中に入っていたのは——なんとコンパクトなスタンガンだった。恐らく楓が携帯していたものだろう。


それを手に取った瞬間、沙耶香は楓の方へ勢いよく振り向いた。


(まさか...最初からこれを見越して!?)


男たちの注意を引き付けていたのは沙耶香を庇うためだけではなく、これが狙いだったのだ。


現に男たちはまんまと引っかかり3人がかりで楓を押さえつけており、沙耶香から見れば隙だらけだ。


(やるしかない!これだけ助けてもらって自分は何もしないなんて——)


沙耶香は覚悟を決めると男たちへ飛びかかった。


1人の少女の勇気が、また1人の少女を変えた瞬間だった。



「オラオラァ、さっきの威勢はどこ行ったァ!」

「——ッッ!!!」


楓に馬乗りになった男は楓の口と鼻をテープの上から手で押さえ大声を上げる。


呼吸を封じられ既に90秒が経過しており、楓は限界を越えようとしていた。何のトレーニングもしていない常人であれば既に根を上げている秒数だ。


口を塞ぐ男の手をどかそうにも他の男に手足を押さえつけられ、動くことすらできない。


楓の意識が飛びそうになった瞬間、口からテープが剥がされる。


「ぷはぁっ!」

「中々粘るねぇ、謝ればいつでも許してやるぜ?」

「ハァ...ハァ...」


楓は男の目を見ると、息を切らしながら中指を突き立てた。


「その強がりがいつまで続くかなァ!」


男が楓の口を再び塞ぐ。


「うむぅ!」

「しかしこいつ、化粧1つしてねぇ。顔に触ってもファンデも何も付かねぇしよぉ」

「本当かよ!?...うわ、マジだ」


男は楓の顔をベロリと舐める。タバコ臭い舌の臭いに楓は顔をしかめた。


しかし手足は使えないので威嚇するように男を睨んだ。


「おーこわいこわい。可愛いお顔が台無しだぜぇ?」

「しかしスタイル良いよなぁ。モデルみてぇじゃん」

「お前こういうガリガリなのが好みなワケ?俺はもうちょっとふっくらしてる方が好きだ」

「わかる!細いと突いてる時アバラが見えるから好きじゃねぇんだよな」


下世話な話題で盛り上がる男たちは更に楓の身体を制服の上からまさぐり始める。


楓は身を捩りそれを拒絶しようとすればするほど酸素を消耗し小さな顔に苦悶の表情を浮かべていく。


「——ッ!!」

「こういう強気な女を黙らせるのが一番楽しいよな」

「わかるわかる」

「隠れ家に着いたらじっくり可愛がってやるよ。ククク...」


男たちは楓の耳を舐め、耳元で楓を絶望させるように囁く。


——その時だった。


「ぎゃっ!?」


楓を押さえていた男のうち1人が悲鳴を上げて倒れた。


「なんだ——うぎゃっ!?」


もう1人の男も何者かにやられ倒れる。


——楓のスタンガンを手にした沙耶香によるものだ。


「沙耶香テメェ——」

「——ッ!」

「おうふぅっ!?」


手足が自由になった楓は動揺した男の股間に思いっきり蹴りをぶち込んだ。


男としての記憶がある楓はその痛みを想像し思わず顔を顰めた。


「高城さ——」

「おーっとそこまでだ」


楓が沙耶香の方を振り向くと運転手の男がいつの間にか荷台側へ移動しており、沙耶香へスタンガンを突きつけていた。


男たちへ反撃している間に気づけば男たちの溜まり場である廃事務所と着いてしまっていたらしい。


「ったく大人しそうな見た目に騙されてこんな女にのされやがって、使えねぇ奴らだ」

「よ、吉田さん...」


吉田と呼ばれた男は倒れ伏す男たちを見下し悪態をつく。


「だが惜しかったなぁ。ここには大勢俺の仲間がいる。お前の弱点ももう分かった。他人に優し〜い良い子だってことがヨォ」


男は沙耶香の首にスタンガンを突きつける。


その威力を知っている沙耶香は思わず萎縮した声を上げ、楓は思わず舌打ちをしてしまう。


「自分をハメようとしてた女を庇うなんて取んだお人好しだぜ」

「それはどうも」

「皮肉だよ、取んだバカ野郎だぜ。おかげでやりやすいがなぁ...」


男は楓のスマートフォンを取り出すとニヤニヤと笑いながらに操作し始める。


「お前自身を攻撃してもダメージはねぇ。だからお前の家族や友達を攻撃してやるよ」

「...何する気?」


楓が怒気を含んだ声で尋ねる。


「ふーん...この川原透と川原由紀ってーのはオメーの親か。随分と家族仲が良いみてーだなぁククク...」


男は楓のスマートフォンでメッセージアプリを起動し会話の履歴をチェックしていく。


「...」

「おっとぉ、そんな目で睨むなよぉ。えーっと、この石井由愛って奴とも仲が良いみてーだなぁ。友達かぁ?」

「...」

「随分と仲の良い奴らが多いみてぇだなぁ。こいつらにお前が輪姦されてる動画でも送りつけてやろうかなぁ?あっ!何ならグループ作ってよぉ、ビデオ通話で生配信してやろうか?ギャハハハ!」

「...」

「悔しくて声も出ねーか?ククク...。お前みてぇに大切な人間がいる奴は俺みてぇな何も持ってねぇ奴からすりゃあ格好のマトなんだよ。わかるか?」


男は楓のスマートフォンを見せびらかすようにヒラヒラと手元で揺らす。


「このアプリの一番上にある一ノ瀬ってのは誰かな〜?」

「俺だ」

「...ん?????」


男は急に聞こえてきた自分以外の男の声に驚き後ろを振り向く。


振り向くやいなや、


「死ね」

「ぷげらっ!?」


——男の顔面へ仁の渾身の右ストレートが突き刺さった。



「がはっ!?」


仁に殴られた男は車外に引きずり出されそう地面に倒れていた。


「て、テメェは一ノ瀬仁!?」

「気安く俺の名前を呼んでんじゃねぇよカス野郎」

「あぎゃぁ!?」


ポケットに手を突っ込みながら仁は雑に男を蹴り飛ばした。


「バカな!?俺の仲間たちは!?」

「仲間?ひょっとしてアレか?」


仁が倉庫の隅の方を指差した先には仁にボコボコにされた男たちが10数名ほど裸に剥かれ転がっていた。


自転車で楓たちを追いかけた仁たちは自転車の利点を活かし道なき道をショートカットして男たちの溜まり場であるこの廃事務所に先乗りしていたのだ。


あとは管を巻く輩たちを仁たちが一瞬で制圧し、楓たちが来るのを待ち伏せていたのだ。


「お前の女だって知らなかったんだ!!許してくれ!!」


事態を把握し全てを察した男は仁に命乞いをしながら後退りをする。


仁の名前は地元の不良連中の間では有名で、仁に喧嘩を売る奴などいない。


にもかかわらず何故男たちは仁に喧嘩を売るようなことをしてしまったのか?


沙耶香が散々車内で仁の名前を連呼しても男たちが気に留めなかったのはまさか進学校に通うおとなしそうな楓があんな不良オブ不良だった仁の彼女(実際は違うが)だとはつゆにも思わず、他人だと思っていたのだ。


また仁はすでに不良を卒業してすでに1年以上経過しており、その存在を忘れられかけていたというのもある。


「一ノ瀬仁だとぉ!?」

「ヤベェ!逃げるぞ!」


車に残された男たちは一ノ瀬仁が相手だと聞くや否や我先にと車外へ逃げ出していく。


出口へ急ぐ男たちは1人の男が目の前に立っていることに気づく。


男はビニール傘を持っており、自分たちを止めるつもりだと男たちはすぐに理解した。


「どけ!!!」


先頭を走っていた男は道を開けるため男に殴りかかろうする。


「侵掠すること火の如く——」


しかしその拳が正面の男に届くより先に——


「ファイヤァァアアア!!!!!」


男の持っていたビニール傘が風のような速度で男の顔面にクリーンヒットした。


「ぷぎゃあ!?」


眉間を叩かれた男は顔を押さえ地面にうずくまった。


「こいつ、剣道やってんのか!?」

「失せろ」

「ぎゃあ!」


続いてきた男も小手からの面打ちで瞬殺された。


「今日の俺はイライラしてるんだ。これぐらいで済むことに感謝するんだな」

「二階堂くん!」


二階堂は車内から聞こえてくる楓の声に応えるように小さく頷く。


「1人すり抜けて出口に行っちゃったよ!?」

「大丈夫です師匠。——俺たちにはもう1人仲間がいるでしょう?」


二階堂が出口の方を見やると必死に走る男の足元に向かって物陰からスッ、と小さく細い足が伸びた。


それに躓いた男はうぎゃあ!と叫びながら派手に転んだ。


「せ...成敗!」


物陰からひょこっと姿を現したのは朱莉だ。


「朱莉ちゃん!」

「フン」


朱莉の姿に声を上げる楓と腕を組み鼻を鳴らす二階堂。ちなみにこのフンはよくやったのフンだと思われる。


「おう、作戦通りじゃねーか」


そこへ裸にひん剥かれ気絶した運転手の男を引きずった仁も集まってきた。


「ぎゃあああちょっと一ノ瀬くん!野郎を裸にひん剥くのはやめてって言ったじゃん?」


朱莉が目を逸らしながら叫んだ。


「いーじゃねーか別に。写真撮ってあとで脅すのに必要なんだからよ...。うわコイツ胸毛すげぇな」

「揺れてるから!何とは言わないけどナニが!」

「フン。少しは静かにしろ。お前は自転車に乗ってる時もやかましかったしな」

「3ケツで車並みの速度出されたら誰でもそうなるわ!!」

「...ふふっ」


ギャーギャーと騒ぐ3人を見て楓は思わず吹き出してしまう。


「それより楓ちゃん大丈夫!?」

「...スタンガンやられたのか。脚に跡が残ってる」


仁は楓の脚を見て歯軋りした。


楓の細く白い脚には赤い跡が数ヶ所残っていたからだ。


「大丈夫、スタンガンで撃たれたくらいだよ。他には何もされてない。それに私が来なければ皆が何かしら動いてくれるはずって確証もあったしね」

「そっか...。んで、主犯はそこで震えてる奴ってワケか」


車の隅で震える沙耶香を仁が一瞥する。


「あ、わ、私——」

「テメェ覚悟は出来てんだろうな?」

「一ノ瀬くん、ストップ」


ポキポキと指を鳴らす仁を楓が手で制す。


「...アンタ輪姦(まわ)されるとこだったんだぞ?そんな奴を許すってのか?」

「高城さんは私のこと庇ってくれたんだよ。本当はここまで大ごとにする気なんてなかった。それに——」


楓は沙耶香の方をチラリと見やる。


そこには後悔の念が浮かんだ顔で涙を流す沙耶香がいた。


「もう充分彼女は反省してるよ。それで充分でしょ?」

「...まぁ川原さんが良いなら良いけどよ」


仁はやれやれと息を吐いた。


「流石師匠、己に害をなす者ですら許す懐の広さ....流石です」

「いやー、充分報いを受けてると思うけどね...主に一ノ瀬君によって」


朱莉がチラリと裸にひん剥かれた男たちの方へ目をやる。


彼らは仁によってボコボコにされ裸にされた後、全裸の写真を撮られ今後こういうことを続けるなら撮った写真をSNSに上げると脅された。

もはやどちらが悪人かわからないなと朱莉は思った。


「俺がいた頃はこういうことする奴は全員ボコしてたからな。超えたらいけねーラインは超えないようにしてたんだよ」

「警察に通報しなくて良かったね...普通に一ノ瀬君が捕まる側でしょコレ...」


朱莉がやれやれとため息をついた。


「高城さんもほら、涙拭いて」


楓は俯いて泣き続ける沙耶香へハンドタオルを渡した。


「....ありがとう」

「どういたしまして」

「...アンタって本当お人好しね」

「そうかな?」

「そうよ。っていうか大バカだよ、大バカ」

「大バカじゃないよ」


楓はチッチッチ、と人差し指を振った。


「じゃあ何なワケ?」

「...超ド級のバカ」


楓が親指グッとを立てながらそう言うと沙耶香はしばらくポカンとして——そして声を上げて2人して笑った。


加害者と被害者のはずの2人が何故か仲良く笑い合う様を見て、仁と二階堂と朱莉の3人も静かに口元を緩めた。

仁「余の顔を見忘れたか!」

不良たち「仁様!?仁様じゃ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます 楓ちゃん無事(一応)でよかった [気になる点] 楓ちゃんの玉のお肌に跡が付いたのを由愛ちゃんに知られたら、男達が物理的に消えるんじゃないかな~? [一言] 不良た…
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