24 全ては通過点
~前回までのあらすじ~
Raspberryとしての活動は残りあとわずか!果たしてそれぞれはどう動く!?
以下本編!!
「それでは、ただいまからRaspberry引退に関しての記者会見を行います」
(いいアイデア思いついたし早くパソコンの前に帰りたい・・・)
楓は由愛の横に座りカメラのフラッシュの雨にさらされながら、めんどくせーなと内心思っていた。
◇
なぜこのようなことになっているのか。
事の始まりは2ヵ月ほど前に遡る。
「よく考えたらなんで2年で解散するか公式にアナウンスしていないよな?」
というRaspberryのマネージャーである澤村の一言からであった。
2年という期間には一応楓なりの考えがあり、1つは相方でありまだ小学生である由愛をRaspberryの活動で縛ってしまわないため。
もう1つは活動に終わりを始めから設けることでコンテンツの魅力を高めるため、である。
例えば同じ曲を世に出すとしてもRaspberryの活動が終了する、とファンがわかっていてその終わり間際に出すのとこれからもずっと活動していく中でリリースするのでは同じ曲でも重みが変わってくる。
簡単に言えば限定商品として販売することでより商品の価値を高めようとする手法と同じであり、活動初期からお互いの作る曲調が儚い世界観を覚えるものであると感じていた楓は、この手法を取ることでよりRaspberryというグループの世界観が魅力的になると感覚的に感じていたからだ。
その他にも楓自身が常に同じ環境に身を置くことは自身、ひいては周りの人間の成長にもつながらないことなどの個人的な考えもあった。
「確かに当初からスタッフに何故か、という理由は話していましたけど公式の場でそれを言うのを忘れていましたねぇ」
ズズズ、とコーヒーをすすりながら視線を宙に浮かす楓。隣に座っていた由愛に行儀が悪いと組んでいた細く長い足をペチンと叩かれている。
Raspberryの活動期間の間に見てくれはスタイルの良い美少女へと成長した楓であったが仕草は男らしさが抜けないのが残念ではある。そのギャップにやられたファンもいるのだが・・・。
「まぁ誰かさんがインタビュー、記者会見なんかの依頼ぜーんぶ断ってたからね・・・」
「ハハハァ・・・」
Raspberryは長く活動する予定はなく楓と由愛が活動終了後普通の生活に戻れるということに重点を置いた結果、顔を出さずメディアにも露出しないという方針を貫いている。
SNSなどでメンバーの素顔を見せる展開が主流となっている中でRaspberryの取った手法は対極的で、先に述べた2年間という活動期限も相まりRaspberryというグループに幻想的なイメージを与えることに成功した。結果オーライではあるが・・・。
とまぁそういうこともあって楓と由愛が公に姿を現すのはライブの時のみしかなく、今まで一切インタビューなどは受けてこなかったのだ。
「めんどくさいし各種ネット上で理由だけ発表すればいいんじゃないですか?」
「活動当初ならそれでも良かったんだが、Raspberryの人気が思いの他すごすぎる。文字通り子供から高齢の人までに支持されてるんだ。となるとネット上の発表だけでは全てのファンに対して誠実な発表とは言えないんじゃないかな?」
「う~ん・・・」
澤村は楓との付き合いも2年に近づいており、彼女の説得方法もよく心得ていた。何だかんだサービス精神旺盛なのでファンを引き合いに出されると弱いのだ。
そしてRaspberryのファン層は、彼女たちが考える以上に広く、そして大きくなった。
露出もなく、しかも楽曲は全てボーカルが一切入っていないインスト楽曲なので一般的なアイドルグループ等の様な規模のファンはつかないだろう、と自身も周囲も思っていたのだが売り出し方や、楓と由愛がまだ少女だったこと、楽曲が素晴らしかったことも相まって気づけば数々の有名なチャートにインスト楽曲で食い込むというモンスターグループへと変貌していた。
彼女たちの影響でギターやキーボードを始める人が老若男女問わず爆発的に増え、2人が使っている機材などは飛ぶように売れたという。
「僕は普通に記者会見をやるのが一番いいかなと思うけど、どうだろうか」
「まぁ妥当ですかねぇ・・・由愛はどう思う?要は記者会見をすればテレビとか雑誌の記者さんがくるから世の中の言う大抵のメディアにはリーチできるけど」
楓と由愛の間に発言権の偏りはなくフィフティフィフティである。が前世の経験を含めて楓の方が圧倒的に経験値があるため本当の意味では平等といえないのだが、楓は今みたいに必ず由愛にも分かりやすくかみ砕いて説明をした上でどうするか必ず相談してくれる。子供はそういった所をよく見ているものだ。
「大事なことだし、しっかり言っておけば勝手な推測があちこちで上がったりって言う可能性も無くなるんじゃないかな」
「なるほどぉ」
「確かに、鋭い指摘だね」
由愛の答えを聞いた楓と澤村は流石だなと息を吐く。
由愛はかしこい。なんか阿呆そうな文章だが、彼女が11歳という年齢以上に聡明であったからこそRaspberryとして上手く活動してこれたことは間違いないだろう。本来中学3年生と小学5年生の子に記者会見など任せないが、この2人だからこその澤村の提案であった。
「じゃあ手配しておくね」
「オッケーです」
「お願いします」
と、そんなこんなで記者会見の予定が組まれたのだが―――
◇
(いや大分前の話だしすっかり失念してたわ)
沢山のカメラを見て有名人ってこんな感じなんだなぁ、と思いつつ司会者が記者たちへ注意事項を説明するのをボーっと聞き流す。
「それではRaspberryを代表してギター担当の楓さんから挨拶が御座います。楓さん宜しくお願い致します」
打ち合わせ通り司会者から説明を促され、楓は軽くマイクのチェックをし、話し始めた。
◇
ソルダーノレコーズはどちらかというとプロダクション系のレコード会社、簡単に言えば音楽制作部門からアーティストのマネジメントの部署までぜーんぶ入ってるよという組織だ。
そこにタレントとして所属する西山は同じ会社ということで今Raspberryの解散(?)記者会見に司会として立っている。
(本当に大丈夫なのか・・・?)
会見の主役である少女2人は15歳と11歳。そんな少女2人に任せきりということは難しいだろうし、その為のフォローも兼ねて呼ばれたのかな、と思っていた西山は若干緊張の面持ちで解散の理由について話す楓を見つめていた。
「――以上がRaspberryの活動を2年と区切った理由になります」
そんな西山の心配を他所に、楓は要点をまとめ分かりやすく聴こえやすい声で内容を説明して見せる。
(――おっと、質疑応答か)
楓があまりにもサラッと終わらせてしまったので若干呆けていた西山は楓がチラリとこちらへ視線を向けてきたことで我に返る。
「それでは質疑応答に移りたいと思います。質問のある方は――」
西山は定型的な注意事項を読み上げる。その間にもカメラがシャッターを切る音が鳴り響く。とはいっても顔を映すことは禁じられているのでそんなにパシャパシャ取る必要はあるのかなと内心思わないでもない西山であった。
「それではそちらの、一番左の方どうぞ」
指名された記者は所属と名前を名乗り、質問をする。
「Raspberryが解散した後の御二人のやりたいことというか、何か進路などはあるのでしょうか?」
「そうですね。今のところは――」
際どい質問などもなく、よくある質問が飛び交い西山が内心ホッとしていると
「お2人の活動の裏側はあまり公にされませんが、中にはこれ程のレベルの楽曲やミュージックビデオを中学生と小学生の少女が作れるというのは信じがたい、ゴーストライターがいるのでは、という意見もネット上ではありますがこちらの点については如何でしょうか」
(あー、来たか)
どんな会見でも必ず質問される側を試すような、そんな質問をする記者はいる。それをどう捌くかは完全に答える人間のセンス次第だ。
しかし西山はその質問を聞いた瞬間ニヤリ、と笑う楓をしかと見た。その笑みはまるで相手が面白い1手を指してきた時の棋士のような笑みだった。
「回答としては私と由愛の2人で制作している、とも言えますし無数の人が関わっているとも言えます」
「・・・というのはどういうことでしょう。協力者が大勢いるということですか?」
楓はニコッと笑ってそうですねぇ、と説明を始める。
「例えばですが、私が作業で使っているコンピューター1つ取っても多くの部品が使われております。例えば本体のケースは樹脂でできていますが作るのには大型の射出成型機がいるでしょう。内部の細かいパーツ類も、例えば金属類であれば金型プレスの会社がプレスで作っていると思います。ギターもそうですし、3Dのデータを作るのに必要なソフトの開発者がいなければ私は3DCGを作ることはできないでしょう。ライブをする際には機材や資材を運ぶトラックを使いますがそれを運転する人、それを作り整備してる人がいなければ大規模なライブはできません。そして私たちの活動にお金を払ってくれるファンの人たちがいることでようやく私たちの活動が実現できていると思っています。なので回答と致しましては私たちの作品はゴーストライターなどはいませんが多くの人たちと共に作っていると常に思っています。」
以上で大丈夫でしょうか?と笑顔で記者に尋ねる楓を見て西山は密かに戦慄していた。
(ほ、本当にこの少女は15歳なのか!?)
あまりに完璧な回答だったので西山は仕込みなのかと思ったが目を見張り驚愕しながらありがとうございました、とお礼を言う記者を見て今の回答は少女が導き出したものなのだと確信した。
まるで格下だと油断し舐めたパンチを繰り出したら鮮やかすぎるカウンターを貰い一瞬でKOされたボクサーのような、そんな光景が西山には重なって見えた。
様々な人の支えがあり自分があるという答えに加えファンのこともしっかりと見つめた回答。そして一見クエスチョンマークが浮かぶような結論から記者を困惑させた瞬間に一気に本題を畳みかける話の組み方。質問した女性記者は完全に15歳の少女に手の平で転がされていた。
しかしそれでいて質問した記者自身は決して非難していない。見る人が見れば「この程度の質問してくるやつなどいつでも手の平で転がせるぞ」と暗に実践して見せ、分からなくてもこの子は他人への感謝をしっかりする子なんだな、と見る人に思わせる。間違いなく最善種に限りなく近い回答だろう。
しかしこれだけだと回答が優等生すぎて角が立ってしまう・・・のだがそこも最後の笑顔でバッチリ緩和されている。
真面目な回答をしている時は冷たさすら感じる程だったがありがとうございました、と記者に言う彼女の笑顔は会場の全員の表情筋を緩めてしまう様な魅力があった。
その後もいくつか楓を出し抜いてやろうといった意図の質問が飛び出したがどれも楓の手の平で遊ばれむしろRaspberryのイメージアップに利用されるという有様であった。
そんな中、いかにも噂好きそうな高齢の女性記者から質問が飛ぶ。
「お2人は彼氏などはいるのでしょうか?もしくは気になっている男の子というか――」
2人は参ったな―、というような感じで笑いつつ、楓がまずは口を開く。
「今のところは創作活動が恋人、ということでお願いします」
安牌な回答をしながら照れくさそうにそういう楓に会場から笑いが漏れる。どいつもこいつも完全に楓のファンになっているのであった。本人はその気が無いのが恐ろしい。
「由愛さんはどうでしょう?」
楓の答えを聞いた記者が由愛にも回答を促す。
「そうですね、私は――」
さーて一息つくか、と由愛が回答している間に楓がペットボトルの水を口に含んでいると――
「楓姉ぇを超える人が出るまでは、異性の方とは付き合わないと思います!」
「ドログヴォッ!?」
由愛の衝撃回答に飲んだ水を思いっきり吹き出し咳き込む楓。
「と、と言いますとお2人はそういう関係・・・!?」
「違うわ!!!ほら由愛からも――」
「はい、私にとってすごく大切な人です」
「コラー!!!いやね?何もおかしくは無いんだけどね由愛?今ここでその言い方はだいぶ語弊が――」
「必死に反論するということはやはり――」
「ハイ終わり!!この質問終わりね!西山さんハイ次行って!!」
「えぇ・・・(困惑)」
このまま楓の完全試合かと思っていたが、最後の最後で台無しなのであった。
ちなみにこの会見は全国ネットで放送、各種動画サイトで生放送されていたのだがこのシーンが切り抜かれ各種SNSで大いにバズり、結果的にRaspberryは更に知名度を上げるのであった。結婚おめでとうという祝福のコメントともに・・・
◇
Raspberryとしての最後のライブを控えた夜、由愛は両親と一緒にバラエティ番組を見ていた。
すっかり多忙になってしまった由愛だが、家族3人で集まれるときはなるべく一家団欒で一緒の時間を過ごすようにしていた。
知名度に対して言えば由愛は拘束時間がかなり短いだろう。それもこれも「小学生が出来るのは今だけだから!!音楽活動なんかいくつになってもできらぁ!」となるべく最低限の仕事しか入れない楓の活動方針の賜物であったが。
なので由愛にとっては家族だけでテレビを眺めながら笑い合ったりするのはいつもの日常だった。
しかし由愛は解散前日の今日までずっと悩んでいることがあった。
(解散・・・)
それはRaspberryが解散するという事実。
Raspberryがソルダーノレコーズに所属する時から楓に言われていたことだし、その理由を聞いて納得し、承諾したのは自分だ。しかし解散の時期が近づくにつれて自分の中で何かが違うのではないかという違和感が定期的に由愛の心をノックする。
「・・・何か悩みでもあるの?」
気付けば2人に見つめられていることに気付いた由愛は罰が悪そうに「バレてた?」と笑う。
「本当のことを言えば、ここ最近ずーっと悩んでることにパパもママも気付いていたぞ」
「でも由愛が自分で言うまでは待ってみようって、お父さんと2人で決めてたの。でも流石に解散前日まで悩んでたらほっとけなくてね・・・解散のことなんでしょう?」
両親である佳宏と佳織が由愛に尋ねる。
「・・・やっぱりわかる?」
「そりゃあね」
「やっぱり愛しの人と離れるのは寂しい?」
「愛しの人って!も、もう!」
すっかり例の会見をネタにされ、照れ隠しに怒る由愛。
ちなみに楓は佳宏と佳織からも絶大な信頼を寄せられている。由愛がピアノをやめようと悩んでいた時には他人の子なのにバカ真面目に由愛の将来について悩んでいたし、Raspberryとして大きなことを決める時は楓は必ず事務所の人間を連れて佳宏と佳織にも説明に来るのだ。そしてなぜそれをやるのか、その結果どのようなリスクが由愛にあるのか、ということを誠実に伝える。社会人の中でもここまで誠実に対応する人間は珍しいくらいだと2人は思っていた。
従って親子公認の仲というわけである。深い意味はない。
「・・・本音を言えば解散したくない」
「うん」
「でも楓姉ぇの言うこともすごくよくわかる・・・一緒に過ごしてきたからわかっちゃうの。楓姉ぇはすごく自分を厳しいから、常に成長できる場所にいようとするの。楽な道は絶対に選ばない。わかっちゃうから余計苦しいの・・・」
楓は自分が望めば解散を撤回してくれることも由愛には分かっていた。由愛がそう望めばきっと楓は笑顔でそれを受け入れ、各方面に自ら頭を下げて回ることだろう。
楓の考えがわかり、しかも解散は自分次第では取り消すことが出来るという選択肢を由愛が持っているということが、却って由愛を悩ませる。
しばらく沈黙が続いた。それを破ったのは父である佳宏だった。
「じゃあ解散しなければいいんじゃないか?」
「えっ?」
佳宏の発言に、何を言っているんだこの父はという表情を由愛が見せる。
「ほら、よくバンドでもあるだろう?活動休止って」
「あっ――」
「確かに楓ちゃんも今年が受験の年だろうし、活動自体は現実的な意味でも難しいかもしれない。でも、活動休止なら別にいいんじゃないか?」
「要はキープってことね♪」
佳織が佳宏の言葉を要約する。
「そっか・・・!うん、そうだね!」
ありがとうパパ、ママ!と笑顔で言う愛娘を見て、佳宏と佳織は幸せそうに笑った。
◇
「いよいよ明日で終わりですねぇ」
「そうだね」
由愛を自宅まで送り届けた帰り、澤村は楓を乗せて車で楓の家に向かっていた。
「終わったら澤村さんは何するんですか?」
後部座席から窓の外を眺めながら楓は澤村にそう尋ねた。
「まぁとりあえず今抱えてる他のアーティストのマネージメントがあるからなぁ」
「なるほど」
間延びした返事をよこす楓。
「そうじゃないって?」
「まぁ」
「ごめんて。でも流石に楓と由愛を超える逸材にはそうそう出会えそうもないからなぁ」
澤村の言葉に楓はくっくっくと笑う。
澤村にとってRaspberryの残した壁は恐ろしく分厚い。奇跡的に楓のような人物を見つけてもまた同じようなことにはならないと思っている。
Raspberryが上手く行った理由は楓の相方が由愛だったからだ。
楓の才能は凄まじい。しかも守備範囲が圧倒的に広い。つまり中途半端に才能がある人間と組ませても相手を潰してしまう可能性が高い。優秀な選手をかき集めたからと言って強いチームが出来るわけではないのと似ている。
由愛はその点で言えば恐ろしく相性の良い相手だった。
まず、楓とは音楽のスタイルが違った。感情だけで突っ走る感覚派の楓に対して理論派の由愛。
楓と年が離れており、あくまで姉妹の様にお互いを思い合えたこと。そして非常に素直で真っ直ぐな性格だったこと。そして大人しそうな見た目に反して楓に負けない負けん気を持っていること。
こんな奇跡のようなことがまた起こせるかは天文学的な確率の低さだと澤村は思う。
それらを全て分かっているからこそ楓は笑ったのだ――さぞ大変だろうな、と。
「まぁ楽しみに待っときますよ」
「おう、心して待っとけ。・・・まぁ、とりあえずは明日を乗り越えることだけどな」
「おっしゃるとおりで。よし」
楓の家に到着し、楓は車から降りる。
「それじゃあ明日は頼みますよ」
「おうともよ」
そう言うと楓は拳を澤村に突き出す。
「背中は任せましたよ、相棒」
「お任せを」
2人は夜の静寂の中、拳をぶつけ合った。
前の話から1年経ちかけてました スイマセン()
楓ちゃんのお話はまだ割と続きます!




