これはデートじゃないよな
お昼少し前の11時、俺は都心部の駅のホームで待ち合わせの相手が来るのを待っていた。
「次の電車あたりだろうな」
今日の俺は、黒のスリムパンツにパーカー、髪型も一応ちょっと整えてある。
駅のホームに降りてくる女子がチラ見していくくらいは、悪くない見てくれだと自負している。
やがて駅に電車が入ってくる。
ぞろぞろと降りてくる乗客たち。
「探すまでもないわな」
そんな乗客の中、1箇所だけ変に周りに人がいないところがある。
黒のミニスカートにレースのトップス。髪は編み込んでハーフアップにしてあり、綺麗なデコルテに視線が集まっている。
学校ではほぼ化粧はしてないが、今日はうっすらと化粧もして、愁いを帯びた笑みが更に美しさを際立たせている。
周りの男性のみならず、女性からもほぅと溜息がもれる。
「おまたせしたかしら?」
「まあぼちぼちな、てか、お前目立ちすぎだろ?周りがむしろ引いてるぞ」
「そう?いつも通りだと思うけど」
やれやれ、俺は首を振り立ち上がって言葉にいう。
「まぁいい。でどこに行きたい?映画観るなら昼からだからそれまでぶらぶらするか?」
「あなたに任せるわ。でも強いて言えば甘いもの●●●改行不要●●●
が食べたいかしら」
「そうか、ならちょっと何か食べにいくか」
俺と言葉は、並んでホームを降り駅から街に出て行く。
相変わらずの人の多さだな。ここは。
お昼少し前にもかかわらず結構な人の多さだ。
さてと、どこに連れて行ってやるか。
「なぁ甘いものってどっちがいい?洋か?和か?」
「どちかと言えば洋かしら」
「なら、いいところがある、行くぞ」
そう言って俺は言葉の手をとる。
「あら?手、繋ぐの?」
「いやか?お前迷子になりそうだろ?」
「あのね・・・まぁいいわ」
言葉はすんなりと俺の手に指を絡める。俗に言う恋人繋ぎだ。
「どうかした?」
「いや・・なんでもない」
こいつ、わざとじゃないんだよな?一瞬ドキッとしてしまった。
俺たちは、雑踏をかき分けて少し路地に入ったところにある、隠れ家的な喫茶店に入る。
「いらっしゃいませ、お2人様ですか?こちらへどうぞ」
案内された席は、ちょっとした個室風でゆっくりと落ち着ける洒落たスペースだった。
「へぇ、こんな店、よく知ってたわね?」
「そりゃあな、この辺りは地元だからな」
「そういえばあなた、他所から来たって言ってたわね」
メニューに目を落としたまま言葉がいう。
「ああ、この辺りは通学の時に歩いてたからな。結構詳しいぞ」
「ふ〜ん」
言葉の興味は、どれにするかの方に集中してるみたいだ。
俺は、コーヒーとサンドイッチを、言葉はアールグレイとフルーツパフェを頼んだ。
「お前、甘いもの好きなのか?」
「辛いよりは好きね。美味しいってことは分かるから」
「ああ、なるほど」
感情がないっていっても、美味いや不味いはわかるんだものな。
「おまたせいたしました」
頼んだものが来て俺たちはそれぞれに食べ始める。
「どうだ?美味いだろ?」
「ええ、美味しいわ。とてもね」
相変わらずの無表情で言葉はいう。
「美味いって顔じゃないよな」
「そう?じゃあこんな、感じかしら」
言葉は、パフェを食べながら嬉しそうな顔を作って俺を見る。
「はは、言われてからやられると違和感したないな」
「いちいちうるさいわね。美味しいからいいじゃない」
それも、そうか。俺はコーヒーを啜りながら言葉を眺める。
「何?」
「何でも」
「欲しいの?」
「くれるのか?」
言葉は少し考えて、スプーンで生クリームのあたりをすくって俺の口元に持ってくる。
「はい」
「は?」
「欲しいんでしょ?はい」
「んん、さんきゅ」
俺は差し出されたスプーンをぱくりとふくむ。
「うん、甘いな」
「当たり前じゃない」
やってることは恋人同士のようなものだが、俺たちの会話には甘さを感じない。
胸の辺りが、少しだけザワリとする。
「あ〜んってしても特に何もないわね」
「何だって?」
「何でもないわ」
言葉が何か呟いたが聞き取れなかった。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「それは何よりだ」
俺たちは喫茶店を出て次は映画を観に行くことにする。
自然と言葉は俺の手に指を絡めてくる。
「ねぇ?」
「うん?」
「世の中の恋人達はこれが嬉しいの?」
言葉は繋いだ手を上げてまじまじと見つめる。
「そうだろうな」
「あなたは?」
「さあ?お前は?」
「わからないわ、でも・・・」
「でも?」
「ううん、やっぱりわからないわね」
「なんだそりゃ」
繋いだ手は暖かったが、俺も言葉も心はそれほどでもないらしい。
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