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終業式のそのあとで


無事に終業式も終わり明日からは待ちに待った夏休みだ。

部活がある連中はともかく帰宅部としては遊ぶかバイトかの二択しかない。

八月の盆明けから一週間くらいミドリンの別荘に行く予定なのでそれまではバイト三昧の日々になる。


そんな終業式終わりの放課後、俺はいつも通り屋上の鉄塔にきていた。


「お前は夏休みどうするんだ?」

「特に何もないわね」

「ああ、すまん、ボッチだったな」

「失礼ね、アリサと出かける予定くらいはあるわよ」

7月の陽射しは強いが鉄塔の上はちょうどいい風が吹いていて気持ちがいい。

言葉の長い黒髪が風に揺られ思わずその横顔に見とれそうになる。


「どうかしたかしら?」

「ああ、いや綺麗な髪だと思ってな」

「そう?ありがとう」

いつものように言葉は何でもないように返事をする。


「アリサと出かけるんですって?」

「なんだ?もう聞いたのか?」

「だって嬉しそうに話してくるんですもの」

「ははは、アリサらしいな」

「・・・アリサの事、好きになるんじゃない?」

「はぁ?ないない。なんでそう思うんだ?」

「あの子って普段はあんな感じだけど、素のあの子は可愛いと思わない?」

「う〜ん、そうだな。ギャップはあるわな」

アリサは見た目だけならキリッとした美人だ。ロングの黒髪にキツめな顔立ちとメガネ、若干話しかけずらい雰囲気すらある。

実際のアリサは、ドMの残念さんだから知ってるこちらにしてみればギャップが半端ない。


「でしょう?ああいうところは私からすれば羨ましくもあるわね」

「そうなのか?」

「ええ」

「ならお前も同じだろ?」

「私が?」

「ああ、俺といるときのお前は作ってるお前じゃなくて素の柊言葉だろ?そういうことだ」

「私は別に可愛いくもないわよ」

「俺はそれでいいと思ってるぞ、無理せずにそのままのお前でいいってな」

「・・・口説いてる?」

「んな訳ねーだろ」

鉄塔に吹く風が言葉の髪をサラサラと流してゆく。

髪を細くしなやかな指でかきあげて言葉が小さく呟いた。

「少しだけいいかしら?」

「何だ?」

「うん、何て言ったらいいのかしら?」

言葉は俺の肩に頭をあてて俯いて続ける。


「ちょっとだけ泣いてもいいかしら?」

「ああ」

今まで感情がなかった分なのか言葉は2人でいるときにはこうしてたまに泣くようになった。

それは本当に悲しいのか、悲しいという感情を確かめているのかはわからないが俺はそれでいいと思っている。


地面に小さく涙のあとができる。

言葉はしばらくの間、静かに泣いていた。


「ありがとう。もう大丈夫よ」

「そうか」

言葉を撫でてやり俺は何もなかったように返事をする。

「これって私、好きよ」

「撫でられるのがか?」

「ええ、気持ちが落ち着くのよね。多分きっとそれって"好き"ってことじゃない?」

「そうかもしれないな」

言葉は撫でられながら目を閉じて何かを感じようとしているようだった。


「ねぇ」

「ん?」

「・・・ごめんなさい、なんでもないわ」

「なんだ?おかしなヤツだな」

撫でていた俺の手を握った言葉は何か言いたげな表情を浮かべていた。


「お前・・・」

「他の人に・・・アリサにはしないわよね?」

「・・・言葉?」

「しない・・・でね」

言葉はなんと表現したらいいのかわからないような顔でそう言った。それはまるで捨てられるのを恐がる子犬のような。

自分でもわからないのだろう。泣きたいような笑いたいようなそんな表情。


「心配するな。お前だけだ」

「・・・ありがとう」

「そんな顔も出来るようになったんだな」

「私どんな顔してるの?」

「そうだな・・・ひどい顔だ」

「・・・失礼ね?」

多分この言葉の顔は作ったものじゃないんだろう。

失礼ねと言って俺を見た言葉の顔には確かに薄っすらと笑みを浮かべていた。

作った笑顔なら山ほどみてきた、そのどれとも違う微かな笑み。


そうか、いつか感じた違和感の正体はこれか。

言葉は自然に笑えるようになりつつあるけれどそれは楽しいとか嬉しいとかじゃなくて、悲しくなくてよかった(・・・・・・・・・・)から笑っているんだ。

悲しみの裏返しの笑顔とはまた皮肉なものだが、いずれにせよちょっとした進歩だろう。


「どうしたの?難しい顔して」

「ああ、何でもない」

そう言った言葉はもういつもの無表情に戻っていた。


「私変なこと言ったわよね?ごめんなさい」

「気にしなくていいぞ、俺もまぁその・・・不用心だったしな」

「?」

「とにかく気にすんなってことだ」


そんないつもとは少しだけ違う放課後を俺たち日が暮れるまで鉄塔で過ごした。








お読み頂きありがとうございます(//∇//)

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