戸惑いと違和感
学校もそろそろ夏休みに近づいてきて回りのみんなは夏休みの計画を立て始める頃。
例によって昼休みに食堂で昼メシを食べている俺たち。
「ミントは夏休みどうするの?」
「う〜ん俺はバイトかな?とりたてて予定も無いしな」
実際本当に何の予定もない。休みに入ったら言葉がうちに来るのかもわからないしな。
「そ、それなら私と遊びに行きましょう!ねっ?ねっ?」
「ちょっと待ったあぁぁ〜〜!嶺岸くん!僕というものがありながら他の男子を誘うとは僕は悲しいよ〜〜!」
「勝手に悲しんでなさい!」
「ははは、お前ら2人で行ってこいよ」
「いやよ!」
「ナイスアイデアだ!流石はミントくんだ!」
はぁコイツらの相手は疲れるわ。
「ミドリンは予定ないんだ?」
「沙織くん。僕の予定は分刻みのスケジュールが組まれているのさ!」
「・・・遊びに行けないじゃん?」
「ははは、予定は常に未定なのだよ!」
「あんたバカでしょ?」
沙織とミドリンはいいコンビだよな。
駿が殺意のこもった目で睨んでるけど見なかったことにしておこう。
「姉さんは夏期講習と学校の補習、それに課題をキッチリとして頂きます」
「詩織〜〜」
するとミドリンがみんなを見渡して言い出した。
「もし良ければ君達を僕の別荘に招待しようか?」
「あんたんち別荘なんかあるの?もしかしてお金持ち?」
「of course!君達庶民とは住んでいる世界が違うのだよ!」
「私行かない」
「僕も」
「私も」
「わたしも」
「俺もだ」
「ごめんなさい。お願いします。お暇でしたら何卒」
ははは、ホント変なヤツだな。
「プライドないわけ?」
「今日は家に置いてきたのさ!」
実際のところミドリンの家は本当に金持ちらしい。いくつもの不動産を持っていてかなりの資産家だそうだ。
「ねぇちょっと」
「ん?なんだ?」
アリサが俺に耳打ちしてくる。
「あの子はどうするのよ?」
「言葉か?さあ?帰ったら聞いてみるけど、どうするんだろうな」
「あんたねぇ、その辺しっかりしときなさいよ」
「おっ何だ?応援してくれるのか?」
「違うわよ。言葉は友達だからよ」
アリサはアリサで言葉のことを気にかけてくれているし、どうしたものかな?
コイツらに紹介するわけにもいかないし。
そんなことを考えていたらちょうどいい案が浮かんだ。
「アリサ後で話があるからちょっといいか?」
「何か名案でも浮かんだの?」
「まぁそんなとこだ」
「ミントくん!嶺岸くん!イチャイチャするなら他所でしてくれたまえ!僕が悲しい!」
「知らんわ!」
正直なところミドリンがいるおかげで注目を一人で集めてくれるので色々助かっている。
なんだかんだでいいヤツなんだよな、コイツ。
アリサと沙織にダメ出しされているミドリンを見つつ俺は言葉を誘う作戦を考えていた。
「・・・そういうわけね」
「ああ、だからアリサが言葉を誘ってくれればみんなで行けるだろ?」
「別に構わないけど一応ライバルなんだけど言葉は」
「友達だろ?」
「そ、それはそうだけど・・・仕方ないわね」
「助かるよ」
「そのかわりミント!一日私とデ、デ、デートしましょう!」
「いいぞ、それくらいなら」
「いいの!?」
「ああ、どうせ予定もないからな。アリサの都合のいい日でいいぞ」
「・・・ミントとデート・・・むふふ」
アリサはだらしない笑みを浮かべて足取り軽やかに教室に帰っていった。
大丈夫かな?俺。
「というわけでアリサが誘うからどうだ?」
「いいわよ。私は」
「そうか、なら日にちはミドリンに聞いとくな」
俺の部屋で言葉が作った焼うどんを食べながら食堂での話をする。
「すっかり仲良くなったのね、あなたたち」
「そうだな、アイツはアイツでいいヤツだしな」
「ふ〜ん、楽しそうね」
フォークでうどんを巻いて俺に差し出しながら言葉がちょっと不満そうに言う。
「あれ?お前、なんか今不満そうだったぞ?」
「そうかしら?」
「ああ」
俺もうどんを言葉に食べさせて聞き返す。
「そうなの、何かしら?この辺りが何だかもやもやして気持ち悪いの」
言葉は胸の辺りに手をやって眉をひそめる。
「ほら、今、眉ひそめただろ?」
「えっ?そう?」
「ああ」
言葉は自分では気がついていないのか?
不満に思ったり眉をひそめたりって何だろうな?悲しいんじゃないよな。
どっちかっていうと怒りとかイラっとするみたいな感じか?
俺は言葉に思ったことを説明してやる。
「イラっとする?ちょっとわからないわね」
「違うか?」
「もっとこう、何て言ったらいいのかしら?」
「う〜ん、でも何かの感情なんだよな。それって」
「あなたの言う分類では"怒"に分類されるのかしら?」
「わからんけど大体そんなところだと思うけどな」
「何だかちょっとパッとしないわね。悲しいのほうがよっぽどマシだわ」
言葉はイマイチ釈然としないようでフォークでうどんをクルクル回している。
「まぁその内わかるだろうよ」
「いい加減ね、いつも」
「それぐらいの方がいいだろ?」
俺はデザートを取りに行くついでに言葉の頭を撫でてやる。
「ねぇ」
「ん?どうした?」
「それ・・・さっきのもう少ししてくれないかしら?」
「撫でてほしいのか?」
「・・・ええ」
俯いて頭をこちらに傾けてくる言葉を俺は胸で受けとめて撫でてやった。
サラサラの髪が心地よくフワリといい香りが鼻腔をくすぐる。
ちょっとマズイよな。これって。
言葉はじっと俺に撫でられている。
自分でも少なからずドキドキしているのがわかる。
「ありがと」
言葉はそう言って顔を上げて撫でていた俺の手を両手で大事そうに包んだ。
「ど、どいたしたんだ?」
思わずどもってしまう。
包んだ手を見つめて言葉は何事もなかったように微笑んだ。
「なんでもないわ。・・・なんでもないの」
「おお、そ、そうか」
俺はちょっと慌ててデザートを取りにキッチンにいく。
何事もなかった。何事もなかったんだ。
その後いつものようにデザートを食べて言葉は帰っていった。
言葉の帰ったあと、俺は自分の手を見ながら心の中にある違和感について考えていた。
それが何なのかは分からなかったのだけど。
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