眠都と言葉という存在
よろしくお願いしますm(_ _)m
大藤大附属、それが俺、一之瀬眠都が通うことになった高校だ。
県内では最大規模を誇り、中学高校だけでも5000人を超えているマンモス校だ。
俺は1年11組。理系の進学クラスになっている。
クラス訳は、1〜8組が文系、9〜16組が理系、17、18組は専門と別れている。
俺は張り出されているクラス分けを1組から順番に見ていた。
柊言葉、1組か。
基本的に文系クラスと理系クラスは校舎自体が別棟なので3年間一度も会わないなんてことも珍しくないらしい。
「はぁ、文系にしといたら良かったな」
後の祭りとはこのことか。仕方ない、同じ学校だしいずれ会うこともあるだろう。
俺は気をとりなおして自分のクラスへと足を向けた。
ホームルームが終わり教室内はガヤガヤと賑やかだ。
中学の時から知り合いのものもいるらしく、楽しそうだ。
「君は、どこの中学だったんだい?」
そう声をかけてきたのは隣の席になった男子だった。
「あ〜俺は、中学この辺じゃなかったから多分しらないと思うぞ」
「そっか。僕は三宮駿悟。駿て呼んでくれたらいいよ。隣の席だしよろしくね」
「俺は、一之瀬眠都。ミントでいい。」
「へ〜ミントって変わった名前だね。キラキラネームってやつだね」
「ああ、母さんの趣味だな」
変わった名前ではあるが別に嫌いでもないので問題ない。
「あれ、駿じゃない?あんたもここだったの?」
「えっ?沙織ちゃんに詩織ちゃん?」
どうやら駿の知り合いみたいなのだが、全く同じ顔が2人並んでいる。双子か?
「お久しぶりです。駿君」
「そっか、2人共同じクラスだったんだね。気がつかなかったよ。ごめんね」
「それは別にいいけど、あんたよくここ通ったわね?結構難関よ、ここ」
「あはは、沙織ちゃんに言われたくないなぁ」
「うぐっ」
おおっ駿て、案外笑顔で毒吐くタイプなのな。
「姉さんは、ギリギリでしたものね」
「詩織・・・あんたまで」
「ところで駿君、こちらの方はお友達ですか?」
「あっ、ごめんね。うん、隣の席になった一之瀬眠都君。こっちは僕の幼馴染で仁科沙織ちゃんに詩織ちゃん。見ての通り双子だね」
「よろしく、一之瀬眠都だ。ミントでいい」
この後、お決まりの変わった名前の話になり、この日は解散ということになった。
「しかし、広い学校だな」
俺は帰りの廊下を歩きながら窓から外を眺める。
見える範囲の校舎だけでも4棟。そのどれもがちょっとしたビルくらいのサイズがある。
3年間一度も会わないってのがわかる気がする。
せっかくなので校舎を見て回ることにした。
各校舎は渡り廊下で繋がっているのだが途中で交差していたり階段があったりとで正直あまり利用されていないらしい。
俺はとりあえず屋上に出てみる。
屋上は、芝生の広場のようになっていてお昼の時間には混雑するみたいだ。
「へ〜ちょっとした公園よりはるかに広いよな」
俺は屋上を見て回る。
「これは何だろ?」
それは、屋上の一番奥にあった鉄塔のような建物だった。
高さは結構あり上から見る景色はきっとすごいだろう。
「これって登れるのか?」
ぐるりと周りを回ってみると入り口らしき扉が反対側についていた。
あれ?開いてる。
そっと中を覗くとそこそこ広い部屋に螺旋階段がついている。好奇心に勝るものなし。
俺は階段を上がっていった。
「よっと、ここが、最上階だな」
そこは展望台のようになっており街から海までが一望できた。
「これは……すごいな……」
夕陽が海を紅く染めて街を包み込んでいるみたいだ。
「どう?綺麗でしょ?」
ふいに声をかけられ俺は驚いて振り向く。
「柊……言葉……さん?」
展望台の端に座って街を見ていたのは忘れもしないあの柊言葉だった。
「あら?私を知っているの?どこかで会った?」
「あっ、いや。ほら新入生代表をしてたから」
「ああ、そうね。別にどうでもいいわ、あんなもの」
そう言って彼女は再び夕焼けの街に向き直る。
俺はそんな彼女の側で同じ景色を見ていた。
「ねぇ、あなた名前は?」
彼女が街を見つめたままで呟く。
「俺は一之瀬眠都。ミントでいい」
「ミント?変わった名前ね、私も人のことは言えないけど」
「お互いさまだな」
僕達は再び黙り込んで街を見つめる。
どれくらいそうしていただろうか。
短い様で、それなりに長い時間そうしていたかもしれない。
「ねぇ、ミント。ここから見る景色って綺麗なの?」
「は?綺麗だろ?何で?」
俺には彼女の言ってる意味がわからなかった。
「綺麗……それって何なのかしら?」
彼女は変わらず街を見つめていう。
「綺麗だ、美しい、感動した。……私にはわからない」
「どういうことだ?」
「私は……」
彼女はそう言って俺を見て、あの夏祭りの日に見たような笑顔でこう言った。
「私には、感情がないの」
「は?でも今笑ってるだろ?」
確かに彼女は笑っている。それも男なら誰しもが吸い込まれてしまいそうな飛切りの笑顔で。
「これはね、笑った顔を作っているの。嬉しそうな顔や嬉しそうな声を真似しているだけなの」
彼女は、笑顔のままで哀しそうに言った。
「どういう意味だ?」
「聞いたままよ。簡単に言えば喜怒哀楽、私には何もない。こんな景色を見ても美しいと感じることもないのよ」
「…………」
それが本当なら、それってまるで機械みたいじゃないか。この子は今まで楽しいことも哀しことも全部作った表情でこなしてきただけなのか?
「たとえば、そうね……たとえば。この細い手摺の上に乗って目を閉じる。きっと普通は怖いという感情があるからできないの」
そういうと彼女は、展望台の手摺の上に軽々と立った。
「おい! 落ちたら死ぬぞ!」
「ええ、そうね。でもその恐怖さえも私にはわからない。何も感じない」
彼女はそうして目を閉じて両手を広げた。
まるで空に羽ばたこうとする天使のように。
「あぶない!!」
風が横薙ぎに吹いてバランスを崩しても彼女に一切の動揺はなかった。
俺は、咄嗟に彼女を抱きかかえて手摺からおろす。
「お前! 死ぬ気か!」
だが彼女は俺の腕の中で、震えもせずにあの笑顔で言い放った。
「死ぬって何?」
「っ〜〜!」
俺は思わず彼女を強く抱きしめた。力を入れれば折れてしまいそうな華奢な身体。
「どうかした?」
「もういい。なら俺がお前に教えてやるよ。楽しいことも嬉しいことも。哀しいことや怒りだってな。絶対に教えてやる!!」
「ミント?あなたが?」
「ああ、絶対にだ。だからあんなことはするんじゃない!」
彼女は目を見開いて俺を見ていた。
「驚いた顔はこれであってる?」
「ああ、充分に驚いているように見える」
「そう。なら嬉しい顔もこれでいい?」
彼女のはまたあの笑顔で言う。
「ああ、嬉しそうに見える」
「ねぇミント。ほんとに私に教えてくれる?」
「ああ、約束する」
「……ありがとう。お願いするわ」
「礼は言えるんだな?」
「当たり前でしょ?気持ちはこもってないけれど」
彼女はやはりあの笑顔のままで続ける。
「それから……」
「まだ何かあるのか?」
「ちょっと苦しいから離してくれる?」
俺は、彼女を抱きしめたままだったことに今更ながら気づいて慌てて彼女を解放した。
「改めてよろしくね。ミント。私のことは言葉って呼んでくれていいわ」
「そっか、じゃ言葉。俺が絶対に教えてやるから楽しみにしていてくれ」
「ミント、あなた馬鹿なの?それがわからないから教えてくれるんでしょ?」
そう言って彼女は楽しそうな顔を作って嬉しそうな声を出して笑った。
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