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今更意識してどうする



「じゃあな」

「うん、バイバイ」

「また明日ね」

駿と詩織に声をかけて俺は教室をでる。

ちなみに沙織は補習を受けているから不在だ。あいつほんとよく入れたと思うわ。


俺はいつものように、屋上へと続く階段を上っていく。


「あれ?」

屋上に出ると、放課後にもかかわらず結構な人数の生徒がいた。

よく見てみると皆それぞれに楽器を持っている。


「吹奏楽部か」

この高校の吹奏楽部は、全国には僅かに届かないものの都大会では上位の常連らしい。

今年こそはと毎年この時期の大会に向けて頑張っていると聞いた。


「ご苦労さん」

俺は、素知らぬ顔で鉄塔へと歩いていく。


「ちょっと君!そっちは立ち入り禁止よ」

「ん?らしいな」

「らしいなって」

「だから?何か用か?」

俺に声を掛けてきたのは、吹奏楽部の女子だった。

黒髪ロングに眼鏡、ちょっとキツそうな顔立ち。まぁ美人ではあるが、こっちは毎日のように言葉を見てるからな。それほど何とも思わない。


「だから立ち入り禁止だからそっちに行かないでって言ってるの」

「はあ?立ち入り禁止なのはあの鉄塔だろ?」

「そうよ」

「別にあの辺りを歩くくらいいいんじゃないのか?それとも、歩くのも駄目なのか?」

「危険だから近寄らないほうがいいって言ってるのよ」

やれやれ、真面目が服着て歩いているようなヤツだな。


「お前が危険なわけじゃないだろ?もういいか?」

「お前って・・・あ」

俺は手をヒラヒラさせて通り過ぎる。

いちいち構ってたら日が暮れちまう。



「よっこいしょっと」

「ご苦労なことね」

「まったくだ」

鉄塔の上、夕陽を見ている言葉の隣に座る。


「あれ、誰だ?真面目が制服着てるみたいなヤツだったぞ」

「吹奏楽部の嶺岸《みねぎし》さんね。隣のクラスだから知ってるわ」

「同じ一年かよ?」

「ええ、彼女中学が同じだったから」

「なんだ、友達か?」

「まさか」

「そういやお前、ボッチだったな」

「違うわよ。相変わらず失礼ね」

すまん、すまんと俺は笑いながら言葉の頭をポンポンとする。


「ん?どうした?」

「えっ、ううん、何でもないわ」

珍しく言葉は言い淀んでそっぽを向いた。


屋上には吹奏楽部の演奏が途切れ途切れ聞こてくる。

「頭触られるのがイヤだったか?」

「違うわ・・・よ」

「なんだ?撫でて欲しいのか?」

「・・・・・」

言葉は無言で向こうを向いているから表情はわからない。まぁこっちを向いていてもわからないけど何となく撫でて欲しそうな気がした。


俺は、夕陽を見ながら言葉の頭をゆっくりと撫でてやる。

一瞬、言葉がビクッとしたが特に何も言うことなく撫でられている。

綺麗なサラサラの髪。撫でているこっちは中々に気持ちいい。


しばらくの間、そうやって撫でていると。

「もういいわ。何となくわかったから」

言葉はいつもの無表情で俺の方に向き直りそう言った。


「満足したか?」

俺は半ば茶化し気味に聞く。

「ええ、そうだと思うわ」

「は?何?」

「何じゃないわよ。満足したって言ったのよ」

俺を真っ直ぐに見て、いつもの無表情で淡々という言葉。

辺りに鳴っていた吹奏楽部の演奏は知らないうちに聞こえなくなっていて、野球部の掛け声が遠くでかすかに聞こえる。

そして、俺の心臓の音も。


おいおい、落ち着け俺。こいつとは何でもないだろ?ギブアンドテイク、win-winの関係だ。何を今更意識してるんだ?言葉だってそんなつもりはないはずだ。


俺は努めて冷静に、いつものように。


「まぁ満足してもらえて何よりだ。調味料代くらいにはなったか?」

「ちょっと足りないけど、いいわ」


言葉はあえて薄っすらと笑みを浮かべてそう言う。

このタイミングでこの顔は正直ズルイな。


「そ、そろそろ帰らないか?」

「そう?そうね。じゃあ、さようなら」

俺の動揺をよそに、言葉はあっさりといつものように鉄塔の階段に向かう。


「おう、じゃあな」

その背中に声をかけて、俺は屋上から出て行く言葉を見送った。


ふぅ、俺は1人鉄塔の上で息を吐き出して座りなおす。

この日の鉄塔から見る夕陽はやけに赤く見えた。








お読みいただきありがとうございます!

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