第5話(ロレアーヌ視点)
引き続きロレアーヌ視点です。
私が男を助けて3日たった。お父様は彼の身に何が起こったのかなどを調べているようだ。男は一命は取り留めたものの意識はまだ戻っていない。
「ロレアーヌ。話がある。私の部屋に来なさい。」
いつものように彼の看病をしていた時、お父様に呼ばれた。お母様が亡くなってから領地運営にしか興味を持たず、私とも会話らしい会話をしてこなかったのに、珍しいことだ。仕事では口下手なように見えない人だが、仕事から離れるとあまり話をしないお父様。もちろん育児放棄などはされてないし、ちゃんと愛してくれている。けれども感情表現がとても苦手なのだ。そんなお父様が呼ぶということは、領地のことかもしれない。王都で行われている王位継承権争いのせいで、うちの領地に引っ越しを希望している人が殺到している。そのことで何かトラブルでもあったのだろうか。
ノックをして声をかける。
「お父様。ロレアーヌです。」
「入りなさい。」
お父様の執務室に入る。領地でトラブルが起こりその事後処理の手伝いだと思っていた私に予想外の言葉が降ってきた。
「ロレアーヌ、しばらくあの男のそばを離れるな」
「…え…えっと…?」
突然すぎて全く反応できなかった。あの男とは3日前私が海岸で見つけた男のことだろう。離れるなということは、罪人なのだろうか…。
「罪人などではないぞ。ただ少し厄介な人物ではある。」
「厄介な人物…?どのような方なのですか?」
「…」
お父様が黙ってしっまった。聞かれたくない内容のようだ。身元を調べたときに何か私たちに関係あることがわかったのかもしれない。それに本人に許可なく過去を詮索するのはよくないだろう。でも、何故お父様は私に彼のそばを離れるな、と言ったのか…。
「お父様、彼のそばを離れるなとおっしゃられましたね。それは私に彼の護衛をしろ、という意味ですか?私のそばにはカロンもお父様が付けてくださる影の者もおります。あんな状態で倒れていたのです。彼が命を狙われている、ということなのでしょうか?だから、厄介な方、なのですか?」
「そうだ。」
そう言って再び黙ってしまった。これ以上の情報は話してくれそうにない。それだけ彼に何かあるということだろう。私は、わかりました、と答えてお父様の執務室を辞した。
自室に戻り、先ほどの会話を思い出してみる。カロンや影の者のおかげで、私は危険とは無縁の生活を送っている。彼らの腕前は確かだ。ザイナール伯爵は一部の貴族からや王族から煙たがられている存在だ。お母様も何者かに襲われて亡くなっている。だから私の護衛はかなり訓練されている者がなっている。私自身も槍を扱う。お父様はあの人を守ろうとしている。彼の正体が気になった。
「お嬢様。失礼いたします。お客様が目を覚まされたようですよ。」
カロンが入ってきて、3日間眠り続けていた人が目を覚ましたことを伝えてくれた。お父様は彼の正体を知っているようだし、彼に会ってみて正体を探ろうかと考えながら、私は彼がいる部屋へと向かった。
ロレアーヌさん、探る気満々だったのですね。
気が付いたら、ロレアーヌさんもお父様大好きっ子になっていますね…。
ザイナール伯爵は、寡黙な仕事のできるいい人ですよ!
娘が危ないことしないか、常にひやひやしてる苦労人です!