第4話(ロレアーヌ視点)
これまでの話のロレアーヌ視点です。
血だらけの人が倒れている。腹部に深々と刺さっている矢、それ以外にも何箇所も刀傷だと思われる傷があった。
私はいつものようにカロンと一緒に夜の海に出ていた。星空の下の海は格別に美しい。波の音を聞きながら散歩をする、それが私の日課だった。最初は夜に出歩くなと反対されたが、今では諦められている。私が剣術を修めていることも許されている原因だろう。
「うっ…。」
今日もカロンと2人だと思っていたが、不意に人の声がした。はっきりと聞こえないが確かに男の人の声だ。私たちは周りを警戒しながら帰ろうとしたが、できなかった。倒れている人を見つけてしまったからだ。
「カロン、屋敷に戻って医者とお父様達を呼んできて。」
「しかし、ロレアーヌ様。何者かわからないのに危険です。」
「なら貴方は私にこの人を見捨てろと?はっきり言って、生きてるのも不思議なほど怪我をしている。貴方は私ほど適切に処置ができない。適切な人選で、適切な判断だと思うわ。」
「しかし…。」
「お願いカロン。これは私の我儘。この人を見捨てたくないというね。この人がどこの誰か知らないけど、目の前に助かるかもしれない命があるなら、私は助けたいの。」
「…分かりました。行ってまいります。」
有難うと言う前にカロンは屋敷に向かって走り出した。手当をしようと男に近づく。辛うじて、意識があるようだった。その時男は満点の星空に向かって手を伸ばした。
まるで縋るように。
まるで死を熱望するかのように。
まるで助けを求めるように。
まるで迎えを待つように。
そして、
「母…さ、ん…。」
そう呟いた。
私は思わず天に向けられた手を握りしめた。手から力が抜けている。完全に意識をなくしたのだろう。
「絶対に死なせない。」
初めて会った人なのに、なぜかそう思った。この人は死なせてはならない気がした。心臓はまだ動いている。呼吸も浅いが確かにあった。私は着ていたスカートの裾を切り裂き、包帯がわりにする。男の服を破り捨てて、止血をし始める。矢に毒が塗ってある可能性もあったが、この状態なら、もう全身に回っている可能性が高い。傷口から吸い出そうとしても遅いだろう。なので止血を優先した。もうすぐ、お父様達が来るはずだ。それまで、少しでも出血の量を減らしておかなければ…。
その後すぐ医者を連れたお父様達がやってきて、男は屋敷に連れていかれた。男はもう命の心配はないらしい。どうやら毒は塗られていなかったらしいが、傷からの発熱で3日ほど意識を失ったままだった。
こんなキャラだったのか、ロレアーヌさん…。
想像以上に男らしい子になってしまいました。
ちなみにロレアーヌもカロンも短剣をドレスに仕込んでいます。そこら辺の男よりも普通に強いです。槍を持ったロレアーヌさんは、ザイナール伯爵がつくった私兵団の人たちよりも強かったりします。もちろん団長クラスになると負けますがね。普通の伯爵令嬢は夜に出歩かないので、本当に規格外のお嬢様にしてしまいました。
カロンも侍女兼護衛です。武術でいうとカロンの方が強いですが、怪我した人の処置などは、全然できない設定です。