表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

新婚妻の学校訪問 中編

「えい、よっ、とっ」


 かん、こん、と玉が跳ねる音がする。顧問の奥さんが卓球を物珍しそうに見ていて、顧問がしようと誘ったからだ。お前普段用意と片付けにしか触らないくせに調子乗んなよ。

 だけどそう言ってしまうと、奥さんもいい気分はしないだろうから黙って、俺らは自然と卓球を中止して奥さんを見守ることになっていた。


 そんな俺らに奥さんは不思議そうに一度振り向いたけど、すぐに納得したように、顧問を向いた。初めてすぐに、奥さんがミスって顧問の顔面にあてた時は爆笑したけど、すぐに普通にラリーを始めた。

 奥さんはけしてうまいとは言えないけど、いちいち掛け声をかけて一生懸命で可愛すぎる。てか、若すぎじゃね? いくつだ?


 そんなことを考えていると、きーんこーんと昼をつげる金がなった。元々お昼前だったしな。


「はい、おしまい。じゃあ、お昼一緒に食べようか」


 顧問は球をつかんで、にこりと奥さんに話しかけた。くそ、部活のこと忘れてんだろ。


「駄目です」

「え?」 


 ぷぷ。笑顔で断られてやんの。でもなんで?


「お、高文さん、ゲームしてたでしょう? お尻のポケットに入れたままよ。真面目にしないと駄目です。お仕事優先しなさい」

「う……わかったよ」


 おお、若い奥さんだけど、尻に敷かれてんだな。けけ。


「じゃあ私は、食堂に行くから。みんなもごめんなさいね、お邪魔して」

「! 奥さん! 良かったら俺も食堂派だから案内しますよ!」


 よっしゃあ! 今日はコンビニで昼飯買い忘れてラッキー!


「あら、気を使わなくても大丈夫ですよ? 場所はわかってますから」

「まぁまぁ!」

「ずるいぞ! 俺らも! 俺らも食堂派です!」

「嘘つけ! お前らパン買ってきてんだろ!」


 基本的に食堂の飯は食べ飽きてるし、そもそも土曜日は人も少なくて、カレーかうどんしかメニューがないから基本的に皆コンビニで買ってくる。忘れたときだけ食堂だ。


 揉め出す俺らに、奥さんはおっとりと頬に手をあててた。顧問が眉をしかめて俺らを向く。


「こら! 喧嘩はやめないか! 悠里ちゃん、ほら、揉めてるし、食堂なら僕も行くよ。お昼休みなんだから」

「いけません。私が何のためにお弁当を届けたと思っているの? 皆さんも、喧嘩をしないでください。最初からお昼を持ってきていなくて、食堂に行く予定だった方はいらっしゃる? もしそうなら、私でよければご一緒しましょう」

「はい! 俺だけです!」


 いやっほぅ!

 顧問の奥さんってことはわかってるが、それでもこんな美人さんと二人で食事とか超ラッキーだぜ! ついでに顧問の弱味もさぐってやるぜ。くくく。


 奥さんと二人で部室を出る。


「奥さん、俺、竹永政人です」

「竹永君ですね。私のことは、悠里と呼んでください。奥さん、なんて、おかしいわ」

「じゃ、じゃあ、悠里、さん?」

「はい」

「! じゃあ、悠里さんも敬語やめてくださいよ。年上なのに、変でしょ?」

「そうですか? まあ、そうね。じゃあ、そうします」

「敬語になってますよ」

「あら。ふふ、まあ、いいでしょう」


 あれ、何か強引に流された。おっとりしてるけど、顧問にびしっと言ってたもんな。気は強いのかも。気を付けよう。


 食事には、予想通り殆ど人がいない。

 悠里さんはうどんを頼んでいた。俺はカレー。


「あ、そうだわ、竹永君、悪いのだけど、私さっき、差し入れを渡すのを忘れてたの。後で、部室に持ってかえってくださらない?」


 悠里さんは食べ出す前に、私が戻ったらまた高文さんが構ってくるからと言って、鞄から荷物を取り出した。


「わー、あざっす! これは……饅頭っすか?」

「ええ。本当はスポーツドリンクにしようかと思ったのだけど、重いんだもの。疲れた時には甘いものもいいと思って」

「全然いいですよ! 嬉しいです!」


 水なんかは最悪水道水でもいいが、饅頭はそうもいかない。何より、我が卓球部に差し入れなんて、大会の時の母ちゃんのお弁当くらいだ! 甘味の差し入れ立ってだけで、ウルトラ嬉しいに決まってる!


「差し入れって初めてだから、色々悩んだのだけど、喜んでもらえてよかった」


 受け取ってから昼飯開始だ。

 ちょっとは悠里さんの固さもほぐれてきたっぽいし、色々聞いちゃおっかなー。


「あの、悠里さんて、お若いですけど、いくつくいなんですか? あ、嫌なら全然、答えなくてもいいんすけど」


 思わず一番気になってたことを聞いてから、慌てて様子をうかがう。こう見えて顧問と同い年とかなら、かなり失礼な質問だよな。


 だけど悠里さんは慌てることなく、微笑んで答えてくれた。


「構いませんよ。今大学生で、19歳なの。年が離れてるから、気になりますよね」

「だっ、じゅ、19!?」

「あら、見えない? もしかして私、フケてみえる?」

「や! や! 若いです! けど、若く見えるけど、やっぱり、びびります」


 嘘だろ。19って、俺と2個違いなだけじゃん。なんで顧問なんかと結婚してんだよ。しかもまだ大学生って。


「ふふ、まー、驚くよねぇ」


 悠里さんはおどけて笑う。そう言う砕けた口調を聞くと、あ、確かに同年代だと思わせる。

 だけどそもそも、そんな同級生みたいな口調でも、話し方がいちいちおっとりしていて、お嬢様オーラはんぱない。どうやって知り合ったんだ。


「な、馴れ初めとか、聞いてもいいっすか?」

「家が隣だからねぇ」


 それだけ!? くっそ! くっそ、なんで俺の隣の家はじじばばしかいないんだよ!


「あ、てか、大学ってどこすか?」


 悠里さんはふぅふぅとうどんを食べて、飲み込んでから控えめに微笑んで答えた。その大学は俺も名前を知ってる、偏差値高いお嬢様大学だった。


「ま、まじすか? あそこ、そうとうお嬢様しか入れませんよね? 学費もやばいし。大学からですか? 初等部もあるんすよね?」

「ああ……えっと、中等部からだけど、私は別にお嬢様じゃないわよ? その……と、特待生、だから」

「!? はぁ! まじすか!?」


 特待生って、頭いいってことじゃん! まじか! それ、そんな恥ずかしそうに言うこと!? もっと自慢しろよ! 謙虚すぎんだろ…………顧問と、全然釣り合わなくね?

 いや、だって顧問とか、嫌々顧問になったのまるわかりで、大会や道具とか、そう言うのはちゃんとやるけど練習中はゲームしたりして全然指導もしないし、ふっつーのおっさんじゃん。


 こんな若くて美人なお嬢様っぽい賢い人とか、どう考えてもありえねー。幼馴染みってだけでずりぃ!


「じ、自慢したみたいで恥ずかしいな。もうこのお話はおしまい。はい、ご飯も食べ終わるしね」


 そう言いながら悠里さんは最後の一口を口にいれた。俺はとっくに空になってる。


「ごちそうさまでした。よし、じゃあありがとう、竹永君」

「もう帰るんすか?」

「んー、野球部の見学をしてから帰ろうかと思ってるんだけど」


 うちの野球部は結構強いらしい。あんま興味ないけど、確かにクラスメートが野球部で、今年は甲子園行くぞって気合いいれてたな。


「じゃあ、俺も昼休みまだありますし、行きますよ」

「ん、嬉しいけどいいの?」

「もちのろんすよ!」


 考えたらまだ弱味聞いてないしな!


 悠里さんを連れて運動場へ向かう。道すがら、自然を装って聞いてみた。


「悠里さん、ところで顧問なんすけど、なんか弱味とかあります?」

「え、弱味? うーん、と、私? なんて、ふふ、違うわよね」


 いや、確かにそりゃ、人質にするには一番の弱味かも知れないけど、そう言う弱味じゃなくて。つーか可愛いな! こんな人妻ありか!


「えーと、どうして弱味が必要なのかしら?」

「顧問、めっちゃ不真面目なんで」


 思わず素直に答えると、悠里さんはむっと眉を寄せた。しまった! 相手がほんわかしてるから口が滑った!


「そうよね、本当にそうだわ。お、高文さんたら、教師になりたかった、なんていつも言っているくせに」


 あ、良かった。俺に怒ってるんじゃないや。


「いいわ、高文さんが不真面目なら、私にどんどん言ってちょうだい。メルアド交換しましょう」

「まじっすか」

「大まじよ」


 まじか! メルアドゲットしちゃった……ぐふ。


「あの、悠里さん。ついでに、その、お友だちとか、紹介してもらったりとかなんとか……お願いできたりします?」


 恐る恐る聞いてみると、悠里さんはきょとんとしてから、ちょっとだけ悪戯っぽく笑う。


「いいよ。でもあくまで、みんなで一緒に遊ぶ、くらいだけど」

「全然いいっすよ! 悠里さん最高!」


 ひゃっはー! 今日はウルトラハッピーデイだぜ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ