新婚妻の学校訪問 前編 (主人公のその後)
「ふんふーん、でんでーん」
休日のお昼前。とっくに掃除洗濯を済ませて、録りためてたドラマを見て、そろそろお昼。何食べよっかなー、て言うかなんかあったかなーと鼻唄まじりに冷蔵庫をあける。
「んー、ないなぁ」
今日はお兄ちゃんは部活の顧問として、学校に行っている。お兄ちゃんはまだ若手の方と言うことで、何かしら部活の顧問を断れない。
今年から、お爺ちゃん先生の引退に伴って、卓球部の顧問になった。その前の美術部の顧問は確か、新しい先生に引き継ぎだったかな。教頭先生も変わったし、私が知ってた前の時とは変わってて、それはなんとなく、嬉しい。
だけど卓球部は月に2回、土曜日も練習があるので、それは私としては面白くないけど、仕方ない。その代わり、前の美術部はコンクールが近いと時間が遅くなってたけど、卓球部は時間ぴったりだし、土曜日は朝10時から16時までの割りと短めだし、許す。
お兄ちゃんは別に卓球がうまい!天才コーチ!と言うわけではないけど、一応卓球部に兼部だけど入ったことがあるから選ばれた。そもそもうちの学校、卓球部強くなかったしね。野球だけはそこそこよくて、外部からコーチ呼んだりして、甲子園にも行ったことあるって聞いたことある。
とにかく、一応お兄ちゃんはお仕事頑張ってくるわけだし、晩御飯は好きなものでもつくってあげよう。そして、冷蔵庫は寂しいし、お昼もかねて買い物に行きますか。
野菜類やお肉はストックがあるけど、冷ご飯もないし、パンもないので食べるものがない。あるものから、晩御飯の予定を軽く考えつつ、エコバックと財布を持って外に
「あれ?」
玄関で靴を履こうとして、四角い物体が目にはいる。見慣れたお弁当箱だ。誰の? お兄ちゃんの。
「……あー、忘れちゃったのか。しょうがないなぁ」
別に今日は寝坊したりしたわけじゃないけど、お兄ちゃんが行きたくないなぁ、行ってらっしゃいのキスが欲しいなぁと駄々をこねたので、ちょっと出掛けにばたばたした。そのせいだろう。全く。
まあ、季節的には問題ないし、届けてあげるか。
「久しぶりだなぁ、学校」
と言うか、公立高校は二回目の人生ではじめてだ。ちょっとどきどきしてきた。外部の人間ってわけじゃないし、大丈夫だよね?
お兄ちゃんだけじゃなくて、弟の優生も在校生だし、関係者として入れるよね? あ、て言うか優生は野球部だけど、今日部活あるのかな? あるなら優生のことも見よう。
あ、そうなると差し入れも買わないと駄目かな? んー、てか、それなら卓球部にも必要だよね。
差し入れもだけど、その後買い物にも行けるようにエコバックと財布を、お出掛け用の鞄につめる。お弁当がはいるサイズで。飲み物はないから持っていってるだろうけど、一応持っていこう。
そだ、久しぶりに学食使おっと。わーい、懐かしいなぁ。
他の先生方に挨拶することもあるだろうし、お兄ちゃんが恥ずかしくないよう、ちゃんとした格好で行こう。彩ちゃんからもらったブランドものの大人っぽいワンピースとブラウスで、よしよし、清楚系に見えるぞ。
言葉もよそ行きで、読ちゃんの真似しておこう。本当は彩ちゃんの方がいいかもだけど、私には基本くだけてくれてるから、間違いそうだし。
「いってきまーす」
鍵をかけて、出発だ!
ロングスカートだから自転車は使えない。まあ歩いて20分ちょっとくらいだし、頑張ろう。
○
それは部活の練習中のことだった。やる気のない顧問が片隅でゲームをしてる中、俺たちはかんかんぽこぽこ卓球だ。
それほど熱心と言うわけでもないからいいけど、全国目指すような生徒がいたら一発でクレームものだ。まあ、そんなやつはこの学校こないだろうけど。
俺も土曜日の練習は2回に1回しかこないし、偉そうなことは言えない。部員も来てるのは半分の7人だけだ。
そんなだらけた練習風景の中、そろそろ昼休憩だ、と思っていると部室のドアがノックされた。三台の卓球台を出して、俺は休憩していたのですぐに返事をした。
「はーい?」
顧問は顔すらあげない。なんてやつだ。
俺の返事に、ドアは恐る恐る開いた。
「失礼します」
そして現れた人に、絶句する。どうせ他の先生だろとか思ってたのに、現れたのは知らない大人の女の人で、しかもめっちゃ可愛い、お嬢様っぽい人だった。ゆっくりした丁寧な動作でドアを開けて入ってきて、その一つ一つが、なんつーか、はんなりしててすげぇお嬢様っぽい。
声のトーンものんびりしてて、可愛い!
「あ」
「! え、悠里ちゃん!?」
俺が声をかけるより早く、お嬢様の声に反応して顔をあげた顧問が、驚きながら立ち上がって、ゲーム片手にお嬢様に近寄った。
え? 知り合いか? しょ、紹介してくんねーかな。
「どうしたの? こんなところにきて」
「高文さん、お弁当を忘れていたわよ」
「えっ、ほんとに?」
「嘘なんて言わないわ。邪魔してごめんなさいね、私はすぐに退くから、どうぞ部活を続けてください」
お嬢様は顧問の家族なのか? よくわからんが、お嬢様は鞄から顧問に弁当箱らしき包みを渡して、思わず手を止めていた俺ら生徒に微笑んで、踵をかえそうとする。
「せんせー! そのお嬢様紹介してよ!」
思わず俺は声に出していた。俺の言葉に、みんなもそうだそうだーと声をあげる。女子部員はたった三名で、今日は誰も来ていない。そんな状態で、女の子を見逃す俺らではない。
「邪魔なんかじゃないって! なんならずっといてください!」
「お前たち、静かにしないか。今紹介するから」
お嬢様は戸惑ったようにしつつも、微笑んで、顧問に促されるまま一歩前にでた。
「あー、ごほん。僕の奥さんだ」
「初めまして、皆さん。秋吉悠里と申します。いつも主人がお世話になっております」
「…………」
数秒後、絶叫が部室を支配した。