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新婚夫婦と読ちゃん 前編 (主人公のその後)

「悠里さん」

「ん? どうしたの? 読ちゃん」


 ある日のお昼休み、大学の食堂にて次の授業のテキストを確認していると、丸テーブルを挟んで向かいの読ちゃんは、何やらにこっとお嬢様みたいな微笑みを浮かべている。


 読ちゃんとも特に親しくなった高校から数えても、もう4年目の付き合いだ。最初こそ、美人で格好いいから、ちょっとくらい騙されて振り回されてもいいかな、と読ちゃんの奇行をおおらかに受け入れてきた。

 だけど親友として親しくなるにつれ、奇行の前兆のような綺麗な笑顔に警戒するようになってきた。

 今日は私と読ちゃん二人だし、おかしなことに頷かないようにしないと。


 これはファン気分から親友としてランクがあがってるんだけど、読ちゃんは不満そうに唇を尖らせた。


「最近の悠里さんは、素直に手のひらで転がってくれないから、少しつまらないわ」

「本人を目の前にしてそう言うこと言うかなー」


 まあ、そう言うところは相変わらず、面白いし好きだけど。きっぱりはっきり言うから、何言ってても大概気持ちよく聞こえるし。


「そんな私が好きなんでしょう?」


 読ちゃんは自信たっぷりだ。むー、仕方ないなぁ。


「はいはい、好きですよ。で、なに? 改まって」

「私、そう言えばあなたの恋人とちゃんと面識がないと思って」

「ん? そう? 何回か顔を合わせてるよね?」

「すれ違ってるくらいじゃない。顔を付き合わせてお話がしたいの」

「なんで?」


 そりゃ、改まって話はしてないだろうけど、でも別にする必要なくない? 年も違うし、読ちゃんは飲みにいこうぜってタイプでもないし。るいちゃんは未成年であることを自覚してほしいけど。


「したいからよ。別にあなたの彼氏をとりたいとか、逆にあなたを奪った彼氏が憎いとか、そう言うのではないから安心して」

「そう言うのは疑ってないけど。て言うか、彼氏じゃないし」

「ああ、旦那ね」

「……うん」


 この春に入籍し、まだ二ヶ月もたっていないので、照れる。


「ぷぷ。まだ照れてるの? 可愛いわ。キスしちゃいたいくらいに」

「してもいいよ?」

「む? それは挑戦と受け取ったわ。いいでしょう。この掛井読、口だけの女ではないことを証明してみせましょう。この口で。ふふ」


 読ちゃんは不敵に笑いながら腰をあげ、テーブルに手をついて顔を寄せてくる。そのままじっとしてると、読ちゃんは怯むことなく、私に唇をあわせた。

 びっくりした。さすがに途中でやめるかと思って余裕で構えてたら、本気でキスされた。


「フフン、どうよ」

「うん、びっくりした」


 女同士だし、まあ、読ちゃんなので何をする!とかって気持ちはないけど、こんな公衆の面前でどうどうとキスされるとはね。普通に驚いた。


「て言うか、反応ないわね。もっと照れてもいいわよ?」

「いや、言われてもなぁ」


 多少の気恥ずかしさはなくはないけど、注目されたことによってであって、読ちゃんとちゅーは初めてだけどそれだけのことだ。やっぱり私には女の子同士の気はないらしい。


「さすが、旦那もちは余裕ね」

「読ちゃんも平然としてるよね」

「ふん。私は掛井読よ? ファーストキスであろうと、関係ないわ」

「そこは動揺してほしいと言うか、むしろカウントしないで欲しいんだけど」


 こんなノリでしたキスをファーストキス扱いしないで。


「さて、で、話を戻すわよ高文君に会わせなさい」

「まあ、会わせることはやぶさかではないけど、君づけはやめようか」


 10年上だからね。私はたまにするけど、読ちゃん全然親しくないのにしたらおかしいよね? 友達の同世代の恋人のノリで呼ぶのはやめようね?


「何、その顔。嫉妬しているの?」

「してるから、その呼び方やめてくれる?」

「可愛いわね、嫉妬なんてしなくても、私はあなたの友達よ」

「違うよね。誰が旦那に友達をとられる心配をするかな。て言うか、とられるとかじゃなくて、年上相手に君づけは馴れ馴れしい感じだし、やめてくれない?」

「わかったわ、悠里君」

「……いや、なんで私を君づけしたの?」

「馴れ馴れしいと言ったから、あなたと馴れ合おうかと。ほら、あなた一応年上だし」

「読ちゃんの好意はわかりにくいよ」

「あら、こんなにわかりやすく愛してるのに? アイラァビュー」

「はいはい、ミートゥミートゥ」


 この、めちゃめちゃ絡みにくい独特の感じ、やっぱり面白い。お兄ちゃんを高文君呼びしたのも許せる。

 て言うか、私もいつまでお兄ちゃん呼びしてるのかって感じだよね。


 もう結婚したんだし、お兄ちゃんは何も言わないけど、変えないとなってさすがに思ってる。

 でもなー、冗談でたまに高文君って呼ぶけど、さすがにそう言うわけにもいかないよね。公の場では……やっぱり高文さん、とか?


 う、な、なんだろ。妙に恥ずかしい。でも普通に考えたら、結婚してもずっとお兄ちゃんの方がおかしいよね。


「ん? 悠里さん、おかしな顔をしてどうしたの? 私と高文さんをどう会わせてくれるか、考えてくれてる?」

「別のことを考えてる」


 て言うかあっさり呼んだな。まあ、読ちゃんはみんなのことをさん付けだから、それこそ違和感ないけど。さっきの君づけはほんとにおかしいよね。友達の私がさん付けで、飛び越えて君づけとかないわ。


「私、ずっとおに、高文、さん、のこと、お兄ちゃんって呼んでるんだけど、変だよね。どう変えようかと思って」

「え? 義兄妹プレイで背徳感を味わっているのではないの?」

「……違うよ」


 突っ込むのがめんどくさいレベルのやつきた。


「じゃあ、高文さんは悠里さんのこと、なんと呼んでいるの?」

「……悠里ちゃん」

「では、ちゃんにあわせて、それこそ高文君でよいのではなくて? もちろん、義両親なりなんなりの人前では、高文さんや旦那様に変えればいいけど」


 あれ、凄いまともで真面目な回答きた。でも、まあ、それが無難かなぁ。


「まあ、別に、無理に変える必要はないと思うけれど」

「え、そう? だって、お兄ちゃんだよ? おかしくない?」

「事情を知れば普通だし、なにより、その内自然と呼び方が変わるじゃない」

「ん?」


 え? なんで自然に? 自然の成り行きにまかせて今までもずっとお兄ちゃんなのに?


 きょとんとする私に、読ちゃんはにやぁと笑う。あれ、何か悪いこと言われるのかな?


「どうせ、すぐにお父さんとか呼ぶことになるわよ」

「……! す、すぐじゃ、ないもん」


 一瞬、え、お父さんてどゆこと? と思ったけどそうか! 子供ができたら、そう言う呼び方になるか! あ、あ……う、べ、別にかまととぶる気はない。避妊しつつもやることはやってます。

 だけと、子供はまた別問題と言うか。別の意味で、恥ずかしい。想定してなかった。いずれはだけど、学生のうちはつくるつもりないし。でも、子供…………お兄ちゃんの子供とか、すっごい可愛いだろうなぁ。


「ふっ、考えてることが丸わかりよ」

「! も、もう、恥ずかしいなぁ」


 そうこうしていると、次の始業を告げる五分前のベルがなった。移動しなきゃ。テキストを片付けて席をたち、じゃあまたね、と手を降ろうとして、


「じゃ、そう言うことで本日はお宅にお邪魔するわね」


 と読ちゃんが先に言って、返事も聞かずに颯爽と立ち去った。

 いいんだけど、ほんとに、唯我独尊カッケーだなぁ。








 放課後、読ちゃんは私とお兄ちゃんの愛の巣に着いてきた。お兄ちゃんがいないときには何度か来たことがある読ちゃんは、勝手知ったるとばかりに台所に立った。


「今日は私が料理をつくるわね。ささ、悠里さんは座っていて」

「え、うん。ありがと」

「格好は裸エプロンでいい?」

「絶対にやめて」


 いいよって言ったら例え冗談で言ってても本気でやるのはすでに、お昼休みで実感したので断固として拒否する。怪我したら危ない。


「私から裸になるのだから、その場合は我慢せず、後ろから突いてもいいのよ?」

「お願いだから、下ネタ方向に走らないで。読ちゃんは美人なんだから」

「そげぶ!」

「え、なに?」

「なんでもないわ。安心して。高文さんの前では猫を被るから。にゃーんって」

「そう言うことじゃないけど、まあ、それはそれとして、猫かぶりはお願いするよ」


 読ちゃんの本性を知れば、また呆れ顔で友達は選んだ方がいいなどと言われるのは見えている。縁切れよってことじゃないし、言われたから友達をやめることはない。

 だけど読ちゃんだけは、友達選んだ方がいいと言われても否定しきれない。さっきのキスだって、お互いにまったくその気のない同性だからスルーしてるけど、浮気っちゃ浮気だからね。


 読ちゃんは帰り道でスーパーに寄って買った食材を並べ出す。と言うか、さっきはてっきり読ちゃんが自宅でつくるのかと思って普通に一緒に買い物してたけど、夕食までここで食べていくのか。いいんだけど、一言あってもよかったんじゃ?


 まあいいや。お兄ちゃんにも読ちゃんのことは連絡済みだしね。


 メニューはホワイトシチューとハンバーグだ。煮込みハンバーグだから、崩れることはあっても半生だったり焦げすぎるってことはないだろうし、シチューも以下略。ルーを使って失敗することはないだろう。任せても大丈夫でしょ。

 読ちゃんの腕前は、ちょっとお手伝いレベルしか見たことないけど、独り暮らしだし、大丈夫だよね。


「ねー、読ちゃん」

「しっ、静かに! ここを宇宙だと思いなさい」


 荷物をがさごそして、包丁やまな板を用意しているっぽい読ちゃんは、こちらへ背を向けたままよくわからないことを言う。


「……どゆこと?」

「宇宙では空気がないから、声が聞こえないはずでしょう?」

「うん、だから?」

「今、私の指が4本になるか5本のままかの瀬戸際だから、静かにしなさい」

「手伝いたいなー! すっごい読ちゃんママのお手伝いしたいなー!」

「あらそう? ならば悠里ちゃま、こちらへ来なさい」

「はーい!」



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