結婚するの! 後編
「何か間違ってた? もし間違ってるなら教えて。私、お兄ちゃんの子供が欲しい。結婚したいよ。本気だよ」
「あ、あのな。えーと、どうやってお腹の中に入るかわかるか?」
「え? うーん、と、飲む?」
「全然違う」
うう、呆れられた。そんなあからさまにため息つかないでよぅ。
うーんと、えーと。あ、もしかしてお尻かも! よく考えたら下から赤ちゃんて出る…んだよね?
部屋が暗いとつい寝ちゃうけど、ビデオの時起きてた友達がそんな風に言ってたような?
「でも、どうやってお尻にいれるの?」
「は?」
「? あれ、お尻でもないの?」
「全然違う」
あれ? おかしいなぁ。あとは鼻か耳しかないし。あ、お腹だしおへそか。なんか機械使っていれるのかも。うん、間違いない。
んあ、でも間違ってたらまた呆れられるし……よし、とにかくお兄ちゃんは知ってるんだから、お兄ちゃんに任せよう。
「お兄ちゃん、私よくわかってないけど、赤ちゃん欲しい。なんでもするから、お兄ちゃん相手ならできるから、教えて」
「……すぐには無理だ」
「なんで? ちょ、ちょっとくらいなら痛くても、我慢できるよ?」
出産って凄く痛いんだよね。ちょっと恐いけど、お兄ちゃんのためなら我慢だ!
「お前は、ほら、まだ小さいから」
「大人だもん。もう生理きてるから、赤ちゃんつくれるよ」
「……あ、あのな、そういう問題じゃなくてな。体格が小さいと、子供はつくれないんだ。法律で、女は16才になってからしか結婚できないんだ」
「そうなの!?」
「ああ」
そんなっ。あと六年も結婚できないなんて……ひ、酷すぎる。なんなの法律って。いや、流石に法律の意味くらい知ってるけど。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「……あ、あのな」
「うん」
「……お前、ほんっとーに、俺のこと好きなんだよな?」
「当たり前だよ! 世界一好き!」
お兄ちゃんが真剣に私を真っ直ぐ見つめながら緊張してるみたいな声で言うから、私はお兄ちゃんにちゃんとわかって欲しくて力強く答えた。
「お、おう……じゃあ、な。大人になったら、教えてやる」
「大人っていつ?」
「こ、高校生、かな。それまでは恋人、それでいいか?」
「うーん。高校生かぁ。……わかった」
とりあえずお兄ちゃんも私のこと好きって言ってくれたし、形だけでも恋人なんだから、くっついて私以外見ないように見張っとけばいいか。
「ほ、ほんとにわかったか?」
「うん。きせーじじつは我慢する」
「そうじゃなくて、恋人ってことは、その子供ができる前のこともするってことだぞ」
「前ってキスとか?」
「そ、それとか、た、例えばだぞ?」
「うん」
「む…」
「む?」
「胸を、触るとか」
「え、えっちなことしたいってこと!?」
「ば、馬鹿声がでかい。あのな、恋人ってのは、えろいことするもんなんだよ。というかな、えろいことってのは子供をつくる練習みたいなものなんだ」
「ええ? 赤ちゃんつくるのにおっぱいさわったりするの?」
「する」
「えっと、じゃあ、大人になるまでは恋人として練習して、大人になったら本番で子供つくってくれるってこと?」
「まあ…そうなるな」
「……私、おっぱいちっちゃいけど、いいの?」
「ああ」
力強く頷かれてしまった。ううん。もしかしてお兄ちゃんが私を彼女にしてくれたのは、単にえっちなことがしたかっただけ? でもなんだかえっちなことも結婚には必要みたいだし……よし。
「い、嫌か? 別に痛いこととか、嫌なことはしないぞ?」
「嫌じゃないよ」
「ほんとか?」
「うん」
恥ずかしいけど、もうパンツ見せてるし、最近どさくさにお尻とか胸に触れられたりしてたし、今と同じだよね。
それで恋人の地位をキープできるなら安いものだ。
お兄ちゃんなら嫌じゃないし、お兄ちゃんがしたいなら恥ずかしいのは我慢する。
「そ、そう、か…」
「う、うん。お兄ちゃんなら、いい」
それに、本当に本当のことを言うと、お兄ちゃんには秘密だけど、えっちなことされるの、ドキドキして恥ずかしいけど、嫌いじゃない。
むしろ、秘密をつくってるみたいで、私のこと女の子と見てる証拠みたいで、ちょっと、嬉しい。
「お兄ちゃん……私、年下だけど、恋人として、ちゃんと、女の子として大事にしてくれる?」
「……ああ、お前は子供だけど、ちゃんと、女だってわかってるよ。女の子として、大事にする」
どれくらい好きと思ってくれてるのか、よくわからないけど、少なくともお兄ちゃんは本気で私を意識して、私を恋人にしたいと思ってくれてる。他の誰かじゃなくて私で、結婚の練習をしたいと思ってくれたる。
それで十分だ。最終的にお兄ちゃんと結婚できるかは、私の頑張りしだいだ。
「ねぇ、キス、してくれる?」
お兄ちゃんは顔をあかくしながら、
そっと私にキスをしてくれた。
○
それからはセクハラレベルのスキンシップから始まり、ちょっと人に言えないくらいのことはしたけど、お兄ちゃんはちゃんと雰囲気と私の気持ちを優先してくれたから、嫌ではなかった。
むしろ目を輝かせる姿は可愛くてますます好きになった。
そして今、お兄ちゃんから旦那様になって、お父さんになった。
こうして思い返して、やっぱり好きだなぁと思う。
何年もたっているのに、今だって凄く大好きだし、結婚できてよかったと心から思える。
いつか時がたっても、娘も同じように思うのだろう。それは考えるだけで幸せな気持ちになる。
「なにしてるんだ?」
「あ、お父さん」
「お、悠里の新しい写真か。いいな、うん、実にいい。横のはいらんが」
「もう、無意味にそう敵意のある言い方しないの。高文君がいるから、悠里ちゃんもこーんな素敵な笑顔なのよ」
わかってる?と聞くと、ちょっとだけ面白くなさそうな顔をしてから、眉をさげた。
「わかってるが、お義父さんが俺にだけつれない理由が、今ならわかる」
「お父さんはあれでもあなたのこと好きよ。一回、敷居を跨ぐなって言っちゃったのを未だに気にして素直になれないだけで」
「……まあ、嫌われてないのはわかってる。別に高文君が嫌いなわけじゃないが、いや、やっぱり気に入らないな」
「もう。お兄ちゃんには私がいるでしょ」
最近お父さんの頑固さが似てきた気がするその態度に、少し呆れる。自分は散々私のお父さんに反対されて悪態ついていたのに。
「それとこれとは……っていま、お兄ちゃんって言ったか?」
「懐かしい? 嬉しい?」
「……勘弁してくれ。この年では、さすがに恥ずかしい」
「勘弁しない。お兄ちゃんは、私だけ見てればいいんだから、ね」
「……全く、かなわないな」
写真立てを置いて、昔よく言った我が儘を冗談まじりに言いながらそっと近寄ると、苦笑しながら私にキスをしてくれた。
これから時がたてば、その内家に2人だけになるだろう。それは少し寂しいけれど、でも、2人だって悪くない。
だって元々、結婚したかった理由は、2人だけの、新婚さんのイメージに憧れてだったんだから。