結婚するの! 中編
私はお兄ちゃんの恋心を認識してから、どうしたら私を女の子として見てくれるか。どうしたら結婚してくれるのか考えた。
そして結論は、『きせいじじつ』を作ることだった。ようは、子供をつくればいい。
私にもこの間生理がきたから、もう大人だし、結婚できるもんね。
授業だけでは、実はイマイチどうするのかわからなかったけど、お兄ちゃんは大人だから知ってるに違いない。
「お兄ちゃん」
「わ、な、なんだよいきなり。どうした?」
「んー、ちょっと邪魔。本とれないぃ」
「あ、ああ、マンガか。ほら」
「ありがと」
どさくさにまぎれるようにして、思い切ってお兄ちゃんに抱きつくように体をくっつけた。
胸を意識してくっつけたけど、どきどきしてしまってすぐに離してしまった。
でも、お兄ちゃんもちょっとくらいは意識してくれた…よね? うーん。どきどきして恥ずかしくて、お兄ちゃんの顔真っ正面から見れないし、よくわかんない。
もっと頑張らなきゃ。
恥ずかしかったけど、お兄ちゃんが相手、お兄ちゃんに女の子として見られるため、と思うと嫌ではない。
お兄ちゃんの前では少しスカートを短くして、わざと足を開け気味にしゃがんだり、隙あらばスキンシップをはかった。
最初は戸惑うように目をそらしていたお兄ちゃんだけど、パンツが見えてるなんて注意はされなかった。
ある日、お兄ちゃんの前でだらしなくするのがくせになった私は、無意識に膝を開いてベッドにもたれてた。
「……あ」
はっと気づくと向かいにいたお兄ちゃんは、角度的に明らかに私のパンツを見ていた。
「ん!? ど、どうかしたか?」
「う、ううん、何でもない」
「そうか」
一つ頷いたお兄ちゃんは何でもないみたいに手元の漫画に視線を落とした。
どきどきと、心臓がうるさい。
「……」
なんだかムズムズする。ドキドキしてたまらない。そっと膝を閉じる。
わざと見せてた時ももちろん恥ずかしかったけど、でも無意識で、しかもあんな食い入るように見られると、どうしていいかわからない。
頭がおかしくなりそうだ。体が熱い。恥ずかしくてたまらない。
でも、嫌じゃない。お兄ちゃんは、少なくとも私を女の子として見てる。それが証明された。嬉しい。
お兄ちゃんならもっと見ていい。お兄ちゃんだけ特別。お兄ちゃんが好き。大好き。お兄ちゃんと結婚したい。
私はお兄ちゃんへの思いを改めて強め、結婚することを絶対の目標に定めた。
○
そうこうしていると、夏休みになった。最近ではお兄ちゃんからスキンシップをはかってくれるようになったから、だいぶ進展したと思う。
暑くなるにつれて薄着にしたのもよかったのかも。
「おばさん、お兄ちゃんいるー?」
「いらっしゃい」
「お邪魔しまーす。お兄ちゃんは?」
「寝てるよ。起こしてもいいけど、あんまり近付かないでやってね」
「うん」
お兄ちゃんの部屋に行くのももはや習慣化してるので、すんなりスルー。
「お邪魔しまーす」
「くー…すぴー…」
部屋にそっと入ると、お兄ちゃんは寝ていた。そういえば、寝起きや昼寝はともかく、こうして熟睡してるお兄ちゃんを見るのは初めてだ。
「おーにーいーちゃーん?」
揺らしても起きない。昨日は夜更かしだったのかな。
「……」
規則正しく呼吸をするお兄ちゃんをじっと見てると、何だかどきどきしてきた。
もう一回してるんだから、キス、してもいいかな? いいよね? お兄ちゃんも私を女の子として見てくれてるはずだし、寝てるんだからわからないよね?
「……ん」
いきなり口ははしたないから、頬にキスした。
どきどきして汗がふきだしてくる。幸せだ。
二回頬にキスしてから、最後はもちろん、唇だ。うう、寝てるお兄ちゃんに勝手にすると思うと、緊張するなぁ。
どきどき。
「……」
「……なに、してんだ?」
「あ……お、起きた?」
もうちょっとだったのに、お兄ちゃんが起きてしまった。
「こ、これはその……」
うう、恥ずかしい。でもどうせ私がお兄ちゃんを好きなのも、今何をしてたかもバレてるんだ。
正直に言った方が許してくれる、よね?
「お兄ちゃんに、キスしようとしてました……ごめんなさい。許してください」
「お前、いや、そんな、怒ってはないから、とりあえず顔あげろよ」
顔をあげるとお兄ちゃんは頭をかきながらも、視線をあっちへやったり私に向けたりと忙しい。
「あ、あのな、まあ、俺が言うのもなんだけど、軽々しくキスしようとすんな。まして寝込み襲うとかやめろ」
「……ごめんなさい」
襲うとか言われた。お兄ちゃんからするとそうなの? ひどい。私はただお兄ちゃんが大好きなだけなのに。
「だいたい、ていうか、俺じゃなかったらやばいぞ」
む! その言葉はいくらお兄ちゃんでも聞き捨てならない!
「お兄ちゃんひどい。私がお兄ちゃん以外にキスすると思ってるの?」
「え、ああ、いや、そういうんじゃなくてだな。なんというか」
「私がお兄ちゃんのこと好きなの知ってるくせに、ひどいよ」
「え?」
「?」
お兄ちゃんは何故か驚いたように私を凝視する。なにその反応。私こそえ?って言いたいんだけど。まさか気づいてなかったってわけじゃ……まさか、ねぇ?
「私、お兄ちゃんのこと好きだよ。前から言ってるでしょ」
「あ、ああ。そうだな。いやまあ、そうだけどな。でもお前も女の子なんだから、気安くそう好き好き言ってると勘違いされるぞ」
お前結構可愛いんだからな。
と続けられた言葉と苦笑じみた笑顔に飛び上がりそうになるけど、ちょっと待った。
は? 勘違いってなに? もしかして、お兄ちゃんが私を妹分に見てるとか子供扱いであしらわれてるとか以前に、私の気持ちが伝わってない?
「……」
「反省したなら、そこまでしょげなくてもいいぞ。ほれ、マンガ見てていいぞ。俺は顔洗ってめし食ってくるから」
お兄ちゃんはぽんぽんの私の頭を叩くと部屋を…って、誤解させたままじゃダメ!
「お兄ちゃん!」
「うお、な、なんだよ。暑いからくっつくなよ」
「一昨日はお兄ちゃんから抱きついてきたくせに」
「ばっ、おま、人聞きが悪い。あれはプロレスにはまっててだな」
私はお兄ちゃんの後ろから腕をまわしてくっついて、ぎゅっと抱きつく力をこめる。少しだけ大きくなってきてる胸を押し付けるとどきどきした。
「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんが好きだよ。恋人になりたい好き、だよ」
「は、ま、まじで言ってんのか?」
「冗談なんかでこんなこと言えない。お兄ちゃん、こっち向いて」
「……」
腕をとくと、お兄ちゃんは黙って私を向いた。戸惑っているお兄ちゃんの右手をとって、ゆっくり、私の胸にあてた。
「おっ、おま、なに」
「聞こえない?」
「はぁぁ?」
「私、すごくどきどきしてるよ」
「……聞こえる。すげぇな。お前、マジで俺のこと好きなのか」
「うん。まじ」
私はお兄ちゃんの手を離して、真正面から抱きついてお兄ちゃんを見上げた。
「お兄ちゃんが写真の女の子のこと好きでも、私の方が、お兄ちゃんのことずっと前から好きなんだから」
「あ! いや、あのな、あの写真はべつに、好きとかそんなんじゃ…」
「え? 好きって言ってなかった?」
「似たようなもんって言っただけだ。憧れっつーか、俺とか相手にされてねーし。好きとかそんなんじゃねーよ」
あ、あれ、そうなの? うーん。そう言えば、ゆみこちゃんもアイドルの写真持ち歩いてるけど、高藤君のこと好きだしなぁ。まあいいか。あの時私が眼中になかったのは本当だし。
「じゃあ私のことは? 好き?」
「……さあ。わかんねーな」
「はっきりしてよぅ」
「……今までは、そう見てなかったけど、言われてみれば、お前可愛いし、いやぁ、好き、かもなぁ」
「ほ、ほんとに!?」
「あー、うん」
「じゃ、じゃあ、私のこと、恋人にしてくれる?」
「おう」
「!」
うわあぁっ! なにこの展開! 夢みたい! 凄い!
正直お兄ちゃんの反応からして私に恋してたなんて思えないし、お兄ちゃんと長年一緒にいた私にはお兄ちゃんが嘘ついてるくらいわかる。
わかるから、さっきの憧れうんぬんが本気で言ってるのもわかる。
お兄ちゃんが恋人という存在に憧れて、都合よく私がいたからオーケーしたのだとしても、私は全然構わない。
結婚しちゃえばこっちのものだ。
「お兄ちゃん…大好き」
顔をあげて爪先立ちになって、目を閉じた。お兄ちゃんは私にゆっくりキスをした。
○
お兄ちゃんと恋人になって一時間。
具体的に言うとお兄ちゃんが着替えたり朝ご飯食べたり簡単に掃除したりしてた。
一息ついてさて、どうするか。
お兄ちゃんと恋人になれて嬉しい。だけどそれで満足してはいけない。私の目標は結婚することだ。
恋人になったからと言って等浮き足立って場合じゃない。私は舞い上がりそうな気持ちを抑える。
「お兄ちゃん」
「お、おう」
付き合いだしてから妙に落ち着きのないお兄ちゃんを微笑ましく思いつつ、私はそっと、お兄ちゃんに近づく。
「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんの子供が欲しい」
「ぶっ………は、おおおま、え? は? い、いい意味分かって言ってんのか!?」
「うん。お兄ちゃんと結婚して、お母さんになるってことだよね。」
「…質問を変えるぞ。お前、どうやったら子供できるか知ってんのか?」
「えっと、お兄ちゃんの精子を私のお腹の中で卵子と受精させるんだよね。あれ、なんか間違ってる?」
「間違っちゃいねぇけど」
「?」
あれ? おかしいなぁ。基本的に生き物はみんな同じかんじって習ったのに。